新紙幣 3日発行へ 朝以降日銀から各金融機関へ引き渡し

20年ぶりとなる新しい紙幣が3日発行されます。
新紙幣は3日の朝以降、日銀から各金融機関に引き渡され、午前中に手にすることができる金融機関もある見込みです。

新たな紙幣は一万円札が「近代日本経済の父」と呼ばれる渋沢栄一、五千円札は日本で最初の女子留学生としてアメリカで学んだ津田梅子、千円札は破傷風の治療法を開発した細菌学者の北里柴三郎の肖像がデザインされます。
紙幣のデザインの変更は、今の紙幣が発行された2004年以来、20年ぶりです。
偽造防止の強化を目的に立体的なホログラムを採用したほか、誰でも額面が分かりやすいよう数字の表記が大きくなります。
新紙幣は3日午前8時以降に日銀から各金融機関に引き渡され、早ければ午前中に手にすることができる金融機関もある見込みです。
政府・日銀は来年3月までには現在発行されている紙幣の46%にあたる74億8000万枚を印刷する計画です。
財務省のまとめでは、新紙幣の発行までに金融機関のATMが9割以上、大手コンビニやスーパーのレジも8割から9割程度更新作業が完了する一方、対応する飲料の自動販売機は2割から3割程度にとどまるとみられ、電子マネーなどキャッシュレス決済が浸透するなか、業界ごとの対応に差が出ています。

紙幣のデザイン変更は2004年以来、20年ぶりです。
一万円札には、およそ500もの企業の設立や育成に携わり「近代日本経済の父」と言われる渋沢栄一。
五千円札には、日本で最初の女子留学生で女性の地位向上や女子教育に尽力した津田梅子。
千円札には、破傷風の治療方法を開発し、「近代日本医学の父」とも呼ばれている北里柴三郎の肖像をデザインします。
今回のデザイン変更は偽造防止の強化や誰でも利用しやすい「ユニバーサルデザイン」の導入が主な目的です。
偽造防止という点では最先端のホログラム技術を導入しました。
斜めに傾けると画像が立体的に動いて見える仕組みとなっていて、傾け方によって肖像の顔が左右に向きを変えたり、額面の数字の色合いが変化したりします。
国立印刷局によりますとこの技術をお札に採用するのは、世界で初めてだということです。
また、「すかし」には肖像の背景に緻密な線で構成した模様が施されています。
ユニバーサルデザインという点では、日本の紙幣になじみの薄い外国人なども利用しやすいよう、額面の表記を漢字よりも数字を大きく目立つようにしています。
また、目の不自由な人でも指で触って紙幣の種類が分かるよう、凹凸のある11本の斜線=斜めの線を印刷しています。
一万円札は左右の中央、五千円札は上下の中央、千円札は右上と左下にあります。

新紙幣の発行に向けて政府・日銀はおよそ2年前から本格的な印刷を始めるなど準備を進めてきました。
日銀は先月末時点で一万円札を29億枚、五千円札を3億枚千円札を20億枚のあわせて52億枚を準備しています。
来年3月までにはさらに22億8000万枚準備し、現在発行されている紙幣の46%にあたる74億8000万枚とする計画です。
日銀によりますと20年前の前回の新紙幣の発行の際には1年間で6割程度が新たな紙幣に切り替わったということです。
一方、金融機関のATMや自動販売機の対応状況は業界によってばらつきが出ています。
財務省がことし5月にメーカーの業界団体に行った聞き取り調査では、新紙幣の発行開始までに金融機関のATMが9割以上大手コンビニ・スーパーのレジは8割から9割程度更新作業が完了する見通しです。
また、公共交通機関では、鉄道の券売機が8割から9割程度で更新が進むほか、路線バスの料金箱などでは6割から7割程度で更新作業が完了する見通しです。
一方、コインパーキングなどの自動精算機や飲食店の食券など券売機は5割程度飲料の自動販売機は2割から3割ほどにとどまるとみられるということです。
更新費用の一部を補助する自治体もある一方、事業者のなかには新紙幣の発行をきっかけに電子マネーやQRコード決済などキャッシュレスのみの対応に切り替える動きも出ています。

