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【詳しく】“王者” ジョコビッチ退場 何が問題だった?

テニス 2022年1月18日(火) 午後6:43
【詳しく】“王者” ジョコビッチ退場 何が問題だった?

今月17日に開幕したテニスの全豪オープンは、“王者”ノバク・ジョコビッチ選手が開幕前日に去るという異例の幕開けとなりました。 ジョコビッチ選手にとって、この大会は、大会4連覇とともに、四大大会で史上最多となる通算21回目の優勝がかかる、歴史的な大会になるはずでした。しかし、オーストラリア到着後、新型コロナのワクチン接種をめぐって入国が許可されるのかどうかで二転三転。大会開幕の前日に国外退去となったのです。 「現役最強」とも言われるテニスプレーヤーがなぜ退場を迫られたのか。その経緯や背景を詳しく解説します。 (シドニー支局 青木緑)

何が問題になったの?


ことしの全豪オープンの参加条件の1つになっていた“ワクチン接種の完了”をめぐって、これまでも自身の接種の有無は明らかにしてこなかったジョコビッチ選手が入国できるのかが、注目されていました。

オーストラリアは、感染拡大を防ぐため、おととし3月から外国人の入国を原則禁止。去年11月以降、入国規制が多少緩和されてきたものの、ワクチン接種の証明など、厳しい水際対策が続く中、ジョコビッチ選手は今月5日の深夜、メルボルンの空港に到着しました。

しかし、「入国に必要な証明を持っていなかった」として、オーストラリア当局に入国を拒否され、ビザを取り消されたのです。


ジョコビッチ選手の主張は?


世界ランキング1位の在位期間は通算350週を超え、現役最強のテニスプレーヤーとも評されるジョコビッチ選手。日頃から食生活など体調管理に人一倍気を配っていることで有名で、ワクチン接種をめぐってはこれまで否定的な立場を示してきました。

全豪オープンを主催するオーストラリアテニス協会と、地元のビクトリア州政府は、大会に参加する選手について、医学的な理由でワクチンを接種できない場合は、それぞれが設けた独立委員会で接種の免除を認めるかどうか審査することにしていました。

オーストラリアテニス協会は去年12月、偉業達成のかかるジョコビッチ選手に、ワクチン接種の免除を許可。ジョコビッチ選手は今月4日、自身のSNSに「免除が認められたのでオーストラリアに向かう」と書き込み、大会に参加することになったのです。


“免除”なのになぜ入国認められないの?


ジョコビッチ選手の入国を拒否したことについて、オーストラリア政府は「ワクチン接種を免除するための証明に不備があった」などとして、特別扱いはしない考えを強調しました。

大会の主催者は「ジョコビッチ選手が去年12月に新型コロナに感染したことから、接種の免除が認められた」と選手側に伝えていましたが、オーストラリア政府は「感染歴だけを理由にした接種の免除は認められない」としました。

ワクチン接種の免除をめぐって、主催者側とオーストラリア政府の間に大きな認識のずれがあったのです。


裁判所の判断は?


ジョコビッチ選手は、「ビザの取得やワクチン接種の免除など、必要な手続きは経ている。入国は認められるべきだ」として、裁判所に異議を申し立ました。

そして、裁判所は今月10日、「空港でのジョコビッチ選手への対応など、ビザを取り消した政府の対応は非合理的だった」として、入国を認めるよう政府に命令。

ジョコビッチ選手が逆転勝利を収めたかに見えましたが…。

その後、「過去14日間に第三国に滞在していない」という渡航前の申告が虚偽だったことや、去年12月に感染が確認された直後にメディアの取材を受けていたことなどが次々に発覚し、オーストラリア政府は再びビザ取り消しを発表。

今度は裁判所もジョコビッチ選手の申し立てを退け、大会開幕の前日に国外退去という異例の事態になったのです。


オーストラリア国民や選手の受け止めは?


地元メディアが行った世論調査では、国民の7割以上がジョコビッチ選手の大会出場に「反対」と答えています。

オーストラリアでは、たび重なるロックダウンに加え、自国民の出入国も厳しく規制するなど、世界的に見ても厳しい感染対策で新型コロナの感染拡大を抑え込んできました。

しかし、オミクロン株の影響で去年の12月下旬以降、新規感染者数が連日、過去最多を更新。多くの国民が再び、自主隔離などで生活に影響を受け、医療体制もひっ迫する事態になっています。こうした中で、ジョコビッチ選手を“特別扱い”することは許されない、との声が広がっていきました。



ことし総選挙を控えるモリソン政権にとっては、こうした国民の声は無視できないものでした。

一方で、世界ランキング3位のアレクサンダー・ズベレフ選手は「当局は事前に何が起こるのか、はっきりさせるべきだった。ここに来てプレーできないのはフェアではない」と述べるなど、受け入れ側の責任を指摘する声もあがっています。


ジョコビッチ選手 どうなる?


裁判を終えたジョコビッチ選手は「全豪オープンに出場できないことは極めて残念だ。この数週間、自分が注目されてきたことは気持ちのいいものではなかった。これ以上のコメントはせず、しばらく休み、静養する時間にあてたい」と言い残してオーストラリアをあとにしました。

次の四大大会は、5月に開幕する全仏オープン。しかし、フランスでもオミクロン株による感染の急拡大を受けて、政府が感染対策を強化。ワクチン接種が完了していなければ、全豪オープンと同様、ジョコビッチ選手の出場を認めない可能性を示唆しています。

去年、全豪、全仏、ウィンブルドンと四大大会のうち3つを制し、史上最多となる通算21回目の優勝に王手をかけたジョコビッチ選手。

その前に、新型コロナという難敵が立ちはだかっています。


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