ストーリーゴルフ

松山英樹のマスターズ優勝を支えた“キャディー” ってどんな仕事?

2021-07-19 午後 04:10

マスターズで優勝した松山英樹選手とキャディーの早藤将太さん

 

記憶に新しい松山英樹選手のマスターズ優勝。松山選手を支え続けたキャディーの早藤将太さんにも注目が集まりました。「キャディーさん」というと、ゴルフバッグを持ってプレーヤーに付いてコースを周ったり、ゴルフカートを運転する役割をイメージする方もいるかもしれませんが、早藤さんのようなプロゴルファーを支える「プロキャディー」は、プレーヤーにとってはとてつもなく大きな存在なのです。

 

と、いうことで、プロキャディーの仕事や魅力について、日本プロキャディー協会代表理事の森本真祐さんにお話をうかがいました。かつて上田桃子プロの専属キャディーや、鈴木愛プロ、成田美寿々プロ、畑岡奈紗選手のキャディーを務め、キャディーとして通算33勝をあげています。そんなことまで話していいの!?という気になるお給料事情も教えてくれました!

「ハウスキャディー」とは違う「プロキャディー」の世界

――そもそも“キャディー”ってどんな存在なのですか?

 

キャディーは規則に従ってプレーヤーを“助ける”人のことを言います。例えばクラブを運んだり、プレーに対するアドバイスしたりすることも“助ける”の中に入ります。プレーヤーのパートナーのような存在ですね。

 

キャディーの行動については規則が細かく決まっており、もし、キャディーが規則違反をした場合はプレーヤーも罰を受けることになります。

 

キャディーといってもゴルフ場に勤めていて一般の方のプレーをサポートする「ハウスキャディー」と我々のようにプロゴルファーに依頼をもらってツアーを共にする「プロキャディー」の2種類あります。2021年7月現在では約100人のプロキャディーがいると思われますが、どんどん増やしていきたいですね。

プロキャディーとは周囲の空気と選手の気持ちを読める黒子であるべし!

2018年ニチレイ女子ゴルフ優勝を決めた鈴木愛プロとキャディーを務めた森本さん

 

――では、具体的にどんなことをしているのですか?

 

私たちプロキャディーには、大きく分けて2つの役割があります。

①全コース全ホールを徹底分析! テクニカルサポート

ひとつめが、テクニカル面での選手のサポートです。グリーンの傾斜やバンカーの状態など、事前に収集・分析しておいたコースの情報に、当日の天候や風向きといった気象条件などを加味して、ショットの際、選手にリスクやベストルートなどをアドバイスします。

 

コースの状態を把握するため、選手と一緒に練習ラウンドの際に確認して回るのはもちろん、練習後、選手が帰ってから一人で18ホールを歩いて回り、気になるところをすべてチェックすることもあります。

 

森本さんが実際に使っているコースレイアウト図



上の画像は実際にプロキャディーが使う「コースレイアウト図」です。
ゴルフ場で販売されているものに、プロキャディーならではの分析情報を書き込みます。例えばグリーンの傾斜だったり、バンカーでもそれぞれ特徴が違うのでその違いを記載したりします。

 

私がキャディーを務める女子プロの場合、1年間で38、39試合あり、会場となるコースは毎回異なりますが、すべてのコースについてこのような情報収集と分析を行います。こうして集めたデータに、実戦でわかった情報も追加して、いわばコースのデータベースをつくっていきます。これは、私たちの貴重な財産です。

②試合中の唯一の味方 叱咤激励も! メンタルサポート

そしてもうひとつが、メンタル面で選手をサポートすることです。ゴルフは個人競技ですから、試合中の選手は孤独です。そのとき、選手の唯一の味方であり相談相手となれるのは、そばにいるキャディーだけなんです。

 

2021 全米オープン 石川遼選手とキャディー

 

たとえばショットの際、どのクラブで、どの方向に、どのくらいの力で打てばいいのか、プロは当然わかっていますが、それでもキャディーに相談して、意見を求めます。それだけ不安なんです。後ろから強い風が吹いているときに「風、フォロー(追い風)ですよね?」と聞かれることもあるくらいですから(笑)。

 

ゴルフのショットは、迷いながら打つのが一番ダメ。だから、選手の選択に間違いがないときは、大丈夫だとしっかりと背中を押してあげる。迷っているときには、選手が納得できる的確なアドバイスをする。コースを歩いているときには、選手の様子を見ながら叱咤激励する。そのように、選手の気持ちに寄り添うことがプロキャディーには求められます。選手から必要とされるキャディーになるためには、このメンタル面でのサポートが重要なんです。

 

そして、あくまでも黒子であることを忘れないこと。決して出しゃばったり、目立ったりしてはいけません。周囲の空気と選手の気持ちをきちんと読める黒子、それがプロキャディーです。プロキャディーを目指す人に最初に言うのは「とにかく選手の邪魔にならないこと」。そのくらい黒子に徹する必要があります。

優勝賞金の最大10%が報酬に メジャー優勝なら2000万円超?!