新しい紙幣は3日から金融機関に引き渡され、順次、窓口やATMで手に取ることが可能になります。
ただ、初日は多くの金融機関が新紙幣の取り扱いを一部の店舗に限定する見通しです。
りそなグループのうち、埼玉りそな銀行は、発行が開始される3日・初日からおよそ100の店舗で、窓口や両替機で新紙幣の出金や両替が可能だとしていて、早ければ午前中に新紙幣を手にすることができるとしています。
新しい一万円札の肖像に描かれる渋沢栄一の出身地が埼玉県深谷市であることから地域を盛り上げるための対応だとしていますが各店舗で紙幣の数には限りがあるとしています。
一方、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行は、初日は混乱を避けるため、新紙幣を取り扱う店舗はごく一部にとどめるとしています。
また、ATMについてもみずほ銀行が初日は新紙幣の充てんよりも窓口での対応を優先させることを決めているほか、三菱UFJ銀行と三井住友銀行もATMへの充てんを積極的には行わない方針です。
3行は4日以降は順次すべての店舗で新紙幣の取り扱いを始めるほか、ATMへの充てんも順次進めるとしています。
また、コンビニを中心にATMを全国に2万7000台以上設置しているセブン銀行も3日・初日は試験的に一部のATMに新紙幣の充てんを行いますが、当面は旧紙幣の数が多い状態が続きそうだとしています。
日本銀行では新紙幣の発行に関して、両替を目的とした新紙幣への交換は行わないとしています。

20年ぶりとなる新しい紙幣が3日発行されるのを前に東京・北区にある金融機関では、両替や記念イベントの準備が進められています。
東京・北区は、新一万円札の肖像となる渋沢栄一が邸宅を構えたゆかりの地で、この地域に店舗がある城北信用金庫では、地域を盛り上げようと、ことし5月に王子銀座出張所をリニューアルし、通称「しぶさわくん支店」と名付けました。
店舗では、3日の新紙幣の発行にあわせて店舗を訪れた人に渋沢栄一にちなんだキャラクターのグッズを配ることにしていて、店内には「あと1日」と書かれたボードが掲げられ、職員らが3日からの両替に備えて新札の発行を知らせるポスターを壁にかけたり、キャラクターのグッズを並べたりして準備を進めていました。
また、店舗の隣にある広場でも記念のイベントが開かれることになっていて、告知をするための大きな看板の設置作業が行われていました。
城北信用金庫の溝口珠希さんは「あすを盛り上げようと、長い期間をかけて、たくさん準備をしてきたので、やっとこの日が来たか、という感じです。あすを一番に盛り上げ、地域と一緒に新紙幣の発行を祝いたいです」と話していました。

新紙幣の発行を3日に控えるなか、横浜市内の飲食店では、発行前日の2日、券売機の更新作業が行われました。
横浜市神奈川区にあるラーメン店では2日昼すぎ、券売機を取り扱っている企業の担当者が訪れ、店内に設置された券売機1台を更新する作業を行いました。
担当者ははじめに券売機の扉を開け、紙幣を読み取る機械を取り外したあと、新紙幣にも対応した機械に交換し、10分ほどで作業を終えていました。
このラーメン店では、支払い方法は現金のみで、新紙幣の発行に備えようとことし3月中旬に券売機の更新を発注していました。
ただ、券売機を取り扱う企業では多くの依頼を受けていて、機械や作業員の手配などを調整した結果、注文から3か月余りたった2日、この店の券売機の更新を完了しました。
「横浜家系ラーメン中島家」の中島正昭代表は「ギリギリでしたが、なんとか間に合って安心しています。お客さんが最も多く訪れる昼どきなどに両替となると大変なこともあるので、迷惑をかけることなく、スピーディーに対応できるようになってよかったです」と話していました。

新たな紙幣の発行についてニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「一番大きな意義は、紙幣の偽造防止だと思う。技術が進歩すると、紙幣の偽造技術も進歩していくので偽札が出やすくなってしまう。偽造を防いで紙幣の信用力を保っていくことが必要だ」と指摘します。
そのうえで「キャッシュレス化は今後もどんどん進行していくとみているが、キャッシュレスに適応できない人もいるほか、大規模な災害やシステム障害などのときは使えなくなる可能性がある。現金の需要、紙幣の需要がゼロにはならない以上は新しい紙幣の発行が必要になってくる」と話しています。
また、事業者のなかで新紙幣に対応した券売機や運賃箱の準備が間に合わないケースが相次いでいることについては、「直前に需要が殺到しメーカーが対応できない事態を避けるためにも、政府が主導してより計画的に切り替えを促す取り組みが必要だった。早めに切り替えると一定程度の補助金を出す措置がもしあれば、円滑な切り替えと負担の軽減にもなったと思う。公共交通機関での対応が進んでいるかどうかを行政がチェックする体制もこれから先必要になってくるのではないか」と指摘しています。