ストーリーサッカー

サッカー女子イギリス代表 東京オリンピックで「片ひざをつく」のはなぜ?

2021-07-23 午後 0:30

21日に競技が始まった東京オリンピックのサッカー女子。あちこちの会場で、キックオフ直前に選手たちが「片方のひざをつく」光景が見られました。

そこに込められたメッセージは「人種差別への抗議を表明する」こと。選手たちのこのアクション、オリンピックの歴史の中でも大きなことでした。

人種差別への抗議 広まった連帯

オリンピックに出場するサッカー女子の代表チームの中で、最初に「試合前に片ひざをつく」ことを決めたのはイギリス代表でした。今月15日、東京大会で試合前に片ひざをついて人種差別への抗議を表明すると発表。チームを率いる監督のへ―ゲ・リーセは、その理由を次のようにコメントしました。

 

イギリス代表 リーセ監督

 

「片ひざをつくことは社会における差別、不公正、不平等に対する平和的な抗議の象徴です。選手たちは1年以上国際試合などでひざをつく行為を続けています。差別への意識を高めるためにできることは何でもする。この決断にチーム全員が一致しています」

 

迎えた21日の初戦。試合前、各ポジションに散ったイギリスの選手たちは一斉にひざをつきました。対戦するチリ代表の選手たちもその考えに賛同し、同じポーズをとります。静まり返るピッチ。片ひざをつくことで差別へ抗議する両チームの姿は、世界へ向けて配信されました。

 

 

試合後、チームを超えて連帯したこの光景を「すごく大事な瞬間だった」と語ったリーセ監督。キャプテンのステフ・ホートンも、「チリの選手もひざをついた時、本当に誇りに思いました。私たちの意思が彼女たちにも通じ、気持ちがどんどん強くなっていくと感じました」と振り返りました。

 

その思いは、他会場にも伝わっていました。この日行われた試合でアメリカ、スウェーデン、ニュージーランドの代表チームが試合前に片ひざをつき、差別への抗議の意思を示しました。

アメリカから広まった「片ひざをつく」抗議

では、なぜ「片ひざをつく」ことが人種差別への抗議の意味を持ったのか。始まりとされるのは、5年前のアメリカでのできごとです。

 

試合前にひざを地面につくキャパニック(右)

 

アメリカンフットボール・NFLのスター選手だった、コリン・キャパニック。当時問題となっていた警官による黒人への差別に抗議するため、試合前の国歌斉唱の際に起立を拒否し片ひざをつきました。この行為は全米で議論を呼びます。キャパニックの行動をたたえる声もありましたが、「国を侮辱する行為」だと多くの批判にさらされ、このシーズン終了後どのチームとも契約を結ぶことができませんでした。

それでも、キャパニックは2年後にスポーツメーカーの広告に起用されるなど、そのポーズとメッセージは人々の印象に強く残りました。

 

 

去年、黒人男性が警官から暴行を受け死亡した事件を受けて広まった人種差別への抗議のデモ。その現場で「片ひざをつく」ポーズをとることで意思を表明する人々の姿が報じられました。このアクションは世界中に広まり、イギリスではサッカーのリーグ戦で試合前に選手たちがこのポーズをとることが、この1年余り続けられています。

 

 

先月からヨーロッパ各地で行われたサッカー男子のヨーロッパ選手権でも、イングランド代表チームはこのポーズを実施。意思に賛同した他国の代表チームもそれに続きました。そして女子サッカーでも、オリンピックで差別への抗議を表明すると決めたのです。

 

しかし、こうした行為は前回のリオデジャネイロ大会までなら認められていませんでした。理由はオリンピック憲章で禁止されていたからです。

五輪で禁止されていた行為

オリンピック憲章第50条では、オリンピックの競技会場などで政治、宗教、人種に関する宣伝活動を禁じています。1968年のメキシコオリンピックでは、陸上男子200m金メダルのトミー・スミスと銅メダルのジョン・カーロスが、人種差別に抗議するため表彰台で黒い手袋をはめて拳を突き上げるポーズをとり、IOC=国際オリンピック委員会によって大会を追放されるという出来事がありました。

 

 

人種差別への抗議を表明する場として許されているのは、記者会見や試合後のミックスゾーン、ソーシャルメディア上などに限られ、競技会場では認められてきませんでした。

世界中のアスリートたちが人種差別への抗議の意思を示していた去年6月の段階では、IOCの見解は「オリンピックでは人種差別への抗議のために片ひざをつく行為を認めない」というもの。会見でこの問題の認識を問われたIOCのバッハ会長は、「IOCは人種差別を最も強い言葉で非難する」と述べた上で、オリンピック憲章第50条を前提に、IOCのアスリート委員会と選手たちの対話の行方を見守る、という考えを示していました。

同じころアメリカからは、IOCにオリンピック憲章第50条のルール撤廃を求める書簡が送られます。送ったのはアメリカオリンピック・パラリンピック委員会と、メキシコ大会で人種差別に抗議し追放されたジョン・カーロス。その書簡に書かれていた言葉です。

 

メキシコ大会から50年後のジョン・カーロス

 

「選手はもう黙ってはいない」

 

そして今月、IOCのアスリート委員会と選手たちとの協議の末、ルールの一部緩和が発表されました。オリンピック憲章第50条は維持しながらも、これまで許されていた記者会見やミックスゾーンなどに加えて、試合前の競技会場や選手紹介の場面でも、人種差別などへの抗議の意思を示す行動を含む宣伝活動ができるようになりました。

ただし他の国や地域の選手、チームが紹介される場面や国歌が流れている間に何らかの行為をすること、競技に集中している選手や準備している選手を妨げる行為などは、引き続き厳しく禁止されます。

アスリートへの差別 イギリスでは今月も…

迎えた東京オリンピック。サッカー選手たちが「片ひざをつく」ポーズは、ルールの緩和で新たに認められた差別への抗議表明でした。イギリス代表キャプテンのホートンはチリ戦の後、「みんなで差別を受ける人をサポートしないといけない。多くのチームが同じようにしてほしい」と改めて決意を語りました。

 

イギリス代表キャプテンのステフ・ホートン

 

彼女がそう語る背景には、アスリートに対する人種差別が今なお行われているという、切迫した問題があります。

イギリスでは今月、男子サッカーのヨーロッパ選手権決勝でPKを失敗したイングランド代表の3人の選手へ、SNSで人種差別的な投稿が送られました。選手、サッカー協会、さらにはイギリス政府もこうした差別的投稿を強い言葉で非難しましたが、1年以上抗議の意思を示してきたサッカー選手たちに対する差別を止めることはできませんでした。

 

PKを外しSNSで人種差別を受けた選手はまだ19歳だった

 

それからわずか1週間あまり。オリンピックの舞台で、自分たちの思いを世界に伝えるアクションを起こす。イギリス代表チームは選手全員の思いが一致し、みな自分の意思で抗議の表明を行ったといいます。

日本との試合は24日夜

イギリス代表の次の試合は7月24日土曜日。相手は日本代表です。予選リーグ突破を争う上で、互いに負けられない一戦になります。

とてつもない緊張感と高揚感が漂うであろうキックオフの直前、嵐の前の静けさのような静寂の中で、イギリスの選手たちは変わらず片ひざをつくでしょう。彼女たちの胸に宿る強い思いを、テレビで観戦しながら考えてみてはいかがでしょうか。

サッカー女子

予選リーグ第2戦 日本×イギリス

7月24日午後7時30分~ NHKで中継予定

 

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