ストーリー陸上

陸上 男子100m タイムはどこまで速くなる?

2021-07-30 午後 08:45

東京オリンピックを控えた2021年6月6日に鳥取市で行われた陸上の「布勢スプリント」男子100mで、山縣亮太選手が9秒95の日本新記録をマークし、大きな注目を集めました。

 

そこで今回は、大阪体育大学の石川昌紀教授に、これまでの男子100mの記録の変遷や、日本選手の記録はどこまで伸びる可能性があるのか、聞いてみました。

世界記録の主な変遷は?

まずは、男子100mの世界記録の変遷をまとめたデータを見てみましょう。現在の世界記録は、9秒58。ジャマイカのウサイン・ボルト選手がマークしました。

 

 

初めて電動計時で公認された世界記録が、9秒95。現在の世界記録が9秒58ですから、41年かけて0秒37短縮されました。

日本記録の変遷はこちら!

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日本では1998年に伊東浩司選手が10秒00をマーク。その後、日本選手は10秒の壁を突破できませんでしたが、2017年に桐生選手が初めて9秒台(9秒98)を記録しました。9秒台突入まで19年かかりましたが、その後次々に更新され、4年で9秒95まで縮めてきました。

記録が伸びた背景には3つの進化

男子100mの記録向上の背景には、3つの進化があると石川教授は話しています。

① トラックの進化

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かつてのトラックには「アンツーカー」と呼ばれる赤褐色の土を使用していましたが、1960年代後半から、各競技場で、濡れても滑りにくく水はけが良い全天候型のトラックが採用され、合成ゴムより耐久性の高いウレタンが採用されるようになりました。アンツーカーより反発しやすいウレタンが採用され、現在では、より反発性の高く好記録の出やすい高速トラックが採用されています。

② スパイクシューズの進化

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短距離用のスパイクシューズは、従来は150~200gが主流でしたが、1991年の世界選手権・東京大会で、カール・ルイス選手が軽量化と機能性を追求したシューズを採用。樹脂一体型ソールとセラミック素材のピンが使用された115g程度の「裸足のようなシューズ」を履いて、優勝しました。その後も、軽量化に加えて、安定性やスパイクの設計などの高機能化も進み、記録向上に貢献していると石川教授は話します。

③ トレーニング方法などの進化

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1970年代以降、遅筋・速筋などの筋肉の力発揮に関する研究から、腱などの下肢のバネによるパワー発揮や、下肢の動きと筋肉の機能と形態に着目した研究が盛んに行われ、その研究情報を参考に、選手たちがトレーニング方法や走り方を進化させたことも要因だと言います。

 

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上の表は、石川教授がまとめた「世界の上位100人程度の平均タイム」の推移です。

 

4年に1度のオリンピックごとに平均タイムが速くなっています。「カメラやネットの普及で、研究情報やレース映像、トップアスリートのトレーニングがネットで簡単に収集でき、アスリートの目指す方向性が明確になったことと、注目度の高まりが最近の好記録につながっている」と石川教授は話しています。

ボルト選手を超えられる?

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9秒58の世界記録保持者、ボルト選手は、身長1メートル96cm、体重93.89kg(公式プロフィールより)。体が大きいにも関わらず、スタートから一気に加速してトップスピードに到達、世界新記録を出すことに成功しました。では日本選手は、ボルト選手のように世界記録レベルにまで記録を縮めることはできるのでしょうか。

大阪体育大学 石川 昌紀 教授

トップスピードを高める作戦は2パターン。歩数を減らすか、脚の回転速度を上げるか、です。男子100mの選手は、スタートからゴールまで約45~48歩で走ると言われていますが、ボルト選手は41歩。脚の回転速度を落とさずに歩数を少なくできれば、ボルト選手のようなスピードを出せますが、同じ身長でもジャマイカ人の脚の長さは日本人より長いというデータもあり、体格的に難しいと言われています。


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白:日本人ランナーの足の長さ、青:ジャマイカ人ランナーの足の長さ(画像提供:石川教授)

 

上のグラフを見ると、日本人とジャマイカ人では、大腿長は39.0cmと41.2cmで2.2cmの差、下腿長は35.2cmと38.3cmで3.1cmの差、足長は24.7cmと26.5cmで1.8cmの差があります。

大阪体育大学 石川 昌紀 教授

 

歩数は多くして、脚の回転速度を上げるという作戦が、日本選手には適しているでしょう。49歩で100mを走る山縣選手や、東京オリンピック前の日本選手権の男子100mで優勝した多田修平選手のスタイルも、こちらだと思います。これなら体格的に不利な日本選手でも、十分可能な作戦と言えるでしょう。

 

ただ、トップスピードを上げるのは至難の業です。どうすればいいのでしょうか?

大阪体育大学 石川 昌紀 教授

100mの中でトップスピードを出せるのは、3〜5歩程度。体力を考慮すると1日に何本も走って改善するのは難しいため、より質の高いトレーニングが要求されます。


選手の腹部にベルトをつけて前に引っ張りながら走る「アシスト走」と、その後の「アシストリリース走」のイメージ(画像提供:石川教授)

大阪体育大学 石川 昌紀 教授

 

スピードを高める練習としては、選手の腹部にベルトをつけて前に引っ張りながら走る「アシスト走」と、その後の「アシストリリース走」があります。この練習では、その選手本来のトップスピードを超えた状態で30mほど(10~12歩程度)走れます。すでに世界中の短距離選手が取り入れていますが、このような質の高いトレーニングの繰り返しで、トップスピードの向上が実現する可能性はあります。

 

最後に、石川教授にずばり聞きました。「日本選手が世界記録に迫る可能性はあるのでしょうか?」

 

大阪体育大学 石川 昌紀 教授

可能性はあると思います。男子100mは東京オリンピックでも注目されます。日本の選手が海外のトップレベルの選手と並んでゴールに飛び込む場面が生まれることを期待しています。



石川昌紀教授

大阪体育大学体育学部・大学院スポーツ科学研究科


専門は身体運動の神経・筋機能メカニクス。ヒトの身体運動能力の可能性と限界について研究し、様々な競技スポーツにおける国内・外のトップアスリートの肉体的特徴の分析やサポート活動を行っている。スポーツ科学博士。

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