ニュースその他のスポーツ

東京オリンピック 新型コロナが選手の技術と精神に影響か

2021-11-24 午後 08:18

  

東京オリンピックに参加した国内の33競技の団体を対象にNHKがアンケート調査を行ったところ、新型コロナウイルスの感染拡大が選手のパフォーマンスに影響したという回答がおよそ90%に上り、実戦経験の不足や大会開催に反対する世論の影響を指摘する声が相次ぎました。 コロナ禍で初めて開催されたオリンピックは新型コロナが選手の技術面と精神面の両方で影響を及ぼしていた実態が改めて浮かび上がりました。 NHKが行ったアンケート調査の結果について、全項目を掲載します。

選手の技術・精神の両面に新型コロナの影響


東京オリンピックの閉幕後、NHKは国内の33競技の団体を対象にアンケート調査を行い、回答がなかった1つの団体を除き部門が分かれる競技を加えた合わせて36の強化担当者などから回答を得ました。
(各項目の回答割合は小数点以下を四捨五入)



新型コロナの感染拡大が選手のパフォーマンスに影響したかを尋ねたところ、
「影響があった」が56%、
「どちらかといえば影響があった」が36%、
「どちらかといえば影響がなかった」が6%、
「影響がなかった」が3%でした。

「影響があった」または「どちらかといえば影響があった」と回答した団体に具体的な影響を複数回答で尋ねたところ、
「実戦経験の不足」が88%、
「毎日の検査や行動制限などコロナ対策の負担」が67%、
「練習環境が十分確保できなかった」が52%、
「対戦相手などの情報不足」が39%、
「開催反対の世論によるモチベーション低下」が24%でした。



東京オリンピックで日本選手団は史上最多の58個のメダルを獲得する成果を挙げた一方で、本来のパフォーマンスが発揮できなかったという競技もあり、その背景として新型コロナが選手の技術面と精神面の両方で影響を及ぼしていた実態が改めて浮かび上がりました。


“史上最強”バドミントン 銅メダル1つ


東京大会でメダルラッシュが期待され「史上最強」とも言われたバドミントンは、エースの桃田賢斗選手の予選敗退などメダル候補の選手が次々に敗退し混合ダブルスでの銅メダル1つという結果に終わりました。

その要因について今回のアンケートでは練習環境の確保や、実戦経験の不足など多くの点で新型コロナの影響を受けたと回答しました。

バドミントンの日本代表は、例年、国際大会の転戦と、その前後の合宿を繰り返しながらライバル選手の戦力を分析したり戦術を練り上げたりする強化方法で結果を出してきました。

しかし、東京大会が延期されたあと、予定されていた8つの大会のうち3つが中止となり、別の3つの大会は、遠征直前の検査で桃田選手が陽性と判定されたことで、急きょ選手全員が参加を取りやめる事態になるなど、新型コロナの影響を受けて本番までに参加できた大会は2つにとどまりました。



日本バドミントン協会の銭谷欽治専務理事は「国内で合宿が組めなかったことに加えて国際大会に出場できず強化の空白ができてしまった。そうした状況がライバルの情報分析などに影響し、選手自身も自信を持って大会に臨めない部分があり、メンタル的にも受け身になって実力を発揮できなかったことは否めない」と述べ、選手の技術とメンタルの両面に影響があったと振り返ります。

協会では国際大会への出場などが十分にできない状況になったとしても充実した強化を進める方法の検討を始めているということです。

銭谷専務理事は「東京大会では今後に向けて大きな課題を突きつけられたので、ライバル選手の情報収集のあり方など、協会としてもレベルアップしていかなければならない。次のパリ大会でリベンジできるような強化策を実践していきたい」と話していました。


ビーチバレー 実戦経験の不足 「どこを目指したらいいのか」


アンケートで新型コロナの感染拡大が選手のパフォーマンスに「影響があった」と回答したビーチバレーは、具体的な影響について「実戦経験の不足」を挙げました。



東京大会に出場した石井美樹選手と村上めぐみ選手のペアは新型コロナの感染拡大で大会半年前の冬は気候が温暖な海外に渡航できず、拠点とする神奈川県での練習を余儀なくされました。

