ストーリーパラスポーツ

パラリンピック ボート日本代表 “水上の監督” 立田寛之の挑戦を追う! 

2021-05-28 午後 09:15

障害も性別も異なる4人の漕ぎ手と、1人の“水上の監督”が一緒にゴールを目指す競技、パラリンピックのボート。

 

立田 寛之 選手(後列右)

 

日本代表で“水上の監督”を務めるのは、健常者の立田寛之選手(29)です。5人の心をどうつなぐのか、立田選手の挑戦を取材しました。

声と舵で舟を操る “水上の監督”

 

およそ4mのオール。このオールを2000m漕ぎ、速さを競います。漕ぐ回数は250回を超える、体力が求められる過酷な種目です。

 

 

進行方向とは逆を向いて座る4人の漕ぎ手に対し、1人だけ進行方向を向いているのが、“水上の監督”「コックス」の立田寛之選手です。

 

写真の右端が立田 寛之 選手

 

漕ぐタイミングや舟の状況など細かに指示を出しながら舟を操ります。

 

スピードをあげるときには…「さあ、いこう!マックス!真後ろ飛ばせ!真後ろ!」

 

漕ぐフォームを変えるときには…「しっかり思いっきり動いていこう!」などの指示を出します。

 

舟の傾きを見たり、漕ぎ手の体重移動をお尻で感じ取ったり、漕ぐ音を聞いたり…

 

感覚を研ぎ澄ませて、4人の漕ぎを把握しているのです。

 

立田選手の声がなければ、4人は漕ぎを合わせることができません。まさに“水上の監督”です。

技術をあげるために飛び込んだパラの世界

 

立田選手は、高校の頃にボートを始め、大学や社会人では「コックス」として、チームの日本一に貢献しました。その後、日本代表になったものの、自分のパフォーマンスには物足りなさを感じていました。

 

そんな立田選手が、3年前に飛び込んだのがパラリンピックの世界でした。

 

「競技歴が長くない選手が多いため、コックスとしての腕が鍛えられるのではないか」

 

そう考えたためでした。

 

しかし、立田選手は壁にぶつかります。

 

現在の日本代表の漕ぎ手の選手は4人。

 

 

後列左から視覚に障害のある、有安諒平選手(34)。左ひじ下に麻痺のある、西岡利拡選手(49)。

 

前列左から視覚に障害のある、木村由選手(17)。右半身に麻痺のある、八尾陽夏選手(23)です。

 

障害や性別が異なるため、体を動かせる範囲や出せる力の大きさも違います。ボートで、まず大切な「漕ぎを合わせること」さえ難しかったといいます。

1人1人に合わせた声かけを

 

難しさに直面した立田選手が心掛けたのは、漕ぎ手の障害や性格を理解することでした。そうすることで、一人一人に合わせた声かけができるのではないかと考えたからです。練習や日常での気づきをメモし、最大限力を出せる声かけを追求してきました。

 

例えば、視覚障害のある選手に対しては、レース中の相手の舟との差や自分たちが漕いでいる地点を知らせる声掛けの頻度を話し合いました。

 

また、腕や足に障害がある選手に対しては、麻痺で力が入りづらい体の部位を逐一確認し、どんなフォームで漕げば漕ぎやすいのかともに考え、レース中もその漕ぎ方を意識させる声かけを行うことにしました。

 

さらに、「障害」も体感しようと視覚に障害のある人の見え方を紹介するアプリを携帯電話に入れるなどしてきました。

 

 

新型コロナの影響でチームのメンバーで集まれないときも、オンラインで顔を合わせ、コミュニケーションを重ねました。

 

パラリンピック延期による競技への向き合い方の葛藤、競技を続けられるのか不安な気持ちも話してきたといいます。

 

立田選手、1人1人と向き合い続けてきた時間の大切さをかみしめています。

立田 寛之 選手

(体の動きなどが)コントロールがきかないということが障害であり、個性だと思うので、それと、どうつきあいながらいいものを作っていくかというのが、パラボートならではだと思う。選手が一番心地よくボートを漕げるのかっていうのを、舟の上から降りた後のたわいもない会話や言葉遣いなど、日常生活からも、ひとつひとつ探してきた。“選手を知る”ことに、いちばん時間を費やしたと思います。

本番を想定した練習で見せた修正力

4月末、1か月後に迫ったパラリンピックの選考会に向けて本番と同じ2000mを漕ぎました。

 

「アテンション ゴー!」

 

立田選手の声掛けで一斉に漕ぎ始めます。

 

スタートから200m。手前の選手に比べてその後ろの選手のオールを漕ぐリズムがわずかにずれました。

 

 

チームとして漕ぐペースを変える場面で、視覚に障害のある選手が、前の選手のペースが分からず合わせることができていませんでした。

 

立田選手は、動きが見えていなくても、舟の揺れと傾きからその「ずれ」を把握。

 

「バウサイド(進行方向向かって右)大きく動こう!」

 

的確に指示を出し、修正しました。

 

立田選手、もっとはやく修正したかったという反省はありつつも、手ごたえも感じていました。

 

1人1人と向き合ったことで生まれた信頼関係

漕ぎ手の1人、有安選手は、立田選手のこの3年間に変化を感じています。

 

 

有安 諒平 選手

想定したより、ばらばらな特性を持っている選手たちなので、はじめは、面食らっているなという感じはあったんですけど、いまは、お互いを理解しあって、特に障害に対する理解が深くなってきてくれたおかげで、その人の性格面や身体的特徴をすべて理解したうえでの声掛けが増えてきたと思います。この3年間かけて、お互いを信頼し合っている中でレースができるようになったと思います。

 

6月、日本代表は、パラリンピック出場をかけた世界最終予選に臨みます。

 

立田選手にとって「技術をあげるためのパラリンピック」は「5人で目指したいパラリンピック」に変わりました。

 

5人で力を合わせて、この種目日本初のパラリンピック出場を目指します。

 

立田 寛之 選手

いま集まっているメンバーは共通して人のために頑張れる選手たち。お互いが苦手な部分、得意じゃない部分を補い合って、1秒でもはやくゴールできるように最後までやっていきたい。

社会を生きる私たちに教えてくれること

取材をしていて一番印象的だった立田選手の言葉は、「年齢、性別、障害の違う5人が同じゴールを目指すこの種目は、私たちが暮らす社会と一緒だと思う」です。

 

そんな中で立田選手が心がけてきた「一人一人としっかり向き合うこと」

 

多様な人たちが暮らすこの社会に生きる私たち皆のヒントになることだと感じました。

 

互いに向き合い信頼関係を築いてきた5人が、納得のいくレースをして笑顔で「やりきった」と言ってほしい。

 

まずは、6月3日からの最終予選を勝ち抜けるよう応援したいです。

 

 

この記事を書いた人

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堀 菜保子 アナウンサー

おはよう日本スポーツ担当。

平成29年NHK入局。これまで佐賀局、札幌局で、サッカーやパラスポーツを中心に取材。

 

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