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"水着"?で大都会を疾走! 東京五輪トライアスロンの楽しみ方
2020-03-19 午後 06:39

トライアスロンというと、スイム(水泳)、バイク(自転車ロードレース)、ラン(長距離走)の3種目を一人でこなして、持久力を競う過酷な鉄人レースというイメージを持つ方も多いでしょう。ところが、オリンピック競技のトライアスロンは、かなり様子が違います。水着のような水陸両用のウェアを着てスイム1.5km、バイク40km、ラン10kmの合計51.5kmを短時間で駆け抜けるスピードレースなんです。選手たちは駆け引きを繰り返し、デッドヒートを繰り広げます。男子の優勝タイムは1時間45分ほど、女子でも2時間を切る速さです。
レースの舞台は、レインボーブリッジや観覧車、高層ビル群が立ち並ぶお台場。“大会史上最も都会的なコース”を疾走します。世界のトップ選手の走りを目の前で見ることができる絶好のチャンス、“にわかファン”が熱くなれる楽しみ方を、トライアスロン日本代表として4度のオリンピックに出場し、NHKのトライアスロン解説でもお馴染みの田山寛豪(ひろかつ)さんに聞きました。
スイム1.5km 集団の中心でなく“端っこ”を見よう
最初はスイムです。お台場海浜公園の海1.5kmを約20分で泳ぎ切ります。55人の選手が一斉に海に飛び込むスタート。誰がトップに躍り出るかに目が行きがちですが、田山さんによると、注目すべきは集団の中心ではなく“端っこ”だそうです。
日本トライアスロン連合(JTU)公式コメンテーター/流通経済大学 助教 田山寛豪さん
田山寛豪さん
有力選手たちが両端に集まるからです。スタートのポジションは、世界ランキングが高い選手から優先的に選ぶことができますが、有力選手は選手同士の手足が水中でぶつかり合うバトルを避けるために端を選ぶんですね。例えば1位の選手が右端を選んだら、2位の選手は左端といった感じです。なかには、あえて優勝候補をマークしようと、同じサイドを選ぶ戦略を取る選手もいます。ですから、レースが始まったら、まずは両端にいる選手の動きに注目してください。
スイムのコース
田山寛豪さん
スタート時、端にいた有力選手たちは、第一ブイを目指してだんだん中央に寄っていきます。そして「誰が第一ブイを最初に抜け出すか」がスイムの最重要ポイント。第一ブイを制した選手が、その後のレースを有利に進められるからです。ブイを通過する時、内側のコースを通るインだと最短コースになりますが、他の選手とのバトルが起きやすい。一方、外側を通るアウトから行くとバトルは起きにくいですが、余計に泳ぐことになります。一流の選手がどのように第一ブイの攻防に臨むかが見どころですね。
ジェシカ・リアマンス(イギリス)
田山寛豪さん
スイムの注目選手は、女子はイギリスのジェシカ・リアマンスです。水の抵抗を最小限に抑えた、魚のようなキレイな泳ぎをします。息継ぎをする頻度が他の選手よりも少ないのも特徴で、その分、タイムを短縮してきます。
バンサン・ルイ(フランス)
田山寛豪さん
男子は、フランスのバンサン・ルイですね。体幹が安定していて、腕を回すピッチが速く、他の選手を寄せつけないバトルの強さを持っています。ルイ選手がスイムで第一グループから脱落することは考えにくいですね。スイムが強いだけでなく、バイクとランの3種目の総合力が高いので、メダル候補のひとりです。
バイク40km 秀逸な“コーナーテクニック”は見逃せない
スイムの次はバイク。40km(5km×8周)、約60分間走ります。今回のバイクコースは、コーナーがなんと1周20か所、合計160か所もあり、かなりの高難易度。特に180度方向転換するUターンが3か所もあり、その度に減速を余儀なくされます。Uターンの攻防をどのように制してレースを有利に進めるのか、コーナーテクニックは、絶対に見逃せないポイントです。
バイクのコース
田山寛豪さん