2021年マスターズで日本人初の4大メジャーを制覇した松山英樹選手とキャディーの早藤将太さん

 

――お仕事はどうやって決まるのですか?

 

プロキャディーは、どこかの組織に属していることはなく、完全に個人事業主です。女子プロの場合、12月くらいに翌シーズンのスケジュールが発表されるので、それを受けて、翌年の仕事のスケジュールを決めていきます。特定のプロと年間の専属契約を結ぶケースもあれば、ひとりの選手とは3、4試合の契約で、1年で何人かの選手のキャディーを務めるというケースもあります。

 

オリンピック日本代表 畑岡奈紗選手とキャディー

 

日本の場合、ほとんど毎週試合があるので、年間契約だと同じ選手とキャディーが毎日顔を合わせることになって、お互い煮詰まってしまうことも少なくありません。そのため、3、4試合を契約の区切りにすることが多いですね。キャディーとしては年間契約だとありがたいんですけどね。たいていの場合、選手が嫌がります(笑)。

 

主な収入は、帯同する選手から前払いでいただくお金。そして、もうひとつは、選手が獲得した賞金から一定のパーセンテージでいただく報酬です。

 

前者の場合、試合のある週末を含む1週間単位で、12万円~15万円程のお金をいただきます。ただ、正直なところ、こちらは大きな収入にはなりません。というのも、試合のときは私たちキャディーも会場となるコースの近くに1週間ほど滞在するのですが、いただいたお金は、そこまでの交通費、宿泊費、食費などに充てるからです。その残りが収入になりますが、せいぜい1、2万円。さすがにこれでは厳しいです。

 

地方での試合が続くと何カ月も家に帰れないこともあるそう

 

そこで収入の柱になるのが、選手の獲得賞金から一定のパーセンテージでいただく報酬になります。パーセンテージは、契約にもよりますが獲得賞金額に対して7~10%ほど。賞金が100万円でボーナスは8万円くらいということもあるし、優勝して獲得賞金が2000万円、報酬は200万円ということもあります。1週間で200万円の収入ですから、夢のある話ですよね(笑)
4月に行われた男子メジャーのマスターズの賞金は207万ドル。日本円で約2億2670万円ですから、キャディーを務めた早藤 将太さんは、計算上は2,200万円くらいもらえたかもしれないですね。

 

2015年中京女子ゴルフで優勝した、オリンピック日本代表 稲見萌寧(もね)選手とキャディー

 

ただし、賞金を獲得するためには、選手が本戦に出場しなければなりません。予選落ちが続けば、選手はもちろん、キャディーも収入面ではかなり厳しい状況になります。特に駆け出しのキャディーの場合、デビューしたばかりでなかなか賞金を獲得できない選手につくことがほとんど。ですからプロキャディーといえど、最初のうちは、年収300万円くらいのこともあり、経済的にはあまりラクではないというのが正直なところです。

一度やったらやめられない プロキャディーの魅力

――プロキャディーにはどうすればなれるのですか?

 

実は、プロキャディーになるための資格はありません。ですから現状では、プロキャディーは全員「自称」です(笑)。それぞれ、プロキャディーになった経緯はいろいろあります。プロになった大学や高校の先輩からキャディーを頼まれてそのままプロキャディーになったというパターンもあるし、ツアーの運営スタッフをしているとき、たまたまキャディーをやってみたら面白く、プロキャディーの道を選んだというパターンもあります。

 

私の場合は、大学時代ゴルフ部に所属していて、あるトーナメントのアルバイトをしていたときに、キャディーをさせてもらったことがきっかけです。

 

一緒にコースを周っている選手には、やはり感情が入って応援したくなります。バーディーを取ったら嬉しいし、ボギーだとがっかりする。そうこうしているうちに徐々に順位をあげ、最終ホールを迎える。さあ、いったいどうなるか!試合中、ずっとドキドキハラハラですが、それがたまらなく楽しかった。そのとき味わった刺激があまりも魅力的で、これを仕事にしたいと思ったんです。

 

2021年全米オープン練習ラウンド オリンピック日本代表 星野陸也選手とキャディー

 

――キャディーの魅力はどのようなところでしょうか?

