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東京オリンピック 性的マイノリティー公表の選手が過去最多

2021-08-12 午前 01:00

  

東京オリンピックは、性的マイノリティーと公表している選手が過去最多となるなど性の多様性に注目が集まりました。国際的に取り組みの遅れが指摘されている日本では、当事者たちが理解を広げるスタートにしたいとその活躍を見守りました。


東京大会で性的マイノリティーであることを公表している選手は、583人の日本の代表選手にはいませんが、海外の選手では11日時点で29の国と地域の183人と、56人だった前回大会の3倍を超えています。

オリンピックの開会式では、アルゼンチンなど複数の国の旗手を当事者の選手が務めたほか、ゲイであることを公表している男子シンクロ高飛び込みのイギリスの選手が金メダルを獲得する活躍をみせ、競技会場で編み物をする姿とともに話題になりました。

ニュージーランドのウエイトリフティングの選手はオリンピックでは初めて、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの選手として自認する性で出場し、日本国内の当事者たちも競技の様子を見守りました。

今大会では開催地に設けられる性的マイノリティーの当事者たちの交流拠点が初めて公認プログラムとなりました。



その交流拠点として東京・新宿区に開設された「プライドハウス東京レガシー」では、当事者のアスリートが寄せたメッセージが展示され、およそ2000冊の関連書籍が置かれているほか、交流スペースや相談ブースが設けられています。

開幕前から海外メディアの取材が相次ぎ、日本の現状について関心が寄せられました。

国内では、東京大会を前に性的マイノリティーへの理解を促進するための法案の成立を目指す動きがありましたが、自民党内で意見がまとまらず国会への提出が見送られました。

OECD=経済協力開発機構の調査では、日本は同性婚を認める法律や差別を禁止する法律がなく、戸籍の性別を変更する際に性別適合手術を条件としていることなどから、法整備の状況は35か国中、下から2番目の34位となっています。


「信じられないほど誇らしい」


男子シンクロ高飛び込みのイギリス代表のトーマス・デーリー選手は、自身がゲイであることを公表しています。

今回の東京オリンピックで金メダルを獲得したあと、デーリー選手は「若いころは自分が孤独で社会になじめず、ゲイであるせいで社会が望むような人間にはなれないと思っていました。何も成し遂げられないと思っていましたが、金メダリストなった今、『僕はゲイでオリンピック金メダリストだ』と言えることが信じられないほど誇らしい」と話しました。

そのうえで若い当事者たちに対し、「たとえ今どんなに孤独を感じていたとしてもひとりではないし、何でも成し遂げられる。あなたを助けてくれるたくさんの仲間がいます」とエールを送りました。



心と体の性が一致しないトランスジェンダーの選手として初めて自認する性でオリンピックに出場したのはニュージーランド代表のローレル・ハッバード選手です。

IOCは男性ホルモンの値が一定の基準以下など条件を満たせば出場できるとガイドラインに定めていて、これを満たしたハッバード選手はウエイトリフティングの女子87キロを超えるクラスに出場しました。

これについては、「不公平だ」と言った声も上がり、開幕前から議論になっていました。

記録なしで終えたハッバード選手は競技のあと、「私はずっと、ただ“私自身”でいたかっただけなんです。今回、その機会をもらえた事がとてもうれしい。私がここにこうしていることで誰かに勇気を与えられたらと思っています」と話しました。

そして、「私の出場が歴史的な出来事であるべきだとは思いません。私のような人たちが他の人と何も変わらないということを理解してもらえる、新しい世界になることを願っています」と期待をにじませました。


海外メディアも高い関心示す


スポーツと性的マイノリティーを取り巻く現状や課題については海外メディアも高い関心を示していて、交流拠点の「プライドハウス東京レガシー」には、6月以降、国内外の35のメディアから合わせて50回近い取材がありました。

7月中旬には、ブラジル最大のテレビ局が日本における性的マイノリティーの現状をニュース番組で取り上げるため訪れました。

ブラジルでは、大規模な性的マイノリティーのパレードが行われるなど、国民の関心が高いということで、取材クルーは感染対策のため入国後14日間の隔離期間を終えた翌日に、早速プライドハウスに取材に訪れたといいます。