いったん減速してコーナーを回り、直線に戻ったところで一気に加速するのがUターンの走り方です。順位の入れ替えが起きやすいので、見応えがありますよ。バイクの得意な選手は、1周目のUターンから仕掛けてくるので、秀逸なテクニックや駆け引きを見ることができます。
フローラ・ダフィー(バミューダ諸島)
田山寛豪さん
女子の注目選手は、北大西洋に浮かぶイギリス領バミューダ諸島のフローラ・ダフィーですね。バイクでは別次元の強さを誇ります。マウンテンバイクの選手だったので、その時に培った状況判断力を武器に、お台場のテクニカルなコースもミスなく攻めていくでしょうね。
強い空気抵抗を受けながら走る自転車レースには、先行する選手の真後ろについて、空気抵抗を避けて走る「ドラフティング」という走り方があります。オリンピック競技でのトライアスロンは、この「ドラフティング」が認められているため、ライバルの選手同士が、“即席チーム”をつくって、体力の消耗を防ぐ場面がみられるはずです。
日本トライアスロン連合(JTU)公式コメンテーター/流通経済大学 助教 田山寛豪さん
田山寛豪さん
ライバル同士で協力し合うというのは、他の競技では中々見られない不思議な光景です。ドラフティングがうまくいっているかどうかは、先頭の選手を見れば分かります。先頭の選手がくるくると入れ替わる場合は、“即席チーム”作りが成功していて、効果的なドラフティングできている証拠です。先頭グループがドラフティングに成功すると、後方を走る選手が追いつくのは、かなり厳しくなります。
グスタブ・イデン(ノルウェー)
田山寛豪さん
「協力し合う」という意味では、男子のノルウェーチームは必見ですね。彼らは、チームで仕掛けてきます。例えば、一人の選手が逃げるような動きを見せたら、二人目の選手は逆にペースを落として、集団全体のペースを下げるような動きをします。同じ国の選手を援護するわけです。ノルウェーの選手の動きは、全体を惑わせることがあるので、レース展開がより面白くなりますよ。
ラン10km 3周目“足の削れ”と“仕掛け人”に注目
3種目はランです。お台場海浜公園駅の周辺を10km(2.5km×4周)、約30分間走ります。起伏のないフラットなコースで長い直線が続くので、前や後ろを走る選手との距離が確認しやすく、また、ビルや高架橋によって直射日光が遮られるところも多いので、比較的走りやすいと言われています。
ランのコース
田山寛豪さん
ランでは、5人以下の先頭集団ができて、その中での優勝争いになると思います。ただ、バイクレースの間に、バイクの得意な選手が、うまく周りの選手の足を削った(疲労させた)場合は、8~10人の大集団のままでレースが進む可能性もあります。いずれにせよ、勝負を仕掛けるタイミングは前半ではなく、周りの足が削れ(疲れ)始める中盤以降。3周目からゴールにかけてのトップ争いが一番の見どころです。
ケイティー・ザフィアエス(アメリカ)
田山寛豪さん
女子の注目選手は、アメリカのケイティー・ザフィアエス、2019年世界ランキング1位の選手です。元々は一定のペースで走る選手でしたが、2019年から持久力とメンタル面が成長して、ランでぐいぐい仕掛けるスタンスに変わりました。
マリオ・モーラ(スペイン)
田山寛豪さん
男子は、スペインのマリオ・モーラです。こちらも2019年世界ランキング1位の選手です。彼は、コンディションを合わせるのが抜群にうまくて、重要な大会では必ず勝っています。東京オリンピックでもきっと調子を合わせて良いレースを見せてくれるでしょう。
ヤコブ・バートウィッスル(オーストラリア)
田山寛豪さん
もうひとり、男子で面白いのが、オーストラリアのヤコブ・バートウィッスル。集団の中で足を温存して走りつつも、チャンスを見計らって一気に仕掛けて抜き去っていく、そういう一発逆転のある選手です。最後のスプリント勝負になると、この選手がナンバーワンですね。
知れば知るほど、見どころの多いトライアスロン。お台場の沿道で選手の息遣いを感じながら観戦するのも刺激的です。大都会を舞台に繰り広げられる世界のトップ選手の攻防を、どうぞたっぷりとお楽しみ下さい。