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特集 「仲間がいるから」藤澤五月の挑戦カーリング女子日本代表

カーリング 2018年2月16日(金) 午後0:00

カーリング女子・日本の原動力はチームの要、スキップの藤澤五月選手です。若くして頭角を現し「天才スキップ」と呼ばれ、おととしの世界選手権でチームを銀メダル獲得に導きました。


オリンピックの舞台でも3連勝の好スタート。ただし、日本屈指の司令塔がその力を発揮できているのには、ワケがあるんです。

予選リーグ初戦から絶好調

日本代表スキップ・藤澤五月選手

 

オリンピックで最初の試合、14日のアメリカ戦。藤澤選手のパフォーマンスが際立っていました。第1エンドの最後の1投は、手前の2つのストーンの隙間を抜けて、円の中心を的確に捉えました。

 

2つのストーンをすり抜ける狙い通りのショット

 

このショットで、相手にプレッシャーをかけてミスを誘い、不利な先攻で2点を奪いました。第2エンド、第3エンドでも、正確無比なショットを次々に決めて、第3エンドまでに7点を奪って試合を決定づけました。

初めてのオリンピックで実力を発揮できている要因は、これまでの道のりにあります。

あの敗戦がすべてを変えた

藤澤選手は、2011年から長野県のチームで、日本選手権4連覇を経験しました。しかし、4年前のソチ大会の代表決定戦で敗れました。

当時、藤沢選手は「私についてこい」と言わんばかりの絶対的なスキップになることを目指していました。代表決定戦で、自分に過度なプレッシャーをかけてしまい、重要な場面でのミスにつながりました。

 

今のチームへの加入がカーリング人生を変えた

 

この敗戦で「どうしたらいいかわからなくなった」という藤澤選手は、失意のなか、所属していたチームを退部し、ふるさとの北海道に戻りました。

そこで、オリンピック2大会出場の本橋麻里選手に誘われ、今のチームに加入。この出会いが、藤澤選手のカーリング人生を変えました。

1人じゃないんだ

新しいチームでもしばらく勝てない日々が続きました。せっかく誘ってもらったのに申し訳ないと悩む藤澤選手に、キャプテンの本橋選手が声をかけました。

 

本橋麻里選手

さっちゃんの、やりたいようにやればいいんだよ

 

この言葉をきっかけに、藤澤選手は、カーリングへの考え方を変えていきます。

手応えを感じたときは、その喜びをメンバーと分かち合いました。試合に負けて悔しいときは本橋選手の部屋で大泣きしたこともあったと言います。

 

左から吉田知那美選手 吉田夕梨花選手 鈴木夕湖選手

 

本橋選手同様に、頼れる仲間たちがいることにも気づきました。小柄でも強力なスイープが持ち味の鈴木夕湖選手。チームを結成時から支えてきた吉田夕梨花選手。

同世代でしのぎを削ってきたソチオリンピック代表の吉田知那美選手。「大丈夫だよ、何とかなる」「失敗ショットでいいよ、スイープで運ぶから」「私に任せて」と仲間たちがいつも声をかけてくれました。

 

 

藤澤選手は、1つ1つのぬくもりのある言葉で、少しずつプレッシャーから解き放たれていきました。

自分が先頭に立ってチームを引っ張らなくてもいい、弱みを見せてもいい。「ひとりじゃないんだ」と考えるようになりました。

世界のどこにもないチーム

藤澤選手が自信を取り戻すと、チームの快進撃が始まりました。おととし、日本選手権で初優勝、続く世界選手権では、男女を通じて日本で初めてのメダル、銀メダルを獲得。

 

女子世界選手権準優勝

 

そこには、緊張感のある場面でも、笑顔と笑い声の絶えないチームの姿がありました。藤澤選手が目指すスキップ像も変わりました。

「いつも笑っているチームなんて世界のどこにもない。でも、そんなチームがあってもいい」。うまくいかないことがあっても、ともに苦難を乗り越える仲間たちの存在を力に、悲願のオリンピック出場を決めました。

 

仲間がいるから

練習に向かう藤澤選手

ホームリンクでフォームを改良

 

初めてのオリンピックの舞台で次々に決める正確なショット。その秘密は、オリンピック直前の1月にありました。本拠地の北海道で、フォームの改良に取り組みました。

これまでのフォームは、ストーンを投げる際、重心のかかる左足に体重を乗せ、かかとをあげて投げていました。この投げ方は、ストーンに体重をのせやすく、日本で有数のスピードのあるショットと評価されていました。しかし、コントロールが難しい投げ方でした。

 

上がこれまで 下が新フォーム かかとの置き方を変えた

 

そこで、かかとを氷につけ、重心を体の中心に置いて投げるコントロール重視のフォームに変えました。オリンピック本番1か月前にフォームを変えるという重大な選択。

それができたのも、仲間への信頼があったからです。ストーンを投げる方向を正確にできれば、スピードが落ちたとしても、仲間たちの氷を掃く「スイープ」の力で補うことができると信じていたのです。

仲間とつかんだ3連勝

 

3連勝がかかった15日夜の韓国戦、チームを逆転勝利に導いたのも、藤澤選手と仲間たちが力をあわせて決めた正確なショットでした。

第9エンド、先攻の日本、藤澤選手の投げた最後のストーンは円の中心をとらえ、そのプレッシャーが相手のミスショットを誘い、逆転に成功しました。

わからないから行くオリンピック

 

大会直前、藤澤選手は、オリンピックはどんな舞台か?との問いに、「わからないから行ってみたい。大会が終わったら、また同じ質問をしてください」と答えました。

藤澤選手が仲間たちとどんなオリンピックを体験するのか、その答えを再び聞く日を楽しみに。

田谷亮平

スポーツニュース部
ピョンチャンオリンピック現地取材班

 

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