また、海外ツアーも中止が続き、ことし5月に日本代表に内定したあとも国際大会には2つしか出場できなかったため、海外の有力選手との実戦の機会が十分に得られない中で東京大会本番を迎えました。



大会本番までの調整について石井選手は「試合感覚がなくなるということもあったが、海外選手との対戦という高いレベルの中でやることが少なくなり、どこを目指したらいいのかよくわからなくなってしまった」と実戦経験が積めなかったことの影響は精神面にも及んだと振り返りました。

さらに、オリンピック本番でも、予選リーグの最初の試合で対戦する予定だったチェコのペアの1人が、新型コロナに感染して不戦勝となるなど影響は続きました。

石井選手は「普通のオリンピックではなかったなというのがいちばんの印象で、観客がいる中で試合をしたかったという気持ちも正直あった」と話します。

その後、石井選手のペアは敗者復活戦で敗れて決勝トーナメントに進めず、初めてのオリンピックを終えました。

石井選手は東京大会のあと新たなペアでブラジルなど海外で開催される大会に出場しながら、3年後のパリ大会を目指してレベルアップを図っています。



石井選手は「これまで当たり前だった試合が当たり前じゃないんだと感じている。今、普通に海外で試合に出られていることがうれしいし、いちばんのモチベーションになっている。1大会1大会、上位を目指してやっていき、パリオリンピックのメダルを目指してやっていきたい」と今後を見据えていました。


無観客 8割が「影響あった」 自国開催のメリット得られず


無観客などの観客制限が選手や競技に影響したかを尋ねたところ、
「影響があった」が36%、
「どちらかといえば影響があった」が50%、
「どちらかといえば影響がなかった」が8%、
「影響がなかった」が6%でした。

「影響があった」または「どちらかといえば影響があった」と回答した団体に具体的な影響を尋ねたところ、
「声援による自国開催のホームアドバンテージがなくなった」が55%、
「競技の普及やアピールの機会の喪失」が24%、
「選手のモチベーションや集中力の低下」が6%、
「選手が競技に集中できた」が6%、
「感染リスクへの不安が少なくなった」が3%でした。



新型コロナウイルスの感染拡大で観客が制限されたことが選手や競技に影響したという回答が80%余りに上りました。

東京オリンピックが新型コロナの感染拡大によって一部の会場を除いて無観客で行われたことで、期待していた自国開催のメリットが得られなかったという実態が明らかになりました。

コロナ禍のオリンピックを経てスポーツ界は安全な大会の実施と新たな観戦方法の確立などへの対応が迫られています。


ハンドボール ライブ配信を拡大


新型コロナの影響で、さまざまなスポーツの大会で観客が制限される中、試合をオンラインで配信する取り組みが広がっています。

東京大会に開催国枠で出場し、男子は33年ぶり、女子は45年ぶりにオリンピックで勝利を挙げたハンドボールはアンケートで、東京大会で浮かび上がった課題のうち最も対策が急がれるものを「コロナ禍での大会のあり方や観客の観戦方法の見直し」と回答しました。

新型コロナの影響で無観客で開催される大会が続いたため、日本ハンドボール協会は、試合のライブ配信を拡大し日本代表の国際試合や日本選手権に加えて中学生や高校生の全国大会などでも試合の配信を始めています。

協会の担当者は「観客が入れられない状況で、できるだけ生で観戦して応援してもらえるようにしたかった。今後もできるかぎり、ライブ配信はしていきたい」と話しています。


空手 団体戦でオンライン活用したハイブリッド部門


東京大会の新競技に採用され3つのメダルを獲得した空手は、オリンピックが終わったいま、コロナ禍に対応した新しい競技方法の模索を始めています。



全空連=全日本空手道連盟が12月開催する、複数の選手が同時に同じ形を演武する「団体形」の競技会では、会場とほかの場所をオンラインでつないで、選手が同時に演武を行う「ハイブリッド部門」が初めて実施されます。

「団体形」は3人が同じ形を同時に演武してその正確性などを競いますが、ふだんは、掛け声を出さずに動きを合わせます。

ただ、オンラインではタイムラグで演武にずれが生まれるおそれがあるため、選手が掛け声を出して演武をするなど、全空連は、実施方法のテストをしながら新たな競技方法のあり方を模索しています。



