ワリエワ出場継続へ ただし女子シングル3位以内なら授与式なし

ドーピング違反をめぐり北京オリンピックへの出場を継続できるかどうかが注目されていたフィギュアスケート女子の15歳カミラ・ワリエワ選手について、CAS=スポーツ仲裁裁判所は出場の継続は妥当だとする判断を示しました。 選手のドーピング検査を担うITA=国際テスト機関もこの判断を支持するとしていてワリエワ選手は15日から始まる女子シングルに出場できることになりました。 一方で、IOCはドーピング違反に対する処分については、結論が出ていないとしてフィギュアスケート団体のメダル授与式は問題が解決するまでは行わないとしています。15日から行われる女子シングルでもワリエワ選手が上位3位に入った場合、メダルの授与式は行われないということです。
今月7日に行われたフィギュアスケート団体で金メダルを獲得したROCの15歳、ワリエワ選手について、ITA=国際テスト機関は、去年12月のドーピング検査で血流促進作用などのある禁止薬物「トリメタジジン」の陽性反応が出たと発表しました。
ロシアアンチドーピング機構はワリエワ選手を一時的な資格停止処分としたものの、その後、ワリエワ選手側の抗議を認めて処分を解除したためIOCなどはこの決定を不服としてCASに申し立てを行いました。
CASは日本時間の14日午後3時に裁定を発表し、ワリエワ選手のオリンピックへの出場の継続が認められた決定について、これを取り消さない判断を示しました。
CASはこの判断の理由について、
▽15歳のワリエワ選手はWADA=世界アンチドーピング機構の規程では「要保護者」に当たり、証拠の基準や制裁が低く定められていることや、
▽12月に行われた検査の結果がオリンピック期間中に出たことはワリエワ選手の責任ではないなどとして、出場停止にすることはワリエワ選手に著しい損害を与える可能性があるとしています。
これに先立って行われた会見でIOCのマーク・アダムス広報責任者は「出場資格についてCASの裁定は絶対であり、尊重し従う」と述べています。
IOCなどとともに申し立てを行ったISU=国際スケート連盟は「裁定を尊重することにした。さらなるコメントを出すには時間が必要だ」とする声明を公式ホームページ上で発表しました。
一方、WADA=世界アンチドーピング機構は公式ホームページ上で「裁定は支持する」としたものの、ワリエワ選手への処分の解除がWADAの規程に合致していないと改めて指摘したうえで「失望した」ともコメントしています。
16歳以下は「要保護者」
WADA=世界アンチドーピング機構の規程では、ドーピング違反があった場合、▽違反者の氏名や▽違反のあった禁止物質の種類、▽それに処分の内容などを一般に開示しなければならないと定められています。
ただし、16歳以下の選手は「要保護者」と位置づけられ、情報の開示は求められないことになっています。
ITA=国際テスト機関は11日にワリエワ選手のドーピング違反の経緯を開示した理由について、「一部のメディアが保護の規程にのっとらずに非公式な情報に基づく報道をしたことから、公式な情報の必要性が高まったため」と説明しています。
圧倒的演技 ロシアでは“絶望”の異名

ワリエワ選手はROC=ロシアオリンピック委員会の15歳です。
おととしの世界ジュニア選手権で優勝し、今シーズンからシニアに参戦しました。
フリーではトリプルアクセルに加え、4回転ジャンプ3本を跳ぶ極めて難度の高いプログラムに挑んでいて、シニア転向1年目からグランプリシリーズ2つを含め出場した国際大会すべてで優勝し、世界最高得点を次々と塗り替えました。
このうち、去年11月のグランプリシリーズロシア大会では、ショート、フリーともにすべての演技をほぼ完璧に決めて272.71をマークし、自身が持つ世界最高得点を更新して実力を示しました。
他を寄せつけない圧倒的な演技からロシアでは“絶望”という異名で呼ばれています。
今大会はすでに団体に出場し、予選の女子シングルショートプログラムでは世界最高得点に迫る得点をマークするなど決勝のフリーとともにトップになる活躍を見せて、チームの金メダル獲得に貢献しました。
13日も競技会場で練習を行っていて、15日から始まる個人戦の女子シングルでは、同じくROCのアンナ・シェルバコワ選手、アレクサンドラ・トゥルソワ選手とともに表彰台独占を果たすかどうかも注目されています。
米オリンピック・パラリンピック委員会 「失望」
USOPC=アメリカオリンピック・パラリンピック委員会はツイッターで、サラ・ハーシュランドCEO=最高経営責任者のコメントとして「今回の決定がもたらすメッセージに失望している。アスリートは公平な場で競技をしていると知る権利があるが、残念ながらきょうその権利は否定されている」と述べています。
そのうえで「これはロシアが、クリーンなスポーツを組織的かつ広範囲に無視していることを示す新たなチャプターだろう。今回のケースはまだ終わっておらず、世界中のアスリートを代表してクリーンなスポーツのために戦い続けることを、オリンピックに関わる全ての人たちに求める」としています。
ROC=ロシアオリンピック委員会 裁定を歓迎
ROC=ロシアオリンピック委員会はSNSで「この過酷な状況がワリエワ選手にどれほどの涙と精神的な強さをもたらしたか分からない。私たちができることはあすからの女子シングルを全力で応援することです。心から喜びの涙が出るように」と述べて、CAS=スポーツ仲裁裁判所の裁定を歓迎しています。
IOC 女子シングル3位以内なら「メダル授与式行わず」
一方で、IOCは「12月の検査での陽性判定を受けて、北京大会への暫定的な資格停止処分を行うかどうかの裁定であり、ワリエワ選手がドーピングの規則に違反したかどうかを問うものではないことは明らかだ。まだ結論は出ていない」との見解を示しました。
そのうえでIOCの理事会は、関係する各国のオリンピック委員会と協議したうえで、フィギュアスケート団体のメダル授与式は問題が解決するまでは行わないこと、15日から行われる女子シングルでワリエワ選手が上位3位に入った場合もメダルの授与式は行わないことを決めたと発表しました。メダルの授与式は問題が解決した後に行うということです。
また、ISU=国際スケート連盟に対し、ワリエワ選手が15日、女子シングルのショートプログラムで24位以内に入り、17日に行われる後半のフリーへの出場が決まった場合、ショートプログラムで25位となった選手をフリーに出場させることを認めるよう要請するということです。