特集 大関・照ノ富士 「きのうはきのう、きょうはきょう」大相撲夏場所

盤石の相撲だった。阿武咲(前頭5枚目)の挑戦を受けた結びの一番。厳しく当たった照ノ富士。
すぐにつかまえて、左の前みつと右上手を取って万全の体勢。
相手に何もさせずに寄り切り11勝目。単独トップを守った。
「きのうのことはきのうで、きょうはきょうで、という感じ。きのうは、そういう相撲を取った自分が悪いので、気持ちを切り替えて頑張ろうと…」
今場所も、力強い寄りや投げで白星を重ねてきた照ノ富士。優勝争いの先頭をひた走る中で「きのうのこと」は起きた。
11日目の妙義龍戦。
豪快な左の小手投げで全勝を守ったかと思いきや、もの言いがついた。
結果は“まげをつかんだ反則負け”。思わぬ形で初黒星を喫した。
その翌日の取組が阿武咲との一番だ。ショックをみじんも感じさせないどころか、力強さを十二分に証明した。
錦戸審判長(元関脇・水戸泉)も高く評価した。「立ち合いも速かったし、前に出て上手を取るのも速かった。安心して見ていられた。きょうは、お手本のように腰が割れていた」
照ノ富士が白星を重ねる中、土俵外では残念な出来事があった。同じ大関の朝乃山が、禁止されている期間の不要不急の外出を認めたという。師匠の判断で休場させられた。
日本相撲協会の芝田山広報部長は「コロナ禍の大変な時に協会の看板を背負っている本人が穴をあけた。重大な不祥事だ」と憤った。
それでも、取組後、照ノ富士は淡々と話した。「必死に1日、1日、やっているだけ」
毎日、淡々と土俵に上がり、みずからの強さを見せつけて白星を挙げる。
その姿からは角界の看板力士と言われる「大関」が、どのような地位なのかを知ることが出来る。
そう思っているのは、私だけではないはずだ。
この記事を書いた人

小野 慎吾 記者
平成28年NHK入局。岐阜局を経て、2019年8月からスポーツニュース部で格闘技(大相撲、ボクシングなど)を担当。前職はスポーツ紙記者。