ストーリー体操

NHK「テレビ体操」の出演者が語る 制作の舞台裏

2021-07-16 午後 08:00

月曜から日曜まで毎日放送しているNHKの長寿番組『テレビ体操』。放送ではほとんど言葉を発することのない出演者のみなさんに、大いに語っていただく特集記事の第3弾!今回は、「テレビ体操ってどうやってつくられるの?」です。

 

左からピアノ演奏の幅しげみさん、指導者の岡本美佳さん、アシスタントの原川愛さん、矢作あかりさん

 

『テレビ体操』では、ラジオ体操第1、ラジオ体操第2やみんなの体操のほか、番組オリジナルの体操(以下、「オリジナル体操」)を紹介していることをご存じですか。みなさんが番組を見ながら新鮮な気持ちで体を動かしてもらえるように、毎日内容を変えているんです。今回、体操指導の岡本美佳さん、ピアノ演奏の幅しげみさん、そしてアシスタントの原川愛さんと矢作あかりさんが、この「オリジナル体操」の制作秘話をたっぷり教えてくれました。

※新型コロナウイルス感染を防止するため、取材は対策をとって行いました。

コロナ禍だからこそ… 4月からパワーアップした「オリジナル体操」に注目

体操指導 岡本美佳さん

 

――オリジナル体操、どういうものなんですか?


岡本美佳さん(以下、岡本):「テレビ体操」は1957年(昭和32年)、テレビで動きを見ていただけることを活かして、指導者が考えたいろいろな動きを説明しながら一緒に体を動かしてもらおうと始まりました。いまのオリジナル体操はその流れにあるものなんです。今年度は、朝は週3回(月・水・金)6分間、午後は週2回(火・木)5分間放送しています。

 

2020年と2021年 週の放送予定

 

岡本:6月の朝ですと、月曜日(多胡先生担当)は例えば、両手でじゃんけんをする指先の運動など、水曜日(岡本先生)は胸を大きく開く運動など、金曜日(鈴木先生)は片足に体重をかけてバランスをとる運動などを中心に、指導者それぞれが、各回10程度の動きを考えて、体操を組み立て、紹介しているんです。

 

――この4月から、オリジナル体操の放送回数が増えていますね?

 

岡本:2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために「自宅で過ごすことが増えて、運動不足になった、筋力が落ちた」という方も多くみられましたよね。テレビ体操をご覧になる方に、いろいろな体操に取り組んでもらう機会も作ろうと、オリジナル体操の回数を増やしたんです。 

 

―― 一定の運動を繰り返しているわけではないんですね。

 

岡本:そうなんです。日々の生活ではどうしても動かす筋肉に偏りが出てしまいますよね。体操では、普段あまり動かさないところを意識的に動かしてもらおうと、工夫しています。朝の番組ではオリジナル体操のあとにラジオ体操も行います。短い時間で効率よく運動ができる、ラジオ体操の効果がより高まるように、という点も意識していますね。

 

アシスタント 原川愛さん

 

――今年度の反響は。

 

原川愛さん(以下、原川):今までだと、感想のお手紙などをいただくのは高齢の方が多かったんですが、最近はお子様や、若いご夫婦など、年齢層が広がっているように感じますね。自分の知り合いから声をかけられる機会もすごく増えました(笑)。

手書きの「体操シート」に指導者のアイデアが凝縮 ~制作の舞台裏①

指導者、ピアノ演奏者、アシスタント、番組スタッフが集まるリハーサル

 

――毎回、体操を考えるのは、大変なのでは?

 

岡本:そうでもないですよ。例えば、私が担当した回では、肩を回したり揺すったりして肩周りの筋肉をほぐす→腕を上に伸ばして全身の筋肉を伸ばす→からだを横に曲げて体側の筋肉を伸ばしてから腕を振る→腕を横にからだをねじる。ここまでで4分30秒。そしてメインの動きと位置づけていた、弾みをつけながら胸を大きく開く運動へ、と構成しました。朝一番でまだ起きたばかりという方もいると思いますので、肩などの筋肉を小さな動きでゆっくり、徐々にほぐし、全身の動きにつなげていきました。

 

 

岡本:日常生活では、からだの前での作業が多くなりますから、どうしても背中が丸くなりがちですよね。そこで、体操を通じて、よい姿勢をつくってもらいたいと考えました。視聴者のみなさんを思い浮かべながら、こういう動きもしてもらいたいな、と考え始めると、やりたいことがいろいろでてくるので、むしろ時間がたりなくて困るくらいなんです。

 

――指導者の先生が考えてきた体操、どう伝えて、収録していくんですか。

 

