ストーリーフィギュアスケート

リンクづくりに200時間!?フィギュアを支える氷のプロ

2020-11-13 午前 10:50

※この記事は、2018年10月に公開した記事の一部を修正して再掲載しています。

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フィギュアスケートと言えばスケートリンクですが、あのリンクってどうやって作っているか気になりませんか?

気になりすぎて調べてみると、とある職人集団が深く関わっていることがわかりました!

世界が認める氷のスペシャリスト!

リンクに関する職人集団の名は「パティネレジャー」。さらに調べてみると、国内外のスケートリンクの設営を行い、世界中から信頼を集めているらしい…。

 

今年行われたピョンチャンオリンピックでは組織委員会がその設営技術を認め直々にオファーがあったんだとか!

 

すごい!本当に世界レベル!!

 

と、いうことで代表取締役の佐藤洋二さんに話を聞かせていただこうと訪ねました!

 

パティネレジャー 代表取締役 佐藤洋二さん

 

——いきなりですが、一番気になるので早速聞きます!スケートリンクはどうやって作られるのですか?

 

体育館や施設内に設営する場合は、まず氷を作るための冷凍機を屋外に設置します。その機械から、マイナス温度になっても凍らない不凍液をパイプを通してリンクフロアーに流すんです。

 

つぎに、施設内にリンクサイズよりも大きい、繋ぎ目のない1枚の防水シートを敷きます。その上に断熱材を二重で敷設。荷重分散の役割として24ミリの合板を全面に置き、最後に再度防水シートを敷きます。

 

こうして土台となる床が完成したら、氷を張る準備に取り掛かります。

 

床全体に冷却管を張り巡らせ、そこに屋外に設置した冷凍機からマイナスに冷やした不凍液を流して循環させています。

 

冷却管を張り巡らせる作業中

 

最後に、スケートリンクを囲むフェンスを設置すれば、氷が張られていない状態のスケートリンクが完成。特設のスケートリンクの場合、ここまで12時間掛かります。

 

(編集部)
12時間!!すでに気が遠くなりそう・・・

 

冷却管を張り巡らせた体育館内の様子

スケートリンクの設営は地道な作業の積み重ね!

——で、肝心の氷はどのようにして作ってるんですか?水を大量に流して冷えるのをひたすら待つとか・・・

 

いいえ、違います。(きっぱり)

 

冷却管に向かって、ホースを使い手作業で散水をしていきます。不凍液がマイナスの温度で冷却管の中を流れているので、散水された水が徐々に凍っていきます。一度にたくさん水を溜めるのではなく、一回で0.3から0.5ミリメートル程度蓄積するようにまきます。

 

水をまいては凍るまで待ち、水をまいては凍るまで待ち…と、何度も散水を繰り返し、何層もの氷を作っていくんですよ。8センチの氷の層を作るのに約120時間かかります。

 

(編集部)
あんなに広いのに手作業!しかも120時間!!やっぱり気が遠くなりそう…

激しいジャンプにも耐えうる割れない氷の秘密

——氷を張るだけならもっと簡単な方法もありそうですが、なぜそこまで層を重ねるんですか?

 

水の粒子を細かい霧状にして散布することで、水分の中の空気をなるべく除去しています。空気が入っている状態で凍ると割れやすくなってしまうので、空気を抜いているんですよ。

 

——何層にも重ねて作っているおかげで、大きな亀裂は入らないってことなんですね!

 

いいえ。

 

残念ながら、何層も重ねていき、氷が十分な厚みに達したとしても、そのままではまだ完成とはいえないんです。負荷がかかっていない状態で演技をすると、ジャンプの着地の衝撃などで、氷に強い負荷がかかり、大きくひび割れてしまいます。

 

そのため、氷が十分な厚みに達したら、選手よりも先にリンク内を滑ったり、整氷車で走ったりして、氷に荷重をかけ、氷中にたくさんの細かいヒビを入れていきます。

 

整氷車

 

細かい傷がたくさん入ることによって力が分散され、柔軟性のある氷になるんですよ。その細かい傷による光の屈折で氷が白く見えるから、スケートリンクは“銀盤”と呼ばれています。

 

(編集部)
まさか、“銀盤”と呼ばれる理由まで教えていただけるなんて!さすが世界が誇る氷のプロフェッショナル!

 

——これだけこだわっているってことはまいている水にもこだわりありますよね?