リポーターの男性は、日本では同性婚が法律で認められていないことなどを上げ、「日本はテクノロジーなどいろんな面で最先端だがこの分野では遅れていて、われわれの方が先を行っていることを知った。この現状を伝えるとともに日本の当事者をめぐる状況が少しでもよくなることを願っている」と話していました。

同じくプライドハウスを取材したロイター通信は配信した動画の中で、日本では理解を促進するための法律が開幕前のことし6月に国会に提出されなかったことなど、法整備が進んでいない現状を伝えたうえで、今回の大会は性的マイノリティーに最も開かれている一方で、日本の課題が浮き彫りになったとしています。


東京大会 日本の現状変えるきっかけに


国内で理解を広げようと取り組んできた当事者からは、東京大会を日本の現状を変えるきっかけにしたいという声が聞かれました。

トランスジェンダーでは初めてJOC=日本オリンピック委員会の理事に就任し、プライドハウスの運営にも携わっている杉山文野さんは、フェンシングの元日本代表としてスポーツに関わってきました。

杉山さんは生まれた時の性は女性ですが心の性は男性で、子どものころからスポーツは好きでしたが、女性用の水着や男女で違うユニフォームが嫌で競技を辞めることもあったといいます。

中学生の時、フェンシングを始めたのは男女でユニフォームが同じだったからだといい、女子で日本代表に選ばれるまでになりましたが、「自分らしくいられない」と25歳で引退しました。

その後、男性として生きる決断をした杉山さんは、「スポーツ界は男女が明確に分けられるうえ、男性社会で、当時は体力のない男子選手に『お前オカマか』といったことばが飛び交っていました。そんななかで性的マイノリティーだと知られたら居場所がなくなってしまうと不安で言えませんでした」と振り返りました。

杉山さんは日本社会全体の状況がスポーツ界にも反映されているとして、「今回『多様性と調和』というすばらしいテーマを掲げたことで、いかに日本に多様性がないかということがあぶり出されてしまった現実があると思います。五輪をきっかけにいろいろな問題があることが共通認識になったと思うので、どう改善していくのかここからが大事なスタートだと思います」と話していました。


トランスジェンダー選手出場で関心持った人も


トランスジェンダーの選手が出場すると知り、初めてオリンピックに関心を持った当事者もいます。

東京・新宿区でバーの店長をしているダイアログ瞬さんは、小学生のころから男性であることに違和感を持ち、高校生になって徐々に女性として生活するようになりました。

学校生活では同級生や教員からのいじめや嫌がらせが絶えず、男女で異なる制服や男子は短髪という校則に加え、男女に分けられる体育もとても苦痛だったと言います。

地元を出て東京で働くようになっても、道端で「おまえ男だろ」と大声で叫ばれたり、笑いものにされたりすることが毎日のようにあり、次第に街を歩くときは逃げるように早歩きをするようになりました。

スポーツにいい思い出がなく、これまでオリンピックにも関心はありませんでしたが、今回、自分と同じトランスジェンダーの女性であるニュージーランドのローレル・ハッバード選手が出場すると知り希望を感じました。

瞬さんは「五輪は私には関わることができないイベントだと思っていました。トランスジェンダーであることでいろんなものを諦めざるをえない人生を送ってきたので、本当の自分として生活し世界で戦うハッバード選手に勇気づけられます。もちろん勝てたらいいですが自分らしく楽しんでほしいと思います」と話していました。



そして今月2日、当事者の交流拠点、プライドハウス東京レガシーでハッバード選手の競技を見守りました。

結果は記録なしで終わりましたが、瞬さんは「結果は残念でしたが、最後は生き生きとした、人生で1番自分らしい笑顔なのではないかと感じる表情でした。批判もエールもあり当事者からの重みも感じたと思いますが、他の選手と同じように同等に競技をできているのが印象的でした。私も生きていていいんだな、夢ってかなえられるんだなと思いましたし、確実にいろんな人に力を与えてくれたと思います」と話していました。


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