岡本:指導者は、リハーサルにむけて、体操の動きや流れ、カウントなどを書いた資料を作ります。私たちは『体操シート』と呼んでいます。このシートを、実技をする原川さんや矢作さんたちに配って説明します。ピアノの幅先生たち、そして収録の方法を考えるディレクターさんには、この様子を見ていただいています。それぞれ、ここから準備開始、となります。

 

こちらが『体操シート』

 

――体操シート、手書きなんですね。

 

岡本:そうなんです。言葉だけではどうしても伝えにくい点があるので、絵も描いています。3人それぞれ絵を描いていますが、個性が出ているかもしれません(笑)。

ピアノは即興、生演奏! ~制作の舞台裏②

ピアノ演奏 幅しげみさん

 

――オリジナル体操にはテーマ曲ってあるんですか?

 

幅しげみさん(以下、幅):ないんですよ!リハーサルで実際の動きをみながら、それに合うように即興で演奏します。テーマ曲がないからこそ演奏者の力が活きる面もあるかもしれませんね。私は長年、演奏会などでジャズを弾いてきているんですけど、アドリブで演奏する方が好きですし、うまくいくんです。体操の長さをふまえて、リハーサルはリハーサルで即興で、本番は本番でその場で、頭に浮かんだ曲を弾いていますね。収録ではその時までに聞いたメロディーが記憶に残っていて、それをアレンジして、、、ということもあります(笑)。

 

――指導者の方から、ピアノの先生にリクエストすることもあるんですか?

 

岡本:私はいっぱいあります(笑)。たとえば一つの動作が長く続く体操の場合には、「ここでは曲調を変えてもらえますか」とか、「ここはやさしい動きなので、流れるような雰囲気でお願いします」とか。あと、「曲調をもう少し明るくしてほしい」とか…。

 

幅:私は暗いところないよね(笑)。

 

岡本:明るさ、十分です(笑)。

 

幅:テレビ体操の収録は、生放送のように、編集せずに一連で行います。指導者の先生には「ラジオ体操は、何分何秒で入りたいので、オリジナル体操はここまでに終わってくださいね」など打合せをしているんですが、いざ始めてみると、考えていたよりオリジナル体操の前半で時間がかかって、後半を短くしなければいけないこともあるんです。こうした細かな「ずれ」は、状況にあわせて、即興でテンポをかえて調節します。

 

――伴奏、というだけではないんですね。

 

幅:そうなんですよ。私たちはピアノ演奏兼タイムキーバー(※)なんですよ(笑)。収録中に本当に時間が足りなくなってきたと思ったら、指導者がまだ話してる途中でも、ラジオ体操のイントロをかぶせちゃうこともあります(笑)。反対に時間が余り気味だったら、イントロをゆっくり弾いて。。。「こんな感じのテンポで行くよ!」と伝える(笑)。すると、原川さんや矢作さんたちも、それで状況を察して、動き方を調節して、時間内に納める、なんてこともありますね。

 

※生放送番組などで、残り時間を計算して、関係者に伝える役割の人。

実技も即座に動きながら練り上げていく ~制作の舞台裏③

矢作あかりさん

 

――体操シートを受け取って、すぐにリハーサルなんですね。

 

矢作あかりさん(以下、矢作):はい。実技する私たちも、シートをうけとったらすぐに動くことになります。順番を待っている間に、一緒に出演する人と「ここってこうですよね」とか相談しながら頭にいれておいて、リハーサルで動きを確認します。

 

――みなさん、すぐに動きがそろうんですか。

 

矢作:最初はそうでもないです。体操シートで、例えば腕を伸ばすなどの動きはわかるんですが、腕の向きや角度などは、いっしょに動いていくなかで調節します。そのほかにも、ゆっくりのところと速くするところなど、どのようにメリハリをつけるかですとか、どの動きのときに横を向いた方がいいかですとか、どのように撮影してもらうと伝わりやすいかなども、指導者の先生やディレクターの方も交えて話し合って、決めていきます。

 

多胡先生に動きを確認するアシスタントの皆さん。チェックしたポイントはすぐに体操シートにメモをする。

 

――リハーサルではどういう点に気をつけていますか?

 

原川:リハーサルでは、先生方が伝えたいことを、ちゃんと頭にいれて、どのように動いたら、視聴者の方にきちんと伝えられるか、考えるようにしています。動きのテキストがあるわけではないですし、視聴者の方は私たちをいわば「お手本」にすると思うので意識していますね。自宅に帰った後、そのときのことを思い出して復習して、収録日までに動きを完璧に覚えて行きます。ただ、収録では、カメラの切り替えの都合で、動きを変更しなければいけないときもあるんです。そういうときに、体操のポイントを把握しておかないと、しっかりとした対応がすぐにできないんですね。年々気をつけるようになっていますね。

 

――難しいと思う点は ありますか?