 

もちろん!水にはこだわっています。ちゃんと説明をすると、朝まで掛かりますよ(笑)。まず、浄水器の水や純水のように不純物が入っていない水は、熱伝導率が高くなり早く凍る特性があります。なので以前は、より早く凍る純水が良いとされていたんです。しかし、最近になって熱伝導率が高い水だと割れやすい氷になってしまうことがわかったんですよ。

 

うちでは大会が開催される地域の水を使いますが、国や土地によって水の性質が違うため、現地に水の純度を計測する装置を持って行き、環境に合わせて氷作りをしています。現地の水を使う際に、アイスマンと呼んでいる氷作りを担当するスタッフが、耐久性を高めるためにあえて水を濁して純度を下げることもありますね。

 

(編集部)
氷のプロフェッショナルは水のプロフェッショナルでもあったんですね!

整氷には欠かせない整氷車の役割とは?

 

——競技前や競技間に整氷車が氷上を整備しているのをテレビでみます。これは具体的に何をしているのですか?

 

削れてデコボコになってしまったリンクを平らにしているんです。

 

整氷車の後ろに氷を削る箱が付いていて、それを引きずってある程度平らにするんです。次に、削ったあとの溝に水やお湯をまいて表面を平らにしています。

 

 

——だんだん氷の事がわかってきました!他に、整備中はどんなことに気をつけていますか?

 

氷上をきれいにするのはもちろんですが、整備の時間が決められているので時間内に終わらせることを気にしています。整氷車は整備できる幅が決まっているので、走る回数も決まっているんです。一度走ったコースと重なり合うように走って整えていくのですが、その重なる幅が大きすぎると余計に走らなければならないので、ドライバーは、重なりすぎないように運転しています。運転するために免許や資格は不要ですが、限られた時間内できれいに仕上げるためには技術と経験が必要なんですよ。

リンクの状態を左右するのは繊細な温度管理!

——時間が経ったり、観客が入ったりしてもリンクは溶けないんですか?

 

 

観客が入ると熱気で会場の温度が20度以上になりますし、開催日の気候や時間によっても温度は変動するので、それを見越してスケートリンクの温度を調節して溶けないように管理しています。

 

さまざまな場所に温度計を配置し、冷凍機から流れる不凍液の温度、リンクの氷中や表面の温度、さらには場内の空気中の温度を計測・管理しています。リンクを作る際には、氷の中に温度計を埋めていますし、競技間は赤外線温度計でリンク表面の温度を測っています。常に氷の状態を見て、温度調節をしているんです。

 

氷の中に埋め込まれる氷温センサー

 

(編集部)
まさか氷の中にセンサーが埋まっていたとは…!

 

 

会場の空調でも温度調整をしていますが、そんな空調も一歩間違えると氷のコンディションを変えてしまう原因になるのです。というのも、人が寒いと感じる温度の風が空調から出ていても、氷自体はマイナス温度なので氷からすると暑いんです。なので、会場の中でどのように空調の風が流れているのか、見極めることが非常に重要。

 

風の流れを見誤ると、氷の表面に風が当たってしまい、スケートリンクの一部だけ溶けてしまうこともあるんです。そのため、競技大会では、事前に風の流れを入念に確認し、万全の体制で整備に挑むようにしています。

 

(編集部)
風の流れをも見極める…まさに職人!

 

 

会場によって条件が異なりますが、第1滑走者も第8滑走者も、男子も女子も、どのグループでも同じ環境にするために、温度管理を徹底しています。会場を担当するスタッフは、全員インカムをつけ、少しでも温度に変化があった場合は、報告し合うような仕組みになっているんですよ。

 

——リンクの設営から競技中の整備や温度管理など、さまざまな工程がありますが、一番やりがいを感じる瞬間を教えてください!

 

スタッフによると思いますが、私の場合は、すべての選手がいい演技をしてくれた時ですね。選手が転倒してしまうと、こちらに責任があったのではないか…とヒヤヒヤしてしまいます。なので、従業員には、 「選手は競技の4分間に一年、一生を賭けているから、労を惜しまず職務を果たしなさい」と常日頃から伝えています。

 

選手たちが練習の成果を最大限発揮できるよう、温度が0.1度でも変わることを見逃さない職人気質!そのプロフェッショナルな技が、日本のフィギュアスケート界を支えているのかもしれませんね。11月9日(金)から開催される「2018NHK杯国際フィギュアスケート競技大会」では、選手が活躍する姿はもちろん、ベストコンディションのスケートリンクにも注目してみてください!

パティネレジャー 佐藤 洋二さん

スケートリンクの企画から施工・運営管理まで手がけるプロフェッショナル集団「パティネレジャー」の代表取締役。

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