ストーリー柔道

兄妹で五輪金メダルを目指す!阿部一二三と詩の道のり

2020-02-20 午前 0:31

柔道史上初となる兄妹でオリンピック金メダルを目指すのが、阿部一二三(ひふみ)選手と詩(うた)選手です。東京オリンピックに向けて代表を勝ち取ろうとする2人の戦いを追いました。

日本の伝統 “一本を取る柔道”

 

これまで柔道で39個もの金メダルを積み重ねてきた日本が貫いてきたのは、“一本を取る柔道”。その伝統を受け継ぐのが、男子66キロ級の一二三選手と女子52キロ級の詩選手です。

 

 

世界が憧れる日本の“一本勝ち”。阿部兄妹が得意とするのは、袖釣込腰(そでつりこみごし)という技です。この技は、相手選手が弧を描くように飛ぶのでインパクトがある技として世界からも注目を集めています。

 

 

まずは、袖をつかんで相手の左腕を大きく釣り上げます。そして体を回転して相手のふところに入り、自分の背中から腰にかけて相手を乗せてそのまま背負投げのように投げる技です。警戒して襟を持たせてくれない相手からでも、袖をつかむことで一本を取れるのです。

 

しかし、両袖を握ってできる技は限られているため、相手に技を予測されてしまうという点で難しい技でもあります。

相手に気づかれない技術

阿部兄妹は、どのようにして相手に気づかれずに袖釣込腰で一本を取っているのでしょうか?一二三選手と詩選手の技を見てみましょう。

 

通常、相手を投げるためには相手の重心を投げる方向に向かせ、体勢を崩す必要があります。この崩しがあると、技をかけるタイミングが分かってしまい防御しやすくなるのです。

 

白が投げる選手

 

しかし、一二三選手は体を回転させて相手のふところに入るまでが速く、相手に崩しを悟られることがないまま、一瞬で技に入っていくことが分析により分かりました。

 

一二三選手の動きを分析すると、相手に崩しを悟らせず素早くふところに入り込んでいた

 

一方、詩選手は体の向きで相手に気づかれない技術がありました。

 

技をかけられる側からの視点。詩選手と他の選手では上半身の向きが違う

 

袖釣込腰をかける直前の動きの違いを相手の目線から比べてみます。通常、投げる選手の上半身と下半身はほぼ同時に投げる方向に向くため、上半身の動きを見れば技に入ろうとしていることが予測できます。しかし、詩選手の場合は下半身が投げる方向を向いていても、顔と上半身はまだ正面を向いています。

 

 

その後、上半身が下半身と同じ方向を向くまで、わずか0.2秒。タイミングを悟らせない、このわずかな差で相手の防御は間に合わなくなってしまうのです。
了徳寺大学教養部の石井孝法准教授によると、「上半身が遅れることがフェイントにもなりつつ、動き出しも読み取られにくい。気付いた時には、もう技に入られている。」のだそうです。

お兄ちゃんの後を追って

 

兄妹での活躍が注目される2人ですが、妹の詩選手は常に兄の後を追い続けてきました。長男である勇一朗さんが、一二三選手の原点を教えてくれました。

 

 

下の写真は、小学生の時に初めての試合で負けてしまった後、一二三選手がすぐに父親に頼んでトレーニングを始めた時のものです。

 

 

これが一二三選手にとって強くなる一歩目だったと勇一朗さんは振り返ります。

 

「普段から負けず嫌いでしたけど、この時は本当に強くなるんだと決めたと思います」

 

体の小さかった一二三選手でしたが、体幹や足腰を鍛えていきました。小学生の時に指導をしていたという高田幸博さんも、「たとえ体が大きくても、跳ね返されるとわかっていても正面から立ち向かう」と当時の様子を振り返ります。

 

 

一方の詩選手は、ボウリングや水泳など一二三選手のやることはすべて追い続けました。5歳で始めた柔道も兄の影響でしたが、勇一朗さん曰く「(柔道は)詩が一番センスあったと思います。最初は遊びでやっていたのに、試合で見ていて映える動きをすごくしているのが印象深いですね」。

