ストーリー陸上

陸上 日本選手権 男子100mの代表が決まる!

2021-06-17 午後 0:55

誰が代表になっても、また誰が落ちても、史上最も注目を集めるレースになる。日本選手権の男子100メートルは6月25日午後8時30分に決勝の号砲がなる。

 

6強とも言われる有力選手たちのなかから代表の座をつかめるのはわずか3人。大激戦の舞台に臨むスプリンターたちの現在地、そして日本選手権への意気込みをリポートする。

 

山縣 大舞台の強さでリード

 

まず注目するのは、6月6日に9秒95の日本新記録をマークした山縣亮太だ。

 

今シーズンの好調さに加え、これまでオリンピックやアジア大会など大舞台で見せてきた強さと実績から「代表はかたい」という関係者の声もきかれる。

 

記録を更新したレースでは持ち味のスタートから中盤の加速はもちろんのこと、後半の伸びも抜群だった。しかし、完璧に見えたレースも本人は満足していない。追い風は公認記録となるギリギリの2m。レース後には「最後に足が流れてしまった」「スタートから加速していく前半部分が課題」と冷静に振り返る。記録更新に浮かれた様子は一切ない。

 

「日本選手権は今回のレースの反省を生かしたい」とさらなる高みを目指す。日本選手権に向けては「スタートのキレ」をテーマにあげた。

 

山縣 亮太 選手

予選、準決勝、決勝の3本をプレッシャーのかかるなか走りきれるかが勝負をわける。ある程度の疲れが予想される3本目の決勝でキレのあるスタートを切れるか。そこがポイントになってくる。まわりの選手も速く、3位以内に入ることは簡単ではないが、自信を持って代表をとりにいきたい。

サニブラウン 本番への調整がカギ

 

今シーズン、いまだベールに包まれているのがサニブラウン アブデル・ハキームだ。9秒97の自己ベストを持つ前の日本記録保持者だが、事前の情報が少なすぎるのだ。

 

新型コロナウイルスの影響もあって2019年の世界選手権を最後にレースから遠ざかっていたサニブラウン。その現在地を確かめようとNHKの取材陣が向かったのは、5月中旬にカリフォルニア州で行われた大会だった。久しぶりにカメラの前に姿を見せたサニブラウンはひとまわり体が大きくなった印象だった。

 

しかし、ウォーミングアップまで行ったものの「左足に疲労がたまっている」としてレースを欠場。その2週間後に行われた大会では追い風3.6メートルのなか10秒25にとどまった。結局、プロに転向して以降、100メートルを走ったのは、この1本だけ。日本国内では、サニブラウンの調子を心配する声もある。

 

ただ、周囲のけん騒をよそに本人は「自分の位置を確かめることができて良かった」と久しぶりの実戦に手応えを口にした。国内を拠点にするトップ選手たちと比較しても、そのポテンシャルは一段上と評されるサニブラウン。

 

日本選手権までにコンディションを合わせることができれば、一気に自己ベストや日本記録を更新する可能性を秘めている。100mと200mの両方で代表入りを目指すスプリンターからは目が離せない。

 

サニブラウン アブデル・ハキーム選手

練習はしっかりできているので、ちゃんと試合に出せるか出せないかだと思う。オリンピックのいい予行演習になるので、ほかの選手にとらわれず自分の走りができるかを試したい。100メートル、200メートルの両方に出場するので、出るからには2冠を達成し、オリンピックに向けていいスタートが切れればと思っている。

桐生 真の勝負強さで頂点へ

 

日本選手権を前に調子を上げてきたのが、日本選手初の9秒台を出した桐生祥秀だ。

 

6月6日の布勢スプリント予選では追い風2.6メートルの参考記録ながら10秒01をマークして地力を見せた。

 

今シーズンは、3月に左ふくらはぎの違和感でレースを棄権したほか、5月の国際大会ではフライングで失格になるなど精彩を欠いたレースが続いた。しかし、ここにきて状態をきっちりと戻してきた。

 

桐生の強みは、前回大会で勝ち切った日本王者としてのイメージを持って大会に臨めることだ。走力は高校時代から国内トップクラスで、その実力は誰しもが認めている。

 

課題はレース本番で力を発揮するメンタルだといわれてきたが、コロナ禍のトレーニングで自分と向き合うなか、1本のレースにかける集中力は格段に上がってきた。

 

さらに、ここ最近は自分自身に高いハードルを設定して緊張状態を作ってレースに臨み、それを乗り越えることで試合での勝負強さを養ってきた。その成果が去年の日本選手権での6年ぶりの優勝だろう。

 

6強がそろうレースに向けても、ふだん通りを貫く桐生が本命のひとりであることは間違いない。

 

桐生 祥秀 選手

レースの中で大事な部分は全部なので、日本選手権では、前半、中盤、後半すべてでいい走りをしていきたい。ほかの選手たちも調子がいいが、優勝して代表を勝ち取りたい。しっかり緊張感を持って自分の走りをすればいい結果がついてくると思う。

