ストーリーフィギュアスケート

"島田高志郎"と"ステファン・ランビエール" 「スイスで磨かれた才能と師弟の絆」

2019-11-21 午後 0:00

今シーズン、シニア1年目、NHK杯に初出場する島田高志郎選手。ノービス、ジュニア時代から豊かな表現力が光り、長い手足、すらりとしたスタイルも目を引く18歳。

今シーズン、シニアデビューを飾ったばかりの新星が、いよいよ母国でトップ選手が出場するグランプリシリーズという大きな舞台に立つ。島田選手をコーチとして支えているのが、2度の世界チャンピオンでトリノ五輪銀メダリストのステファン・ランビエールだ。

松山から岡山、そしてスイスへ

島田選手はいまから5年前、中学1年生のとき、自分の長所と将来の抱負をこう話していた。

島田高志郎選手

表現力でアピールするのが自分の魅力かなと思いますが、スケーティングをもっと伸ばしたい。

本田武史先生から、高橋大輔選手、羽生結弦選手まで、日本男子に続けるようにがんばりたいです。

 

はきはきと的確な言葉を使って答える島田選手に、「どうしたらこんなにしっかりした子になるのだろう?」と報道陣はいつも感心していた。

 

 

島田選手は2001年愛媛県松山市出身。3人きょうだいの末っ子で、スケートとの出会いは、幼稚園の年長のころ、母親に連れられてリンクに遊びにいったことがきっかけだった。子どものころから運動神経が抜群だったという島田選手がフィギュアスケートを選んだ理由は少し意外だ。

島田高志郎選手

体操、水泳、バレエ、サッカー、テニス・・・・・・習い事はなんでも少しはできていたんです。

でも、スケートはまったくできなかった。うまくなったらどうなっていくのか、わからなかった。だから、スケートを選んだのかなと思います。

 

スケートのために、小学4年生から岡山市に母親と移り住み、2013年全日本ノービス選手権ノービスAで優勝するなど、順調に成長していったが、2017年春、当時のコーチが岡山から拠点を滋賀に移すことになった。

 

 

そのとき、移籍先として候補に上がったのが、憧れのステファン・ランビエールがスイスに開校していたスケート学校だった。よりよい練習環境を求めて、その夏、スイスに単身渡る決意をする。15歳の旅立ちだった。

 

モチベーションを大切にするランビエールの指導法

世界選手権 (2005年) ステファン・ランビエール (中央)

 

ご存知のように、スイスの英雄ステファン・ランビエールは、トリノオリンピック銀メダリストで2005年、2006年世界選手権2連覇という輝かしい成功を収めたスケーターである。選手としてだけではなく、現在もプロスケーターとして、見事なパフォーマンスを世界中のアイスショーで披露している、フィギュアスケート界の至宝といっていい人物だ。

彼の指導者としての力に目をつけた日本スケート連盟は、2013年から氷上コーチとして夏の強化合宿に毎年のように招くようになった。島田選手がランビエールと出会ったのも、野辺山合宿(全国有望新人発掘合宿)だった。ランビエールの滑りに魅了された幼い島田選手だったが、ランビエールのほうも同じだった。

 

アイス・レジェンド2014

 

いち早く島田選手の才能に注目していたのは、自ら主催したアイスショー「アイス・レジェンド」(2014年12月、スイス)に、本田真凜選手とともに招いたことからもよくわかる。日本の選手を見てきたランビエールは、日本の若いスケーターについて、「とても理解力があり、練習に長時間集中することができる」と評価している。

彼が指導するうえで大事にしているのが「スケーターのモチベーション」だ。プロスケーターとして一流の技術をキープし続けているランビエールは、生徒たちと一緒に並んで、まるで競争のように、ジャンプやスピン、ステップを滑って指導することもあれば、靴を履かずに自分で自由にやらせることもあるという。そして、コーチの役割は技術指導にとどまらない。

 

ステファン・ランビエール コーチ

元気をなくしていると感じるときは、ぼくの世界に招きいれてエネルギーを与える。

どうやってスケーターをポジティブな状態にしてあげられるかというのはコーチの腕の見せ所なのかなと思いますね。

ジュニアグランプリファイナル表彰台、そしてシニアへ

ジュニアGPファイナル(2018年)

 

