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特集 新小結 竜電剛至関と対談あと10年取って上に上がれたらいい

相撲 2019年7月3日(水) 午後0:00

新小結 竜電剛至関と対談あと10年取って上に上がれたらいい

山梨県甲府市出身の竜電剛至関は、平成24年九州場所で新十両に昇進しましたが、その場所で右の股関節を骨折し休場を続けて、序ノ口まで落ちました。復帰の場所から序ノ口、序二段、三段目と優勝を続けて28年九州場所で十両に復帰しました。新入幕の30年初場所では10勝を挙げて敢闘賞を受賞。令和元年夏場所に技能賞を受賞して名古屋場所は新小結に昇進です。

関取経験者が序ノ口まで落ちてから新三役に昇進するのは、大相撲史上初の快挙となりました。名古屋場所を前にNHKの太田雅英アナウンサーが本音と決意を引き出ました。(対談は6月11日)

 

勝ったことのない碧山関に勝って技能賞

──夏場所の技能賞おめでとうございます。
うれしかったです。自分の相撲を褒められているというか、すごくうれしいです。

 

技能賞の盾を持つ(夏場所千秋楽)

 

──新入幕で敢闘賞を取りましたが、それとは違いますか。
違いますね。新入幕の敢闘賞は1回しかないですね。取れてよかったなと思っています。技能賞というのは技能が評価されるのですが、私はそんなに技能はないです。必死で取っていてそれを評価されたということは、やっていてよかったなと思います。

──千秋楽は本来の相撲が取れましたか。
勝ったことのない碧山関だったので、何でもしてやろうという思いで動き回ったら何とか勝てました。「うわーどうしよう、どうしよう」みたいな感じでした。

 

輝関と稽古する(6月11日)

 

──幕内上位に上がって、手応えを感じ始めているのではないですか。
ずっと基礎をやっていたことが、やっと身についてきたのかなと思いますね。メリハリをつけた稽古が自分に合っていると最近思い始めました。楽しくやったほうが伸びると思います。夏場所は珍しく決まり手が多かったのです。いろいろ表現ができるようになりました。

 

「男の中の男になれ」親方に言われて入門

 

──平成18年春場所に入門しましたが、中学までは柔道をやっていて、地元山梨県では有名な選手でしたね。
柔道をやっていたことが入門のきっかけになりました。同じ柔道部の大きな子を師匠高田川親方(元関脇安芸乃島)が見に来たのです。そこで校長先生が私のことも推薦してくれて、校長室で初めて親方に会ったのです。

家へ帰って父にきょうこの人と会ったよと言ったら、びっくりして有名な人だよと言われました。

 

竜電剛至関と高田川親方(元関脇安芸乃島)

 

その出会いから親方が何回も山梨に来てくれて、親方から「男の中の男になれ」とか「男にほれられる男になれ」とか言われ、相撲の世界を選びました。

 

「期待していない」と言われて気持ちが楽になって新十両

新十両に昇進した竜電 関(2012年)

 

──新十両に上がれたきっかけは何かありましたか。
幕下優勝して十両に上がりましたが、優勝する3場所前に(全勝すれば十両に上がれる)幕下の15枚目以内の番付で4連勝してそのあと負けました。自分の中では4連勝できるのだという気持ちがあって、今まで負けていた人にも勝てるかなという気持ちになりました。

幕下優勝した場所は、師匠が「どうせ負けるのだから期待していない」と言ったので、それで気持ちが楽になりました。軽い気持ちで相撲を取って全勝で優勝しました。

──師匠は、ノドから手が出るほど昇進してもらいたかったに違いないですから、関取の緊張をほぐそうとわざと言ったのですよ。

 

3回骨折し もう終わりと思ったとき奇跡的に骨がつながった

──その新十両の九州場所の中日、8日目。私もよく覚えています。まさかの大ケガだったですね。最初に聞いたときは2、3週間のけがだったと思います。
はい。その日は分からなかったのです。MRIやレントゲン撮影を行ったのですが、骨は折れていないと言われたのです。ただ血がたまっていると言われて診断は全治3週間になったのです。

次の日にCTを撮って、すごく見えづらいところでピッと骨折していて、こんなところを骨折したのは見たことないと言われました。いちばん硬い骨で、骨折するのは交通事故でトラックにはねられたときなどということでした。一瞬に全部の衝撃が腰のその部分に来たと言われたのです。

 

 

──今だから振り返ることができますが、当時は本当に大変でしたね。
休場が続いて番付表から名前が消えたら自分が相撲取りではない気がして、1番だけ取る場所が続きました。番付表を見てそこに名前がなかったら、自分は何でここにいるのかということになるじゃあないですか。股関節の骨折は、結局3回続きました。3月に稽古場で動いたら、パキッと音がしたのです。そこで骨折して休場して、名古屋場所前にやっと稽古できるようになって、本場所で取ったらまたバキンと音がして、しかも3回目は座骨まで折れていて、本当に治るまで休まないとだめだと思って半年間くらい稽古場に降りなかったです。

骨もつながらなくて、何回も折っているから体がここはつながっていないところだと認識して治らないんじゃないかと言われました。もう1か月待ってつながらなかったら、手術してつなげるしかないと言われて、その手術をすると普通に生活ができるようになっても相撲は考えられないと言われました。もう終わりかなと思ったのですが、1か月後に病院に行ったら奇跡的に骨がつながり始めていたのです。

 

十両復帰の九州で勝ち越し やっていてよかった

 

──骨がつながらないときがいちばん絶望的でしたが、その後も不安なことばかりじゃあなかったですか。
やめようとは思わなかったですね。治り始めたから治るまで何年かやって、十両に戻れなかったらやめようという気持ちでいました。このままでは終われないので、少しでもやろうと思っていました。

序ノ口くらい行くだろうと思って優勝して、序二段は苦しいと思っていて優勝しました。三段目は無理だろう、勝ち越せばいいなと思っていましたが、優勝できました。気持ちがどんどん変わってきて十両に戻りたいと思うようになりました。

 

九州場所 (2016年)

 

──4年ぶりにまた九州場所で十両に復帰しました。
怖かったですね。うれしさもあったのですが、また九州かという思いが強かったです。その九州場所、前にケガをした中日が怖かったですね。九州で勝ち越したのはうれしかったですね。やっていてよかったという思いですね。

 

相撲九州場所7日目 竜電―高安 (2018年)

 

──十両7場所で新入幕を果たし、幕内上位まで来ています。九州場所で髙安関に勝って大関戦初白星を挙げました。
まさか勝てるとは思わなかったです。稽古量も増えてきて、地道に基礎をやれるようになって、それが少しずつ出てきているのです。改めて基礎が大事だなと思いますね。

もう幕内はテレビで見ていたところに自分が出ているのですね。髙安関に勝ったときは、まわしが取れたので、我慢しよう、我慢しようと思って取りました。

 

忙しいときでもちゃちゃっと食事を作ってくれる

披露宴でケーキ入刀(6月9日)

 

 

──今回はまた喜んでくれる人と6月9日に披露宴がありました。改めましておめでとうございます。
ありがとうございます。披露宴は楽しかったです。何人かの方に、準備は大変でもあっという間に終わってしまって、もう1回やりたいなと思うよと言われて、確かにそうだなと思いました。430人も集まっていただきました。

──年上の奥様とうかがいましたが、食事面などを含めてかなり気を使ってもらっているのではないですか。
忙しいときでも、ちゃちゃっと食事を作ってくれます。外食をするときは気持ちが合うんですね。ステーキか焼肉かすしかみたいな感じで、毎回同じところに行きます。そういうところが合っていますね。

──ますます頑張らなければという気持ちになるんじゃないですか。夏場所もいい成績でした。令和最初の場所で技能賞です。
そうか。最初の技能賞なんですね。これからだと思います。

我慢する相撲を取る 諦めたらダメと伝えたい

 

──今いちばん磨いていることはどんなことですか。
やはり相手が嫌がる相撲を取りたいと思います。稽古場では頭を上げないことを意識しています。

──いろんな目標、夢があると思いますが、今どんなことを考えているのですか。
やはり夢は上を目指してやっていくことですね。三役から上を目指してやっているのです。ことし29歳になるので、自分はあと10年取ることを目標にしています。38歳までです。その間に上に上がっていけたらいいなと思っています。

──大けがを乗り越えて活躍している関取だからこそ伝わることがあると思いますが、自分のこういうところを見てもらいたいというのは、ありますか。
そうですね。よく手紙をいただくんです。けがをしてまた上がってきて頑張っている姿を見て、自分も頑張ろうと思いましたと書いてあります。そういう手紙を読むと自分はもっといい相撲を取ろうと思います。だから我慢する相撲が取れるのかもしれません。

今の若い子はすぐ諦めてしまいます。諦めたらそこで終わりです。でも我慢してやったら、何かが生まれてきます。そういう気持ちで見てくれる人がいるんだと思うと、もっといい相撲を取らなければと思いますね。

太田雅英(おおた まさひで)

神奈川県藤沢市出身、東京アナウンス室所属。平成10年入局、スポーツ中継担当。

趣味、特技:剣道5段

モットー:正直第一

好きな食べ物:一杯飲んだあとに食べるラーメン。翌日、ものすごく後悔しますが、食べているときは最高です。

 

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