小池 本来の力発揮できるか

 

9秒98の自己ベストを持ちながら、今シーズンの小池はさえないレースが続いている。

 

初戦となった4月の出雲陸上では追い風参考記録ながら10秒04をマークしてシーズンに向けて期待が高まったが、その後は思うように記録が伸ばせていない。

 

ここまでのシーズンベストは、布勢スプリントでマークした10秒13。レース後は「相変わらずいいレースができなかった」と表情を曇らせた。

 

それでも「体の状態は問題ない」と話し、細かい技術面を修正すれば一気に上がる可能性もあると考えている。大一番に合わせる能力は高く、大崩れしないのが小池の特徴でもある。

 

日本選手権では、いつも通りの冷静な走りで代表をつかみにいく覚悟だ。

 

小池 祐貴 選手

日本選手権では、中盤のトップスピードを誰よりも上げていくことがポイントになってくると思う。スタートから思いきりとばして走っても最後までスピードが落ちないのが自分の特徴。後半のことを考えずに中盤スピードを上げていきたい。まわりの選手は調子を上げてきているので、日本選手権は10秒05あたりが、ボーダーラインになってくると思う。目安のひとつとして考えて代表をとりにいきたい。

多田 好調キープで狙う頂点

 

今シーズン、ここまで好調をキープしているのが多田修平だ。

 

山縣と走ったレースでは、中盤までリードする走りを見せて10秒01をマーク。実に4年ぶりとなる自己ベストの更新だった。

 

好調の要因はスタートのわずかなモデルチェンジ。スタート前の視線をわずかくつ一足分前にすることで、丸まっていた首がまっすぐになり、推進力を得やすいスタート姿勢が生まれた。

 

もともと爆発力のあるスタートダッシュが持ち味の多田だが、そこにさらに磨きがかかった。さらに近年強化してきた体幹トレーニングの効果もあり、後半に体が反る悪い癖が修正され失速するという悩みも改善されつつある。

 

持ち味を存分に発揮し逃げ切るレース展開に持ち込むことができれば、9秒台の選手たちに割って入る可能性は十分にある。

 

多田 修平 選手

後半、ほかの選手に追い上げられるというのはある程度わかっているので、自分の武器であるスタートから中盤にかけて体2つ、3つ分ぐらいトップ選手から抜け出していきたい。その差を多少は縮められると思うが、しっかりキープしながらフィニッシュまで駆け抜けることができればタイムも優勝も見えてくる。3位以内ではなく優勝を目指していきたい。

ケンブリッジ 日本選手権で逆転なるか

 

ケンブリッジは、新型コロナの影響をもろに受けた昨シーズン、6人の中では唯一自己ベストを更新するなどオリンピックに向けて調子を上げてきていた。しかし、今シーズンここまでは苦しいレースが続いている。

 

 

4月の出雲陸上では左太ももの違和感で決勝を棄権し、その後の織田記念を欠場、5月のテスト大会も決勝を棄権した。ケンブリッジは、オリンピックの参加標準記録を突破していないため、日本選手権で代表内定を得るためには10秒05を切ることが必須条件になってくる。

 

しかし、代表選考に強いのがケンブリッジでもある。リオデジャネイロオリンピックでも、2017年の世界選手権でも、ジャカルタアジア大会でも、日本選手権で結果を残して代表切符を手にしている。その勝負強さは周りには間違いなく脅威に映っているはずだ。

 

山縣選手から多田選手までの自己ベスト上位5人を逆転しても何ら不思議ではない。1発勝負の日本選手権で再び結果を残せるか、注目が集まる。

解説者はどう見る?

史上最強といわれる選手たちによる3つの切符を巡る大激戦のレース。過去に日本選手権を勝ち抜いてきた先輩たちはどう見ているのか。

 

ともに北京オリンピック男子400メートルリレー銀メダルの朝原宣治さんと髙平慎士さんに勝負のポイントを聞いた。

 

朝原宣治さん(北京五輪男子400mリレー銀メダリスト)

代表の枠が3枠しかないのはもったいないくらいだ。オリンピックの参加標準記録を切った選手が5人いるので、2人は出られないシビアな戦いになる。タイムについては、雨が降ったり向かい風になったりわからない部分もあるが、無風であれば10秒を切らないと優勝は厳しいと思う。

 

髙平慎士さん(北京五輪男子400mリレー銀メダリスト)

決勝で勝負するにあたってそこまでの予選、準決勝でどういう走りをするか、相手にどういう印象を与えられるかがポイントになってくると思う。レースでは、どうしても他の選手が気になるところもある。そういった部分でタイムとは別の勝負の面白さがあると思う。

この記事を書いた人

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小林 達記 記者

平成26年NHK入局。神戸局、大阪局を経て、スポーツニュース部。陸上担当。大学では野球部に所属。中学時代は陸上も経験。

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