スイスに移って1年目はケガのため、結果が出せない時期を過ごした島田選手だったが、2年目は見事ジュニアグランプリファイナルに進出し、銅メダルを獲得した。世界ジュニア選手権で9位に終わった島田選手だったが、2人は「戦う準備はできている」とシニアに上がることに迷いはなかった。

島田選手にとって、先輩弟子のデニス・ヴァシリエフス(ラトビア)は、よきトレーニングメートだ。ランビエールのもとには、宮原知子選手、紀平梨花選手、白岩優奈選手、宇野昌磨選手らも日本から訪れ、いい刺激を受けているという。

 

ネーベルホルントロフィー SP(2019年)

 

シニア1年目に選んだ今季のショートプログラムは、オリバー・トンプセットの「Stay」。カナダのダンサー、サラ・ドーランの振付で、悲恋の物語に挑む。フリープログラムはランビエール自身が振付けた「アーティスト」だ。昨年、亡くなったカザフスタンのデニス・テン(ソチ五輪銅メダル)の名演で知られる楽曲で、島田選手自身が「シニアをこの曲で戦いたい」と自ら選曲した。

 

ステファン・ランビエール コーチ

コウシロウはすごくポジティブな子で、笑顔が絶えなくて、練習中の態度だって、いつも素晴らしい。この曲はよく似合うと思う。ぼくは、スローパートを入れるようにいいました。

というのも、コウシロウにはロマンティックなところがあるから。ぼくもすごくロマンティックだしね。その中盤の部分が1つ重要なパートになっています。

グランプリシリーズのデビュー戦

島田選手のシニア1年目の競技会は、9月下旬のドイツのネーベルホルン杯からはじまり、10月5日のフリーのみで競う3地域対抗の団体戦「ジャパンオープン」。

 

GPシリーズ スケートアメリカ(2019年)

 

その次に迎えたのが、グランプリシリーズのデビュー戦となるスケートアメリカだった。ショートプログラムとフリースケーティングの両方で冒頭ジャンプのミスが出たが、最後まで攻める気持ちを持ち続けた。結果は10位だった。

島田高志郎選手

素晴らしい経験をさせていただきました。ステファンコーチともキス&クライで話したのですが、このアメリカ大会は、ぼくのスケート人生にとって、絶対必要な経験だった。フリーが終わった瞬間から、もっとうまくなって、もっと高みで自分のスケートを披露したいという気持ちがこみあげてきました。

 

ランビエールもデビュー戦の結果を前向きにとらえている。

ステファン・ランビエール コーチ

グランプリという大きな舞台で第一歩を踏み出したことを非常にうれしく思っています。現段階において、コウシロウはレベルをとれる良いスピン、4回転(トウループ)がある。さらにサルコウも跳ぶし、ルッツも練習で降りている。滑ることを楽しんでいて、すぐれた音楽性がある。今日彼が観客とつながる演技ができたのもうれしい。コウシロウは1つのパッケージとしてバランスよく仕上がっている。彼に必要なのは、大きな舞台での経験なんだ。

コウシロウは自分がもはやジュニアの小さなコウシロウではなく、いまやシニアスケーターになったことを理解したと思います。2つのすばらしいプログラムを滑って、輝ける才能を秘めているんです。

「NHK杯は素晴らしいドラマが生まれる試合」

島田選手の次の大舞台はNHK杯。これまでのNHK杯で印象に残っている演技についてたずねると、表情がいっそう明るくなった。

島田高志郎選手

羽生選手の『SEIMEI』が一番記憶に残っていますね。会場ではなく、テレビの生中継で見ていたのですが、史上初めて300点、しかも300点どころではなくて、320点以上出していたのが、一番僕の中では印象に残っています。

それから、ソチのシーズンの高橋大輔選手のフリーのビートルズ。すごく感動して泣いてしまいました。素晴らしいドラマが生まれる試合だと思っていますので、まずその場に立てることは光栄に思っています。

 

 

ランビエールと初めて臨むNHK杯。島田選手は「自分の納得できる演技をして、さらに上を目指していきます」と力強く語った。果たしてNHK杯でどんな演技が見られるのか、どんなドラマが生まれるのか──楽しみだ。

鈴木和加子

フィギュアスケート専門誌「ワールド・フィギュアスケート」(新書館)の編集長。オリンピックや世界選手権をはじめとする競技会や国内外のアイスショーなど、フィギュアスケートのさまざまなイベントを取材している。

 

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