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特集 カーリング 日本代表が自ら解説!謎の"ミックスダブルス"

カーリング 2019年4月18日(木) 午後0:00

 

先日の世界選手権で男女ともに躍進をみせた日本のカーリング。どちらもあと一歩のところでメダル獲得には届かなかったものの、強豪チームを相手に素晴らしい試合を見せてくれました。

続いて開幕するのが、男女のペアで競い合うミックスダブルス!

日本代表はSC軽井沢クラブの山口剛史選手とロコ・ソラーレの藤澤五月選手のペア。どちらも昨年のピョンチャンオリンピックに出場した選手とあって、4月20日からの世界選手権での活躍が期待されます!

…とはいっても、カーリングのミックスダブルスって4人制と何が違うの?という人も多いでしょう。そこで、日本代表の山口剛史選手にミックスダブルスの魅力やチーム結成の経緯、世界選手権への意気込みなどを聞いてきました!

 

ミックスダブルスって4人制と何が違うの?

 

――4人制のカーリングは見たことがあっても、ミックスダブルスは見たことがないという人も多いと思います。まずはルールの違いから教えてもらえますか?

 

ミックスダブルスは男女のペアでチームを組みます。
そして、2対2で試合をするのでストーンを投げる数が違います。4人制だと1エンドで1チーム8投ですが、ミックスダブルスの場合は5投です。1人が1投目と5投目を、もう1人が2~4投目を投げます。
 
1ゲームあたりのエンド数も4人制は10エンドのところ、ミックスダブルスは8エンドなので展開が早く、1試合の時間が短いですね。4人制だと2時間半くらいかかりますが、ミックスダブルスだと1時間半くらいで終わります。

 

 

――ポジションはリード、セカンド…と決まっているわけではないんですね?

 

そうです。ポジションは途中で変えることもできます。最初からハウス内にストーンが配置されているのもミックスダブルスならではの面白さですね。

図のAとBの位置にストーンがあらかじめ2つ配置される

 

――1投目と5投目を投げる選手、2〜4投目を投げる選手、それぞれどのような役割を担うのでしょう?

 

1投目と5投目を投げる選手は、4人制でいうところのリードとスキップなので、直接得点に関わる重要なポジションです。2〜4投目を投げる選手は4人制におきかえるとセカンドとサードのポジションにあたるので、要するに“繋ぎ”ですね。チャンスにするのか、ピンチを回避するのか……試合の展開を大きく左右します。

 

――女子が1・5投目を、男子が2~4投目を投げるチームが多いのはなぜですか?

 

ミックスダブルスの場合、最初からハウス内にストーンが配置されていて、さらに両チーム合わせて3投目まではプレイエリアの外に(ストーンを)出してはいけないというルールがあるので、4人制よりもストーンがたまる展開になりやすいんですよ。
すると、2〜4投目は速いショットでたくさんのストーンを弾き出すという、パワーを求められることが増えるので、男子の選手の方が得意なケースが多いですね。もちろん反対のチームもいますし、試合の展開によって変えることもあります。

 

 

――人数が少ないと体力的な負担が大きいように思えますが、1・5投目に投げるのと2~4投目に投げるのとではどちらがきついんでしょう?

 

チームの戦術にもよります。1人が投げてもう1人がこする(スイープする)パターンか、1人が投げて自分でこすりつつ、もう1人に指示してもらうパターンもありますね。

 

――藤澤・山口ペアの場合はどうですか?

 

僕たちのチームは全部僕がこすります(笑)。ストーンの曲がり幅や相手の戦術を読むことなど、頭を使う系は藤澤選手にお願いして。体力なら任せておけ!という感じです(笑)。

 

――それは藤澤選手にとっても頼もしいですね!ただ……疲れませんか?(笑)

 

連続でこすっているので体力は使いますが、試合時間が短いので4人制とそれほど変わらないですね。ただ、5投のうち3投は自分の投げたストーンをこするわけですが……自分の投げたショットはより決めたいじゃないですか。気持ちが入る分、疲れるかもしれません(笑)

 

――自分のショットはスイープにも熱が入る、と(笑)。ちなみに、山口選手は自分でショットを投げた際に、スイーパーがいないのに掛け声を叫んでいることがありますよね。

 

あれは癖です(笑)。それに声を出した方が、気持ち的にこう……曲がらないんじゃないかとか(笑)。あと、緊張の度合いが下がるんですよね。メンタルコントロール的にも声を出していた方がいいです。高校生のときにラグビーをやっていたので、熱い系が好きなんですよ。

 

 

――ミックスダブルスならではの面白さってどんなところでしょう?