こうした新しい競技方法を実践することで、新型コロナの影響による大会の中止を防ぎ、オンラインでより多くの人に観戦してもらいたいというねらいがあります。

空手は、次のパリ大会では実施されないことが決まっていて普及やアピールの機会が減ることも大きな課題で、こうした取り組みによって、競技のすそ野を広げることにつながるという期待もあります。

12月の競技会でも「ハイブリッド部門」では演武する選手の数を2人から5人までと幅を広げ、多くの人が参加しやすいように工夫しているということです。



全空連の笹川善弘副会長は「東京オリンピックに向けては競技者に重点を置いていたが新しい時代を迎えた今は、発想を転換してビギナーに注目して、施策を打っていきたい。空手は堅いイメージがあると思うが、柔軟に考えて、ハードルを下げていくことも重要だ」と話しています。


感染対策は機能したのか


東京オリンピックにおける新型コロナ対策が機能したかを尋ねたところ、
「機能した」が44%、
「どちらかといえば機能した」が50%、
「どちらかといえば機能しなかった」が6%、
「機能しなかった」を選んだ団体はありませんでした。

理由を複数回答で聞いたところ、「機能した」または「どちらかといえば機能した」と回答した団体は、
「毎日の検査など選手団の検査」が94%、
「外食や観光の禁止など選手の行動制限」が82%、
「大会スタッフやボランティアの検査」が65%、
「競技会場内での感染対策」が35%、
「バスや車両の移動中の感染対策」が32%、
「試合への参加可否など濃厚接触者の扱い」が32%、
「プレーブックのルールを破った場合の罰則」が24%でした。

「どちらかといえば機能しなかった」と回答したのは2つの団体で、その理由については
「毎日の検査など選手団の検査」、
「外食や観光の禁止など選手の行動制限」、
「大会スタッフやボランティアの検査」、
「バスや車両の移動中の感染対策」をそれぞれ挙げています。
(※回答はそれぞれ『1』で50%)。


サッカー 「ワクチン・検査パッケージ」活用や応援方法を模索


新型コロナの感染対策を取りながら、観客を入れた本来のスポーツのあり方を取り戻そうという動きも加速しています。

サッカーではワクチンを接種済みであることや検査で陰性だったことを証明する「ワクチン・検査パッケージ」を活用して観客の入場制限の緩和を進めています。

10月6日から30日にかけて行われた日本代表とJリーグの合わせて8試合ではワクチンを2回接種したか、PCR検査で陰性だった人を対象に専用の座席が設けられ上限を超える観客を入れました。

このうち、10月30日に埼玉スタジアムで行われたJリーグカップの決勝では観客数の上限1万人とは別に「ワクチン・検査パッケージ」の専用席1万人分が用意されこの専用席に8756人が入りました。

また、Jリーグでは観客の応援スタイルも一部、見直されました。

これまで認められている拍手や手拍子に加えて、11月中旬からは大きな旗を振る行為やタオルマフラーを振ったり回したりすることが新たに容認されました。

一方で、指笛も含めて声を出して応援することやハイタッチや肩を組むなど、人と接触して応援することは禁止されたままです。


五輪開催で突きつけられた課題と教訓


東京大会を終えて今後のいちばんの課題は何かを尋ねたところ、
「選手の発掘・ジュニア世代などの育成」が27%、
「国などからの強化費の継続的な支援」が23%
「観客増などによる収入源の確保」が16%、
「コーチなど指導者の確保・育成」が14%、
「練習拠点の継続的な確保」が7%、
「競技会場など施設の今後の活用」が5%でした。

自国開催のオリンピックのあと、選手の強化をどう継続していくのかという競技団体の懸念が伺えました。



東京オリンピックで浮かび上がった課題のうち、最も対策が急務だと考えるものを尋ねたところ、
「コロナ禍での大会のあり方や観客の観戦方法の見直し」が49%、
「SNSでのひぼう中傷」が27%、
「ジェンダー平等や多様性の実現」が8%、
「選手の抗議活動やメッセージ発信のルール化」が3%でした。