 

2人を小学校高学年から指導する松本純一郎監督が2人に教えたのが、“腰で投げる技術”でした。

 

 

松本監督:「合わせるではなく、上げる感覚。腰に乗せる感覚を大事にさせました」

 

努力が実を結び、一二三選手は高校2年生で出場した2014年のユースオリンピックで優勝。そんな姿を見ていた負けず嫌いの詩選手は、一二三選手の試合を動画で観て、気付いたことを書いて研究する“詩日記”を始めました。

 

 

松本監督:「一二三がどんどん強くなっていったら、“一二三の妹”と詩が呼ばれるようになる。そしたら、“詩のお兄ちゃん”と言わそうと。お兄ちゃんに追いつき追い越せと言っていました」

 

一二三選手が17歳で国際大会初優勝を決めると、3年後には詩選手が16歳で国際大会優勝。また、20歳で一二三選手が世界選手権で優勝すると、翌年には詩選手が18歳で世界選手権を制し常に後を追ってきました。

それぞれのライバルに挑み、一緒に東京へ

歴史に残るライバル関係

ともに東京で金メダルを獲ることを目指す2人の前に、それぞれのライバルが立ちはだかります。

 

一二三選手にとって最大のライバルは、内股や巴投げを得意とする丸山城志郎選手です。

 

 

4月に国内大会で対戦した時は、一進一退の攻防が続くも延長戦の末に丸山選手が勝利しました。

 

丸山選手:「これから先(一二三選手に)すべて勝って、(東京五輪)代表をつかみ取りたい」

 

1枠をめぐるオリンピック代表の争いは、激しさを増していきます。一二三選手は、足で崩してチャンスを作り得意の担ぎ技につなげられるように足技の強化に取り組みました。

 

しかし、8月に日本武道館で行われた世界選手権。準決勝で丸山選手と対戦し、再び延長戦の末に敗れました。

 

対戦してこなかったからこそ怖い存在

詩選手にも強敵のライバルがいました。それは、リオデジャネイロオリンピック女子52キロ級の金メダリストであるマイリンダ・ケルメンディ選手です。

 

 

コソボ初のオリンピック金メダリストであるケルメンディ選手の武器は強烈な左手。パワーのある左手で相手の背中をつかみ、強引に相手を引きつけ攻撃を封じるのです。

 

それまで詩選手は外国人に負けなしの40連勝でしたが、ケルメンディ選手とは1度も戦ったことがありませんでした。

 

 

けがから復帰したケルメンディ選手が出場する2019年の世界選手権に向け、詩選手は40か国から600人が集う国際合宿で体の大きな選手と組み、背中を持たれた状態から仕掛ける攻撃を練習しました。

 

 

そして、世界選手権の準決勝では背中をつかんでくるケルメンディ選手に対して距離をとり、先に技を出すことで攻めさせず一本勝ちで最大のライバルを倒しました。その後の決勝では、得意の袖釣込腰を決めて見事優勝しました。

阿部兄妹が世界の舞台で戦う!

2月にドイツで開催された国際大会「グランドスラムデュッセルドルフ」では兄妹で同時優勝。この大会の結果を含むこれまでの国際大会の実績などから詩選手が東京オリンピックの日本代表に内定しました。

一方、一二三選手の男子66キロ級はことし4月に行われる予定の全日本選抜体重別選手権の結果を踏まえて代表の内定が決まることになっていて、一二三選手は丸山選手と激しい代表争いを続けています。

 

兄と妹で切磋琢磨しながら同じ夢を追いかける2人に注目です!

詩選手:「お兄ちゃんは高校生の時は追いつきたい存在でした。でも今は、2人で一緒に頑張って東京オリンピックで優勝するっていう目標を持っています。引っ張ってもらうばかりじゃなくて、自分の頑張っている姿でお兄ちゃんに刺激を与えられたらいいなと思うようになりました」

一二三選手:「お互い目標は一緒で見ているところは一緒なので、お兄ちゃんとして自分自身も頑張らないといけないなと思っています。妹っていう存在があるから、自分自身も強くなれているのかなと」

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