ストーリー/野球
憧れの“男気”を超えたい 347球に込められた開幕投手への思い
2021-02-22 午後 05:40

広島の九里亜蓮投手。8年目の29歳だ。昨シーズン、チームで最も長いイニングを投げ自己最高の成績を残した。今シーズンは「開幕投手を目指す」と公言してキャンプに臨んでいる。そこには、憧れの先輩や意識している後輩の存在があった。
347球に込められた思い
キャンプ4日目の2月4日。九里は午前11時にブルペンに入ると2時間以上その場所から離れなかった。直球やカーブなど交えてひたすら投げ込んだ。その球数は347球に及んだ。
九里 亜蓮 投手
開幕投手を目指すというふうに自分の口から言ったからにはやっぱりそこを勝ち取れるようにしっかりとやりたい。最初から最後までマウンドに立っていたいチームの勝ちに貢献するピッチングをした上で最後までマウンドに立っていたいという気持ちが強く持っている。
昨シーズン、チーム最多のイニング数も納得せず
(2020年10月27日の試合に先発した九里投手)
プロ8年目29歳の九里。気持ちを前面に押し出したピッチングが持ち味だ。昨季は初めて規定投球回を達成。チームで最も多い130と2/3イニングを投げて8勝をあげた。防御率2点96、106奪三振、完投2つはいずれも自己最高の成績だった。しかし、現状に満足することなくこのキャンプに臨んでいる。
黒田博樹という投手
(2015年 広島に入団会見する黒田投手)
九里が投げ込んだ347球。かつて広島でこの数に近い343球を投げ込んだ投手がいた。黒田博樹さんだ。黒田さんは、広島や大リーグのドジャース、ヤンキースで活躍し、日米通算203勝をあげた。そして黒田さんの名前が大きく脚光を浴びたのが2014年のオフに広島に戻る際だ。複数の大リーグ球団が20億円前後の契約を提示する中、広島と年俸4億円(推定)で契約した。
黒田 博樹 投手(当時)
最後はカープファンの気持ちが大きかった。現役をあと何年続けられるかわからない中、カープで投げる方が1球の重みを感じられると思った。
広島への黒田さんの熱い思いは“男気”という言葉でも話題になった。
黒田さんの言葉
(2015年3月 広島に復帰し、先発した黒田投手)
九里は黒田さんと2年間ともにプレーした。黒田さんにとって野球人生の最後の2年間だ。この頃の九里はリリーフに回るなど黒田さんのいた2年間は2勝にとどまり伸び悩んでいた。
当時、九里は抑えたい気持ちが強くなりすぎて、きわどいコースにボールを投げるあまりボールが先行してしまう苦しい投球が多かった。九里はそのとき黒田さんからかけられた言葉が心に残っている。
九里 亜蓮 投手
『完ぺきを求めすぎるなよ』と。完ぺきな人間、完ぺきなピッチャーなんかいない。黒田さんにその言葉を言っていただいて気が楽になった。黒田さんの最後までマウンドに立つという姿勢、“男気”というのは本当に憧れる。ただ、憧れで終わってはだめだと思う。超えられるぐらいしっかり僕自身も練習しなければいけないと思っている。
キャッチボールでは...
意識は、毎日のキャッチボールからも垣間見られた。九里は投手の中で1人だけ二塁ランナーを刺すキャッチャーのようにしゃがんだ状態から低く鋭い球を投げていた。下半身の粘りを投球にも生かそうと今年から取り入れた新しい動きだ。
九里 亜蓮 投手
投げれば投げるほど疲れが出て、上半身に頼ってしまいがちになる。しっかり意識を持ているんじゃないかと思う。先発、完投するピッチャーは多い球数を投げ込んでいる。完投にこだわる姿勢を見せたい。
後輩・森下のカーブ
年下から学ぶ姿勢も貪欲だ。昨シーズン、新人王のタイトルにも輝いた森下だ。森下は、150キロを越える速球に加え、得意とする落差のあるカーブは球界でも屈指だ。緩急をつけたピッチングでチームトップの10勝をマークし、防御率も1点台と結果を残した。九里にとってカーブは得意なボールではない。去年の秋季練習、そのカーブのボールを握り方を森下に教わる姿が印象に残る。
九里 亜蓮 投手
森下投手に負けたくない気持ちはある。1年通してカーブが全然投げられなかった。ピッチングの幅が少しでも広がればいいなという意味合いで、どういうイメージで投げているのか、握り方を聞いて何か取り入れるものがあれば取り入れようとした。
29歳でも沖縄組最年長
九里は2月13日には、開幕投手を争う森下やドラフト1位ルーキーの栗林とともにシート打撃に登板した。森下から教わったカーブもしっかり試した。ここまでは思った通り順調にきている。
九里は気付けば広島の1軍キャンプスタートの投手陣の中で最年長になっていた。背中で後輩をひっぱる立場にもなっている中、1月は、5年目のサウスポーの床田に頼まれて自主トレーニングをともに行った。
2月20日の第5クールからは手術の影響で2軍スタートとなっていた同学年のエース、大瀬良も1軍に合流した。ライバルは多くなるがオフから口に出している初めての開幕投手は簡単には譲れない覚悟だ。
九里 亜蓮 投手
自分が何か違ったところを見せていかないと開幕投手という特別なマウンドに立てない。打たれることを恐れずにしっかりとしたボールを投げたい。少しでもレベルアップした姿を見せていきたい。