スーツケース遺体事件 被害者のSNS配信 “動機の一つに”

川崎市の多摩川でスーツケースの中から男性の遺体が見つかり、元交際相手らが殺人などの罪で起訴された事件で被告の1人がNHKの取材に応じ男性が行っていた配信活動について「影響力が強く、全く関わりがない人までが配信内容を真に受けてあれこれ言ってきた」などと述べて、事件の動機の一つになったと明かしました。

去年12月、川崎市の多摩川で回収されたスーツケースの中から、動画の配信活動をしていた原唯之さん(46)が遺体で見つかった事件では、元交際相手の西高舞被告(32)と両親と兄、それに今の交際相手のあわせて5人が殺人などの罪で起訴されました。
このうち舞被告の父親の西高昌浩被告(53)が16日までに勾留されている警察署でNHKの取材に応じました。
このなかで父親は「配信者が言っていることがもっともらしく聞こえて、そこで取り上げられた人がたたかれるような世の中はおかしい。配信は影響力が強いので、本来全く関わりがない人までが配信の内容を真に受けてあれこれ言ってくることに違和感があった」などと動機の一つになったと明かしました。
原さんはSNSでの配信のなかで被告らとのトラブルについて話していて、捜査関係者によりますと舞被告の携帯電話には、配信の視聴者から「居場所を特定してやる」という趣旨の電話がかかってきていたとみられるということです。
父親は配信でさらされる側の気持ちについて「自分は昔の人間なのでそこまで気にしないが、若い人ほど影響されるということも感じているし、精神を病むようなケースもある」と話し、さらに「動画の投稿者などには行き過ぎた行為をしている人もいる。動画が世の中に出るとそれが正当化されてしまう。おかしいと思う」と話しました。
捜査関係者によりますと、父親はこれまでの調べに対し、「原さんの首を絞めた」と供述していたということで、事件について「親が自分の子どもに何かあったら守るのが当たり前で、娘のことで見過ごせないものがあった。仕事の関係者や親戚などに迷惑をかけてしまったが、後悔はない」と主張しました。
これに対し、記者が事件を肯定することはできないと指摘したところ「それは分かっている。事件の詳しい中身を知らない人にはわからないと思う。当事者じゃないとわからないことがある」と述べました。

これまでの捜査で明らかになっている、事件のいきさつです。
捜査関係者によりますと、西高舞被告は去年3月からSNSで配信活動を行っていた原さんと交際していました。
原さんは10年以上前から「唯我」と名乗って、視聴者の質問に答えながら身の回りの出来事などについてYouTubeなどで配信してきました。
交際から半年後の去年9月ごろ、2人は暴力や暴言、金銭の貸し借りが原因で別れ、その後、原さんは配信活動の中で、舞被告やその家族とトラブルになっていると明かしていました。
こうした原さんの言動について舞被告らが配信でさらされたり、配信を見た視聴者からひぼう中傷されたりすることをおそれていたという供述を一部の被告がしていたということです。
そのうえで、被告らは配信の中止や謝罪を求めたものの事態は改善されなかったとみられています。
また、舞被告は交際中に宿泊代などの名目でおよそ100万円を支払い、これに対し、原さんが少なくとも30万円は返金したことが確認されたということです。
警察は配信や交際中の金銭の支払いがトラブルに発展し5人が殺害を計画し、役割を分担して実行した疑いがあるとみています。
(5人の役割と発覚まで)
一方、捜査関係者によりますと、防犯カメラの映像や一部の被告の供述などから5人の具体的な役割も明らかになってきました。
事件の直前に遺体を入れるためのスーツケースを舞被告と現在の交際相手の岩城被告が都内の量販店で購入したとみられています。
舞被告はさらにスーツケースにおもりとしてつけたダンベルをネット通販で用意した疑いがあるということです。
原さんを大田区の都営住宅の部屋に呼び出したのは母親の美保被告とみられています。
去年12月15日に電話で江戸川区に住む原さんと連絡を取って自身が住む部屋に呼び出し、舞被告とともに、睡眠薬の入った飲み物を飲ませて眠らせた疑いがあるということです。
殺害の実行役は父親の昌浩被告で、翌日の未明にスーツケースに入った遺体を多摩川の河川敷で遺棄したのは父親と兄の昌吾被告、それに岩城被告の3人とみられています。

インターネットでの配信がきっかけの一つとなったとみられる事件はほかにも起きています。
ことし5月、東京・新宿区のタワーマンションの敷地内で、25歳の女性がナイフで刺されて死亡した事件では、女性が以前経営していた飲食店の50代の客が殺人などの罪で起訴されました。
捜査関係者によりますと、事件を起こしたきっかけについて被告は「直前に女性がインターネットのライブ配信で自分のことを批判しているのを見た。お金を返してもらうために会って話ができればと思い、家の近くまで行った」などと供述しているということです。
また、おととし1月には動画配信をしていた埼玉県越谷市の33歳の女性が茨城県牛久市の20代の元交際相手に刃物で刺されるなどして殺害される事件も起きました。
元交際相手は女性が配信していたライブ動画の視聴者で、LINEのメッセージを交わすようになったということです。
さいたま地方裁判所は去年、懲役17年を言い渡し、判決によりますと、2人が直接会ったのは1度きりで、交際期間もわずか6日だったということです。