 

私にとってプロキャディーという仕事の魅力は、この「刺激」です。そしてまた、選手と一緒に、課題を見つけながらそれを克服していくプロセスも好きなんです。さらにそれが結果につながったときの満足感、達成感は、ほかには経験したことがありません。まして、優勝したときの高揚感は、一度味わったら絶対に抜けられないと思います。一種の中毒ですね(笑)。実際、プロキャディーを辞める人はほとんどいないです。それくらい魅力的な仕事だと思っています。

 

 

ただ、もちろん辛いこともあって。試合中自分のアドバイスが間違ってたときなんかは最悪ですね。選手が口をきいてくれなくなることもあるんです。そんな中、最終ホールまでずっと2人っていうのは、賞金が入らないとかそういうことより全然辛い…。

研究熱心でマナーの良い選手が伸びる!

――最近、女子プロゴルフでは若手の活躍が目立ちます。プロゴルファーを最も間近で見てきたプロキャディーの目線で、どのような選手が伸びる言えますか?

 

活躍している選手は、きっとみんな研究熱心な選手だと思います。

 

たとえば、まっすぐ打たなければいけない場面で、曲がってしまったとき。次はまっすぐ打てばいいと思うのではなく、自分のスイングと使っているクラブが合っていないのではないかなど、原因と対応策を考え、修正していく。そういった姿勢は欠かせません。

 

あと、ささいなことに思われるかもしれませんが、マナーも大切です。たとえば、ティーショットを打ったら必ずゴルフティーを回収しなければいけませんが、それができない選手も実はいます。そのような選手は、まずゴルフに対する心構えができていないように感じますね。

 

具体的な選手でいうと、成田美寿々プロや鈴木愛プロはツアーに出てきてすぐに目に止まりました。まだ粗削りでしたが、スイングは安定していましたから、ツアーの雰囲気やセッティング(クラブの組み合わせ)に慣れてくれば上位に顔を出してくると思いました。

 

成田美寿々プロ 2021年3月撮影

コロナ禍で激減したプロキャディーの仕事 それでも…

――コロナの影響はありましたか?

 

昨年から続くコロナの影響もかなりありましたね。なんせツアーがなくなってしまったんで。「ツアーがなかったら飯食えないじゃん!」ってかなり焦りました。でも、いろいろ考えて一般のゴルファーにも役立てることがあるんじゃないかって。例えば一般の方々からの依頼でラウンドに呼んでもらい、一緒に周ってアドバイスをしたり、プロを目指している人のグラウンドに行ったりというお仕事もしています。

東京オリンピックは、日本代表に期待!

会場となる、屈指の名門コースである霞ヶ関カンツリー倶楽部

 

――いよいよ、東京オリンピックですね。どのようなところに期待しますか?

 

東京オリンピックの女子代表は畑岡奈紗選手と稲見萌寧選手、男子代表は松山英樹選手と星野陸也選手に内定しました。私は、今回のオリンピックにはとても期待しています。今回のコースは霞ヶ関カンツリー倶楽部で行われますが、他国のコースと比較すると、少々トリッキーな印象があるんです。そこに戸惑いを感じる外国の選手は少なくないでしょうし、逆に日本代表にとってはアドバンテージになると思います。

 

日本代表の4人が地の利を活かし、慣れている日本のコースで多いに実力を発揮することを期待したいですね。


――それぞれの選手につくキャディーさんたちについてはどうでしょうか?オリンピックならではのサポートなどあるでしょうか?

 

基本的にキャディーとしては普段の試合とオリンピックでもやることは変わらないと思います。普段の試合と唯一違うことは日の丸を背負ってプレーする選手のプレッシャーに対するケアでしょう。この重圧が常に選手にかかってくるので、いかに普段通りのプレーをしてもらうかがオリンピックに参加するキャディーには求められると思います。

その為には、まずキャディー自身が舞い上がらず冷静にいることが大事ですね。

 

 

森本さんありがとうございました!

 

プロゴルファーの成績をも左右しかねない大切なパートナーでありながら、選手をサポートするため、あくまで黒子に徹するプロキャディー。東京オリンピックでは、選手とプロキャディーがどのようなやり取りをしているのか想像しながら、観戦を楽しんではいかがでしょうか。

 

 

東京オリンピックの舞台、霞ヶ関カンツリー倶楽部を詳しくわかるこちらの記事もご覧ください。
https://www3.nhk.or.jp/sports/story/472/

 

森本真祐

一般社団法人日本プロキャディー協会 代表理事

プロキャディーの役割が一般に正しく認知され、職業としても確立され、未来を担うプロキャディー、ゴルフ界へ貢献することを目標として2019年10月に日本プロ協会を設立。

2017年度は上田桃子プロ専属キャディーとして参戦。2017年中京テレビ・ブリヂストンレディスでは上田桃子プロと通算26勝目をあげる。通算33勝。

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