 

石が全くない状態というのがほとんどないので、点数が動きやすいのは面白いですよね。ダブルテイクアウト、トリプルテイクアウトを狙うチャンスもありますし、ピンチでも最後の1投で耐えるというパターンもあります。あとは、パワープレーという特有のルールがあって、後攻に有利な展開を最初から設定できるんです。

 

――パワープレーとはどういうものでしょう?

 

通常は2つのストーンをセンターライン上に置くんですが、1試合で一度だけ後攻の時に使えるパワープレーというルールを適用すると、左右にずらして配置することができるんです。すると、先攻は2投目までストーンを弾き出すことが出来ないこともあって、ハウスの中でストーンが散らばります。後攻はダブルテイクアウトされづらくなるので、これは先攻にとってすごく不利な展開になるんです。

 

パワープレーの配置(左右は逆でも可)

 

――点が動きやすく、展開もスピーディー。加えて、ミックスダブルスならではのルールを理解するとより試合を楽しめそうですね。

 

そうですね、4点差で逆転勝ちとかもあって、とにかく試合が動くのが面白いですし……何といっても時間が短い(笑)。4人制よりも早く試合が終わるので見やすいと思います。

2年連続で全勝優勝!国内最強の藤澤・山口ペアって?

2018年 ミックスダブルス日本選手権優勝時の藤澤・山口ペア

 

山口選手はロコ・ソラーレの藤澤五月選手とペアを組み、日本選手権では2年連続、全勝優勝を果たしています。

 

――藤澤選手とのペア結成の経緯を教えてください。

 

合宿などで男女一緒にご飯を食べるときの会話のネタとして『ミックスダブルスをやるなら誰とやる?』というのがあって。最初のきっかけとしてはそこですね。

 

――もともと一緒にやればいいチームになるという認識をもっていたということですか?

 

そうですね。僕はずっとセカンドをやっていて、氷の読みに関する知識があまりなかった。藤澤選手はスキップの部分は得意ですが、スイープが苦手なので、お互いに欲しいものが一致したのがきっかけです。ペアを組むこと自体はピョンチャンオリンピックの前には決めていました。

 

――普段の何気ない会話から実際にペアを結成することになったんですね!藤澤選手は普段どんな方なんですか?

 

カーリングが好き!常に楽しんでいる!という感じです。試合中もそれ以外のときもプラスのことしか言わないというか、マイナス傾向の言葉は言わないですね。
試合後の振り返りなどでも戦術的なミスについて話し合うことはありますが、責められたことはないです(笑)。すごくポジティブな人です。

 

 

――藤澤選手とのペアは今年で2年目になりますが、1年目と変わってきたところはありますか?

 

たとえば、僕と藤澤さんとではストーンを離すタイミングが違うので、同じところには止められるんですけど、狙うところは違うんですよ。そういったお互いのクセを理解できるようになりましたし、いい感じになっていると思いますね。

 

――試合の経験を積み重ねてきたことの影響はいかがでしょう?

 

ミックスダブルス特有の作戦というものがあって、それを実践できるようになりました。

たとえば、日本選手権の決勝であえて7エンド目に相手に1点を取らせて、後攻をもらって最終エンドを有利に進めました。相手が既にパワープレーを使っていたのと、得点差から判断した結果の作戦です。藤澤選手の最後の1投はミスに見せかけた成功だったんですね。

あとは、昨年の世界選手権で海外チームと戦ったことで、パワープレーの使いどころが分かるようになりましたね。1年目は使いどころが分からなくて、そのまま使わずに試合が終わってしまうこともあったりして……。

 

2019年 ミックスダブルス日本選手権 2年連続優勝

 

 

――ミックスダブルスの経験が4人制に生きてくることはあるんでしょうか。

 

もちろんあります!2人しかいないので、より自分を信じる力が必要になります。4人制だとストップウォッチでタイムを計っているので、オーバーしてしまったショットが投げ手のミスなのか、氷の読みをミスしたのかを判断できるんですが、2人だと計れないので自分の感覚を頼りにやるしかありません。

 

――ミスした後の答え合わせができないということですね。

 

はい。だからこそ、4人制に戻ったときに自分に自信をもってやれるようになりました。技術的には、止める系のドローのショットも得意になりました。あと大きいのはコミュニケーションですね。

 

――コミュニケーションというと?

