劇症型溶血性レンサ球菌感染症 患者数引き続き多い状態続く

手や足のえ死などを引き起こし、死に至ることもある「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」について、ことしは過去最多だった去年1年間の患者数をすでに超えていて、先月23日までに報告された患者数は1101人となっています。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は主に「A群溶血性レンサ球菌」と呼ばれる細菌に感染し、手足のえ死や多臓器不全などが起こる感染症で30代以上に多いとされ、症状が急激に悪化して死に至ることもあります。
国立感染症研究所によりますと、先月23日までの1週間に報告された患者数は33人で、ことしに入ってからの累計では速報値で1101人となっています。
現在の方法で統計を取り始めてから最も患者数が多かった去年は1年間で941人で、ことしは先月2日の時点ですでにこの数を超えていて過去最多となっています。
国立感染症研究所によりますとこれまでに報告されている「A群溶血性レンサ球菌」による「劇症型」の患者650人余りでは、推定される感染経路は傷口などからの感染が44%と最も多く、次いで感染経路不明が35%、また、9%が飛まつによる感染とみられるということです。
国立感染症研究所では、手洗いやせきエチケット、それにすり傷などけがをした際に傷口を消毒するなど感染予防策を呼びかけています。
一方、主に子どもがかかる病気で同じ「A群溶血性レンサ球菌」に感染して発熱やのどの痛みなどが出る咽頭炎についても去年夏以降患者数が多い状態が続いています。
先月23日までの1週間に全国およそ3000の小児科の医療機関から報告された患者数は、1医療機関あたり4.05人で、前の週よりも0.41人減ったものの、6週連続で4人を超えています。

新型コロナの5類移行後、ことし3月までの9か月間で、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」=「劇症型溶連菌感染症」による妊産婦の死亡が5人報告されたことがわかりました。
新型コロナの感染対策がとられていた時期の死亡報告はなかったことから、分析した医師は「マスクや手洗いなどの対策で抑えられていた可能性があり、妊産婦は継続してほしい」としています。
日本産婦人科医会の死亡症例を検討する委員会のメンバーの聖マリアンナ医科大学の長谷川潤一教授などのグループが、2010年1月からことし3月までに劇症型溶連菌感染症で死亡した妊産婦の症例を分析しました。
それによりますと、新型コロナ前は変動はあるものの毎年1人から5人程度の死亡が報告されていましたが、新型コロナの感染対策が取られていた2020年から2023年6月までのおよそ3年間は死亡の報告はありませんでした。
しかし、新型コロナの5類移行で感染対策が緩和されたあと、2023年7月からことし3月までに妊産婦5人の死亡が報告されたということです。
感染経路をみると、妊婦は7割以上が鼻やのどの「上気道」からの感染が推定され、長谷川教授は新型コロナが感染拡大していた期間は、マスク着用や消毒、手洗いなどによって感染が抑えられていた可能性があり、感染対策の緩和後に死亡例の報告が出ていると指摘しています。
長谷川教授は「劇症化になることはまれで、過度におそれることはないが妊産婦本人はもちろん、同居する家族などはマスクや手洗いなどの感染対策をとってほしい。妊娠中にのどの痛みや熱などの異変があったら、すぐに医療機関を受診し、溶連菌に感染した家族がいる場合は医師に伝えてほしい」としています。
また、医療機関に対し、「妊婦が発熱やのどの症状を訴えた場合には、救急外来などでも溶連菌への感染を疑うべきだ。家族など周囲に溶連菌による咽頭炎などがなかったかをたずねるほか、簡易検査キットで確認するなどして速やかに治療につなげてほしい」と話していました。

「A群溶血性レンサ球菌」は主に子どもの咽頭炎の原因となる菌で多くの場合は軽症で済みますが、まれに「侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症」と呼ばれる症状で入院が必要になることがあります。
「侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症」は、急激に悪化する「劇症型」のようにショック症状などはないものの、重い肺炎や関節炎、骨髄炎などの症状が出るということで入院が必要になるということです。
東京・府中市の東京都立小児総合医療センターでは、「侵襲性」と診断され、入院する子どもが去年の秋以降、増える傾向にあるということです。
この病院では、新型コロナウイルスが流行した2020年から3年間は「侵襲性」の患者は1人もいませんでしたが、「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」が流行した去年12月からことし5月までの半年間で4人が入院したということです。
このうちことし5月に入院した7歳の男の子は重い肺炎を起こし、すぐに肺にたまったうみを取り除く手術を行ったということで、現在は回復して退院しているということです。
この病院では「侵襲性」の患者はコロナ禍前は、多い年でも5人程度だったということですが、「劇症型」とは違って国への報告の制度などがなく、国内全体の患者数などは分からないということです。
東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩部長は「軽症の咽頭炎の患者がものすごく増えてすそ野が広がった分、重症化する患者も増えているとみられる。ありふれた菌なので過度に恐れることはないが、手洗いなどの予防対策は取ってほしい。子どもの侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症は全体像が分からないので、特定の医療機関に絞って調査を行うなど感染状況を把握する方法を検討してもよいのではないか」と話していました。