57年ぶりに自国開催の夏のオリンピックとなった東京大会が、コロナ禍で異例な形で開催されたあと、日本のスポーツ界はその教訓と課題をいかに今後につなげていけるかが問われることになります。


ソフトボール 強化費減額「五輪頼みから脱却を」


アンケートで今後のいちばんの課題を「国などの強化費の継続的な支援」と回答したソフトボールは、3年後のパリ大会では実施競技から外れることが決まっていて強化費は減額される見込みです。

2028年のロサンゼルス大会での復活を目指すソフトボールにとって、その間に国際競技力をどうやって維持するかが最大の課題だといいます。

そこで競技団体は、東京大会で金メダルを獲得した熱が冷めない今のうちにさまざまな企業を回ってスポンサー集めをして選手強化のための財源を確保しようと動き始めています。



日本ソフトボール協会の矢端信介常務理事は「パリの次のオリンピックで100%復活できるかというとわからないので、オリンピック頼みという性質から一皮むけた競技性を見てもらわないといけない。そのためには、自分たちで資金を集めて活動していかなければならないというのは当然だ」と話しています。

一方、選手たちも危機感を募らせています。



日本代表のエース、上野由岐子投手は「2008年の北京大会が終わってオリンピック競技から除外され閑散とした時期を知っているだけに、今回もどれぐらい持ちこたえられるだろうか」と今後のソフトボール界に懸念を示します。

ソフトボールは来年の春から地域に密着した新たなリーグが発足し、競技人口のすそ野を広げ、ファンの拡大を図るなどオリンピック頼みにならない競技のあり方を模索しています。

これについて上野投手は「新しく始まるリーグもどれだけ注目してもらえるか不安だが、注目してもらえる何かを作っていかないといけない。ゼロからのスタートでしっかりと魅力を伝えていきたい」と述べ、競技の魅力を伝えていく大切さを訴えていました。


スポーツ庁 室伏長官 「強化の継続性は重要」


東京大会に向けた競技力向上のためスポーツ庁は年々予算を増やしてきましたが、今後、強化費をどこまで維持できるかが焦点となっています。



これについてスポーツ庁の室伏長官は「東京大会ではすばらしい成績を残すことができたが、これを一過性のものにせず、長期的な視点で考えて持続可能な競技力向上を目指していく必要がある」と述べ強化の継続性が重要だという認識を示しています。

平成27年度の74億円から、今年度には103億円まで増額した強化費について、スポーツ庁は3年後のパリ大会や7年後のロサンゼルス大会に向けて継続的な強化を進めていく必要があるとして、来年度の概算要求にも今年度と同じ水準を盛り込んでいます。

室伏長官は「国の予算に頼る部分もあると思うが、それぞれの競技団体が自分たちで収益を上げ、それを強化費や育成にまわしていくための取り組みも必要で、そのためにも競技のすそ野を広げていくことが大切だ」と述べ継続的な国の支援と競技団体の経営強化を合わせて進めていきたいという考えを示しました。


専門家「デジタル活用などコロナ禍のチャレンジ継続を」


東京大会で観客が制限されたことの影響について、スポーツマネージメントが専門で早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授は「オリンピックを見に行く予定だった子どもたちがその機会を失ったことは、子どもたちのその後のスポーツとの関わりに大きな影響が出るので残念な部分だった」と指摘しました。

新型コロナの影響で、スポーツ大会のあり方や観戦方法が変わりつつあることについては「スポーツは、するにしても見るにしても『その場』で行うことが原点で、そこに大きな価値があるのはこれからも変わらない。ただ、その土台の上に、デジタルの活用などいろいろなツールをスポーツ界が持てるようになったことは、プラス材料だ」と話しています。

そのうえで「特に競技人口や観客が少ない競技団体は、これまでいろいろなことに取り組むエネルギーがなかったと思うが、コロナ禍によってやらざるをえない状況になり、新しいチャレンジをした。今後、平時に戻ったとしてもそれを継続して生かすことで、スポーツファンの拡大につながることを期待したい」と話していました。



コロナ禍で初めてのオリンピックとなった東京大会を経て、スポーツ界は安全な大会の実施と新たな観戦方法の確立などへの対応が迫られています。


関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス