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特集 貴景勝『毎日勝つという気持ちで優勝を狙います!』~刈屋富士雄の独占インタビュー~

相撲 2019年8月29日(木) 午前0:00

貴景勝は新大関の夏場所、けがで休場しながら再出場、さらに再休場と迷走。名古屋場所は最後まで出場にこだわりながらも休場を決めた。さらに上を目指すため、関脇に陥落しても体をすべて作り直すという秘めた胸の内を刈屋富士雄解説委員に明かしてくれた。

膝はほかのけがより、やっかいだった

──いま、けがはどんな状態なのですか。
もうだいぶ、膝も良くなってきて、秋場所に向けてさらに筋力をつけている段階です。やはり前の自分よりパワーアップしておかないと、膝をけがしている分、もっと前の自分より追い込んでおかないといけないと思っています。

──過去最大のけが、いちばんひどいけがだったのですか。
そうですね。けがをしたときは、いつもと同じだと思っていました。痛みは足首を骨折したときとか、首とかけがしたときと変わらない感じでした。しかし膝のけがというのは全然違って日によって調子が違います。骨を折ったときは、だんだん良くなって痛みも引いてくる感じです。膝の場合は、きょういいなと思っても、また次の日の朝、痛くなったり、天気でも雨の日は動きが悪くなったりします。ほかのけがよりやっかいだなということが分かりました。

「あ、けがをした」どうしようと思った

大相撲夏場所4日目 御嶽海―貴景勝 寄り切りで御嶽海を破る (5月15日)

 

 

──けがをしたのは新大関の夏場所四日目でした。
御嶽海関と当たって、押し込んでもろ差しが入り、そこで右上手を切ろうと振ったとき、相手の体重が全部右足に乗ってきてしまいました。ふだんなら足を外に開いて投げを打つのに、もろ差しで足がまっすぐになっていたので、膝が動かずひねってしまったのです。その瞬間に膝をけがしたことは分かりました。「残った。残った」で寄って、すぐです。ここで止まってしまいました。「あ、けがをした」と思って、勝ち負けよりどうしようと思いました。

──よくそこで相撲を止めずに寄り切りましたね。
けがをしてしまったし、目の前の一番を適当に取ることはできないと思いました。風呂に入っているときも、支度部屋にいるときも、感覚がないくらいだったので、冷やしたりはしていました。

──そこまでの大けがとは思っていなかったのですね。少し痛めたくらいだと。
膝が入ったなくらいにしか思っていませんでした。そうしたら朝方痛くて起きてトイレに行こうと思ったら歩けなかったです。これは出場できないと思って病院に行きました。

 

氷で痛めた膝を押さえる(夏場所4日目)

注射のまひを勘違い、分かって落ちては出る意味がない

──それで2日くらいしたら、痛みが引いてきたのですか。
ブロック注射を打ったら腫れも引いて、痛みも全くなくなりました。注射で足の感覚をまひさせていたのです。そのときは私のなかでは出られると思ったのです。力も入るし、痛みもあまりないのです。後から考えると注射によるまひだったのです。大関の責任も果たさないといけないと思い再出場して、碧山関と対戦しました。

大相撲夏場所8日目 貴景勝―碧山 貴景勝(左)がはたき込みで碧山に敗れる (5月19日)

 

 

──碧山関は変化しましたね。
あれは、ふだんの自分ならイージーなんです。「来た!」みたいに対応できるんです。反応できなくて落ちたのでなく、分かっていて落ちたんです。これじゃあ出ている意味がないんです。こんな相撲はお客さんに見せられないと思いました。

押す いいイメージだけで出場を目指した

──名古屋場所は出場するつもりだったのですね。
そうです。出ないのなら東京でずっとリハビリとパワーアップのトレーニングをやっていたと思います。名古屋に入ったということは出るという気持ちでした。

──関取衆と稽古するところまではいかなかったですか。
相撲は取れたのです。でもあえて取らなかったのです。パフォーマンスが少し落ちているなかでレベルの高い関取衆とやるとなると、いろんな動きが入るし、自分の相撲さえ崩れると思ったのです。それで一回全部忘れて、一押しだけにして小さいときにやってきた相撲だけ出そうと思ってあえて取らなかった部分もありました。だから若い衆や幕下相手に押すだけで、いいイメージだけ残して臨もうと思っていました。

もう一つ上に行きたいから休場を決めた

──名古屋場所に出るつもりでやっていた。でも師匠(千賀ノ浦親方・元小結隆三杉)は止めたのですね。
自分は「出たいです」と、師匠は「出させたくないよ」とお互いに言って、「出ないにしても心の整理に時間がかかります」と言いました。師匠が「関取衆と稽古をしていないし、もっと膝を良くして、来場所(秋場所)10番目指したほうがいい」と言うのを私もそうだなと思って聞きました。大関から戦わずに落ちるということもあったし、いろんなことを考えて師匠の言ったことは正しいと思いました。大関でいいならそれでもいいと思ったのですが、もう一つ上に行きたいからしっかり治そうと思い師匠に「休みます」と言いました。

秋場所出場のため、全部一から作り直す

新たに贈られた化粧まわしを手に決意を語る(6月16日)

 

──「秋場所には出るぞ」という気持ちが強くなってきましたか。
もちろんです。そのために名古屋場所に出なかったわけですから。

──名古屋場所の前と比べて、かなり手応えを感じていますか。
また良くなってきたと感じています。骨のように完治はないんです。一度、じん帯が緩んだところは縮まることはないので、長くつきあっていくしかないんです。周りの組織の硬さを見ると、だいぶ良くなってきたと思います。ここで周りを筋肉で固めないと、またけがをしてしまうことになります。自分の相撲を見直さないといけないと思います。全体にパワーアップをしないといけないです。右膝から動けないと全体の筋肉が落ちます。だから全部一から作り直すということです。

──過去の例を見ると10番、2桁勝って戻る先輩方は何人もいますが、2桁勝つということを常に頭に置くのか、それとも1番1番しっかり取っていくという内容を重視していくのか、気持ちの持ち方はどちらになるのでしょうか。
そうですね。やはり10番勝とうと思ったら勝てないと思います。1日1日、目の前の相手に力を出し切ることが大事ですが、結局、最後に優勝を狙わないと10番勝つのは難しくなるので、毎日、勝つという気持ちで優勝を狙います。

 

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