 

原川:オリジナル体操は、指導者の先生が解説するときに、1人で動きをみせるときがあるんですけど、いまも緊張することがあります。例えば、片足で立ってバランスをとる運動の解説中に、体がブルブルしないように姿勢を保つ、ですとか、左手と右手で別の動きをしていく指の体操のときに間違わないようにする、ですとか、練習でなかなかうまくいかなくて、「うわぁ、どうしよう」と思うことがあります。

 

矢作:みなさんもそれぞれ、動きには癖があると思うんですが、自分ではそのとおりに動いているつもりでも、どうしてもうまくいかないときがあって、ひとつひとつの動き方を自分のものにしていくことに、苦労するときがあります。でも、できないことをできるようにする時間は好きなので、楽しいです。

チーム力が発揮される オリジナル体操

――幅さんがピアノの演奏で心がけているポイントは?

 

幅:やっぱりまずは“体操ありき”ですから、音楽を聞くだけでどのような体操をしているのか、イメージできることが大事です。ジャンプしているのか、肩をゆっくリ動かしているのか、ストレッチなら弾みがあるのかないのか。そういったことが、画面を見なくても、指導者の説明と号令、そして音楽でわかる。そんな演奏を心がけています。

 

矢作:伸びをするときに弾いてくださった曲が、動きとぴったり合って「気持ちいい、もう1回やりたい!」と思うことがあります。曲と動きの相性は本当に大事だと思います。

 

原川:ピアノの先生によって曲は変わるんですが、みなさん体操を主体にして、演奏を考えていただいているので、とても動きやすいですね。

 

 

――原川さんと矢作さんが、オリジナル体操をする上で心がけていることは?

 

矢作:当たり前ではありますが、指導者の先生が考えたとおり正確に体操することですね。テレビでみながら運動するみなさんにきちんと運動してもらえるようにしっかり伝えたいと考えています。そして、みなさんに気持ちよく体操してもらうためにも、わたし自身が気持ちよく体操することです。リズムにあわせた動きのときは、ルンルンした気持ちになるとか、そうした雰囲気は伝わると思うので、心がけていきたいです。

 

原川:私は表情ですね。たとえば、先ほどの指の体操では左手と右手で別々に動かすので、慣れないうちはうまくいかないんですね。でも、こういうときこそ「笑顔で」と思っています。先日、お目にかかった視聴者の方から「その笑顔に救われたよ」といってもらったんです。気持ちが伝わったと感じて、うれしかったです。笑いすぎといわれることもあるんですが、笑顔を忘れないようにしたいです。

 


 

――チームで作り上げている、オリジナル体操。どう利用してほしいですか?

 

岡本:新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、恒例の特別巡回・夏期巡回ラジオ体操・みんなの体操会は8月末まで中止になりました。「大勢で集まって運動する機会が減ってしまって、残念」という声も聞かれます。こうしたなかでも、ラジオそしてテレビの放送は続いています。是非、ラジオやテレビの前で、運動を続けていただきたいですね。オリジナル体操はこれまでも、血行をよくする運動、筋肉のコリをほぐす運動、筋力アップを図る運動、また、脳の活性化を図る指先の運動、疲労回復など、指導者3人が季節や時間帯なども意識しながら、各回ストーリーを考えて体操をご紹介しています。ラジオ体操やみんなの体操はもちろんなのですが、テレビ体操をみながらオリジナル体操にも取り組んでいただき、運動不足の解消、そして日常生活の気分転換などに活用していただけたら、本当にうれしいですね。

 

岡本美佳(おかもと・みか)

神奈川県出身。日本女子体育大学体育学部を卒業後、NHKテレビ・ラジオ体操のアシスタントを務め、2003年より同番組の指導者として活躍中。

 

幅しげみ(はば・しげみ)

神奈川県出身。洗足学園大学音楽教育学部を卒業後、数々のテレビ、舞台、CD、作曲等で活躍。NHKテレビ・ラジオ体操では1981年よりピアノ演奏を担当している。

 

原川愛(はらかわ・あい)

宮崎県出身。日本女子体育大学体育学部・同大学院を卒業後、NHKテレビ・ラジオ体操のアシスタントに。体操教室で子どもたちへの指導も行っている。

 

矢作あかり(やはぎ・あかり)

福島県出身。2017年 AGG(団体徒手体操)世界大会で5位に。東京女子体育大学体育学部卒業後、NHKテレビ・ラジオ体操のアシスタントを務める。

 

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