ストーリー野球

帰ってきたエース ”生きた教材”として

2021-02-19 午後 05:05

伝説のエースが8年ぶりに古巣のプロ野球・楽天に帰ってきた。あのときと同じ、エースナンバー「18」を背負って。キャンプでは、みずからの技術と経験を惜しみなく後輩に伝えている。すべてはもう一度、日本一になるために。

 

あの夏から15年

あれは2006年、中学3年の夏だった。私も、甲子園の決勝で延長再試合を投げ抜いた田中将大の熱投に魅せられた1人だ。テレビにくぎ付けとなり、受験勉強がまったく手につかなかった。

 

2006年夏の甲子園 延長再試合で力投する田中投手

 

その後、プロ野球を代表するピッチャーに成長した田中は、私がNHKに入局した年と同じ2014年から大リーグへ。強打者に立ち向かう姿をひと目見たいと、おととしには1人でニューヨークを訪れ、ヤンキーススタジアムで宿敵レッドソックスとの一戦に先発した姿も観戦した。あの夏から15年。まさか自分が取材を担当することになるとは。

 

 

すべては日本一に向けて


キャンプ合流は2月6日。もちろん私だけではない。首脳陣が、チームメートが、そしてコロナの影響で球場に入ることが出来ない大勢のファンが、その時を待ちわびた。32歳、選手として脂ののったタイミングで、しかも大リーグの球団からもオファーがあったという中で、日本球界復帰の道を選んだ田中の目標はただ1つ、日本一。そのための一歩を、チームメートへのあいさつからさっそく踏み出した。

 

田中 将大 投手

(チームの中での)年齢は上から数えた方が早くなったんですけども、7年間、アメリカで野球やってきて、いろいろと経験してきたことがあるので、何か答えられることがあれば、伝えていきたいと思いますので、気軽に、気軽に、聞いてください。

 

 

このあいさつに、田中に憧れてきたドラフト1位ルーキーの早川隆久は苦笑いを浮かべた。

 

早川 隆久 投手

(気軽に聞くのは)無理ですね。24連勝という伝説を作った憧れの存在が、急に自分の身近に来てしまうと、どうしたらいいかというふうになってしまいます。

 

 

あいさつのことばの真意は…。

 

 

田中 将大 投手

気軽には聞けないでしょ(笑)。だから、2回言って強調しました。自分の感覚や、「こういうふうにやっている」ということは隠すことはないですし、チームにとってプラスになることなら伝えられることは伝えていきたいです。

 

 

伝家の宝刀を直伝 広がる田中効果

 

そのことば通り、キャンプでは、チームメートとコミュニケーションを取る田中の姿をあちこちで見られる。リリーフの森原康平や3年目の引地秀一郎には、鋭く落ちるみずからの決め球、スプリットの握り方や投げるコツを伝授した。2人はさっそくバッターとの対戦で直伝のスプリットを試し、空振り三振を奪って手応えを感じている。生きた教材を手本に、“田中効果”が早くもチームに広がっている。

 

森原 康平 投手

落ち方もよかったし、田中さんからは「あとボール1つ分ぐらいキャッチャーに近い位置で離せたらもっといい」と言われました。

引地 秀一郎 投手

前より球速が増した感じがありました。一緒にプレーできるのは貴重なことなので、吸収できることは吸収して自分の力に変えたいです。

 

 

 

 

自分がピッチング練習をしない日も 田中はブルペンに出向き、ピッチャーやキャッチャーの後ろから後輩たちのピッチングをじっと見つめている。

 

田中 将大 投手

何か聞かれたときに、見ていないと何もアドバイスできないので、「どんなボールを投げるんだろう」と思って見ています。押しつけることはしたくないので、自分から声をかけていきながら、気軽に聞きやすい環境をつくっていかないと。

 

 

キャッチャーにも刺激

 

ブルペンでボールを受けるキャッチャーたちにも、大きな刺激になっている。ピッチング練習で田中は、キャッチャーに対し、構える高さやコースを1球1球細かく指示する。

特徴的なのが、「高めのスライダー」「ストライクゾーン高めギリギリのストレート」通常は甘いコースとされる高めを意図的に狙って投げているのだ。日本では小学生の時から、「とにかく低めに」と指導されることが多い中で、若手のキャッチャーにとって「目からうろこ」だったようだ。

下妻 貴寛 選手

これまで高めへの配球は、「ボール球でいい」というのがほとんどで、「高めのストライクゾーンで勝負する」というのはこれまでにない概念でした。新しい球種が1つ増えたような感じです。

 

 

 

3年目のキャッチャー、太田光も刺激を受けた1人だ。ピッチャーが投げたボールを受ける際の“キャッチング”について、「いい音を出すよりも、きわどいコースをストライクにしてほしい」と求められたという。

 

この技術は“フレーミング”と呼ばれ、大リーグでは、キャッチャーを評価する重要な指標となっている。日本球界で伝統的に重視されてきた、「捕るときにいい音をさせて、ピッチャーの気持ちを乗せること」と両立させるのは難しいとされるが、田中からのひと言に背中を押された。

 

太田 光 選手

日本でも“フレーミング”が主流になってほしいと思って練習してきたので、田中さんに言ってもらえて試合でも思い切ってできます。

 

 

「人を遺す」野村の教え

2009年 完投勝利でCS第2ステージ進出 野村監督が出迎え

 

まるでコーチのように、みずからの技術や経験を惜しみなく伝える田中の姿が、ある人物と重なって見えた。新人から3年間、田中が教えを受けた恩師、野村克也だ。「財を遺(のこ)す」より「人を遺す」ことが人生の目標だと語っていた野村。このキャンプでの田中の言動は、その思いを受け継ぐかのようだ。全体練習に初めて加わった2月11日は野村の一周忌。田中は恩師に活躍を誓った。

 

 

田中 将大 投手

結果のいい悪いは、その時の運とかもあって、自分自身でコントロールすることはできません。でも、恥ずかしくない姿でやることをやって、最後までチームのために戦い続けるという姿勢は、自分自身でコントロールしてできることだと思うので、そういう姿を見ていただけたらと思います。

 

チームメートとともに、恩師に日本一の報告を。田中の新たな挑戦が、いよいよ始まる。

この記事を書いた人

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並松 康弘 記者

平成26年NHK入局。新潟局を経て、仙台局で楽天担当3年目

ロッテで活躍したサブマリン、渡辺俊介さんのモノマネをして地面に手を打ちつけ、すり傷を負った痛みが学生時代の思い出。

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