 

藤澤選手はロコ・ソラーレのコミュニケーションの取り方をしますし、僕はSC軽井沢のコミュニケーションの取り方をします。違うチームのコミュニケーションの仕方を自分のチームに持ち帰れるのは大きいですね。

 

――具体的にはどんな違いがあったんでしょう?

 

単純に(ロコ・ソラーレの方が)コミュニケーションの量が多いというのもありますし、ショットのプランをひとつだけではなく、それが上手く行かなかった時のBプランも用意しているんです。「ピンポイントで狙うのがAプラン。それが強すぎた場合はBプラン」というように。そうすると“弱すぎなければ良い”ということになるので、ミスの確率が減ります。でも僕らはそれをしていなかった。
はじめからBプランを意識しすぎると、本当に狙いたいAプランの決定率が下がるというデメリットもあるので、実際にはその場面ごとに使い分けています。

2度目の出場となる世界選手権

 

――日本選手権では全勝優勝で2度目の世界選手権出場を決めましたね。今年と昨年で何か違いはありましたか?

 

国内のレベルは上がっているので今年も楽な試合はなかったですね。あと、昨年はオリンピックの直後だったのでメディアの数が多く大変でした。もし負けたら「山口のせいだ!」って言われるんじゃないかって、勝手にプレッシャーを……(笑)。

 

――ずばり、今回の世界選手権における目標を教えてください!

 

もちろん優勝です!

 

――そのためにポイントとなってくることは何だと思いますか?

 

まずは初戦ですね。昨年は初戦で負けてしまったんですが、負けが先行してしまうと辛いんですよ。それから、決勝進出のためにも同じグループのスウェーデン、カナダのどちらかには勝ちたいと思っています。ペア2年目で戦い方が分かってきたので、前回の成績(5位)を越えられる力はあると思いますね。

 

――ミックスダブルスの大会は4人制で出場してこない国もありますよね。これはどうしてでしょうか?

 

2人だからやりやすいんじゃないでしょうか?練習時間も確保しやすいですし。ミックスダブルス専門でやっているチームはとくに戦い方が違いますし、技術だけじゃない部分が強いです。例えば4人制であまり出てこない国だと、エストニア。見た目もきれい、かっこいい2人なんですけど、戦い方がうまいんですよ。技術というより攻め方がうまい。あと、見ているとブラジルも強かったりしますね。カーリングのイメージはあまりないかもしれないですけど……。

 

――4人制であまり出てこない国にも注目ですね!

 

そうですね!ただ昨年の優勝はスイスですし、今年ももちろん4人制で強い国のチームが出てきます。とくに注目しているのはスウェーデン。これは多分ヤバいと思います(笑)。カナダやアメリカは言うまでもなく強敵ですね。

日本男子“初”のメダル獲得なるか!?世界選手権の見どころは?

 

――世界選手権の見どころを教えてください。

 

ミックスダブルス特有の石のたまり方、点数の動きを見てもらうと楽しめると思います。あとは会話ですかね。4人制よりも会話が聞き取りやすいです。

 

――男女のペアということで、会話の内容は4人制のときと少し変えたりしているんですか?

 

そうですね。最近はあまり気を遣っていないですけど(笑)。どちらにしても、藤澤選手が笑ってプレーしてくれているときの方がチームとしては強いので、(藤澤選手に)不安要素があれば上手くかわせるようにしたいなと思っています。

 

――ということは、藤澤選手の表情にも注目して応援すると楽しめそうですね!ミックスダブルスを含め、日本のカーリングはレベルが上がっているのでしょうか?

 

上がっていますね。世界選手権でコンサドーレが9勝したのもすごいし、女子はチーム別の世界ランキングでどんどん上位に上がっています。そんな中、日本の男子が世界でメダルを取ったことはないので、第一号になりたいです!

 

 

結成2年目になり、進化を続けている藤澤・山口ペア。日本男子初のメダル獲得となるか、要注目です!

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