「恵」運営障害者グループホーム 今後指定更新認めず 厚労省

障害者向けグループホームを全国で展開している運営会社「恵」の事業所が利用者から食材費を過大に徴収していた問題で、愛知県などが26日、事業所としての指定を取り消したのにあわせて、厚生労働省は会社が組織的に不正に関与していたとして、運営するほかの事業所についても今後指定の更新を認めない措置を取ると会社に通知しました。

東京・港区に本社がある「恵」が運営する障害者向けグループホームをめぐっては、利用者から食材費を過大に徴収したり、障害福祉サービスの報酬を不正に請求していたことが明らかになっています。
厚生労働省によりますと、食材費の過大徴収は今月20日現在、全国104の事業所のうち77か所で行われ、過大徴収の総額は2億9900万円余りにのぼっています。
愛知県や名古屋市は、管内にあるあわせて5つの事業所に対して26日、法律の規定としては最も重い指定を取り消す行政処分を行いました。
これにあわせて厚生労働省は、会社が組織的に不正に関与していたとして、全国のほかのグループホームなどについても法律に基づいて今後事業所としての指定の更新を認めないいわゆる「連座制」を適用すると会社に通知しました。
またあわせて、業務管理体制の見直しも適切に行われていないなどとして26日付けで業務改善命令を出しました。
自治体による事業所の指定の更新は6年ごとで今後、数年の間に全国の「恵」のグループホームなどが順次更新期限を迎えて運営ができなくなる見通しです。
厚生労働省は、グループホームで暮らす障害者が行き場をなくすことがないよう、自治体と連携しながら対応することにしています。

障害者向けのグループホームを展開している「恵」の事業所で行われていた食材費の過大徴収について、関東地方のグループホームに息子が入居している女性がNHKの取材に応じ、「提供される食事が少なく、帰宅した際にしきりに食べ物を求めてくることがあった」と当時の状況を話しました。
取材に応じたのは関東地方にある「恵」のグループホームに重度の知的障害がある息子が入居している女性です。
女性によりますと、おととしまでは提供される食事について施設を訪れた時に量が少ないと感じたり、子どもが帰宅した際に食べ物をしきりに求めたりすることがあったということです。
現在は改善されていますが、女性は当時の状況について「食事の量が少なく、大丈夫かと感じていました。施設に差し入れを持って行くと入所者が詰め寄ってくることもありました」と振り返りました。
そして去年の夏ごろには会社側から差額の返金が行われましたが、書面に内訳はなく今も詳しい説明はされていないということです。
女性は「憤りを感じます。経済的、身体的、精神的な虐待だと思います。お金を誰がどう使っていたのか、きちんと説明してほしい」と話していました。
今回の厚生労働省の措置を受けて施設を移ることについては、重度の障害者の受け入れが限られることや、子どもへのストレスを考えると簡単ではないということで、女性は「頭が真っ白です。親が死んだあとでも生きていけるようにと願って預けていたが、今はどうすればよいか悩んでいる」と話しました。
そのうえで、「一生懸命子どものために支援してくれる職員もたくさんいて、職員のみなさんも組織に裏切られたという気持ちがあると思う。次の施設を見つけようにもなかなか空きがないと思うのでどう動けばよいのか途方に暮れている状態だ」と心境を語りました。

「恵」が運営する関東地方のグループホームの職員は、利用者の今後の生活について不安を募らせています。
この職員によりますと、厚生労働省の今回の措置を受けて利用者から問い合わせの電話がきていますが、本社から詳しい説明がなく、十分な回答ができない状況だといいます。
職員は「正直すごく困惑しています。利用者から『大丈夫ですか』と電話がありましたが、本社からは『結果が出たらはっきり伝えますのでお待ちください』と伝えるよう言われました」と話していました。
今後、更新期限を迎えると運営ができなくなるおそれがあり、利用者の今後の生活がどうなるか不安を募らせています。
職員は「利用者は重度の障害者が多く、他の施設では受け入れが難しいかもしれない。職員と利用者がお互いよく知っている方が支援しやすく、このまま残れるのが一番だとは感じています」としたうえで、「利用者のために今まで働いてきたことが無駄になってしまうようで、悔しい気持ちでいっぱいです。まずは会社側から説明をきちんとしてほしい」と訴えていました。

厚生労働省によりますと東京・港区に本社がある「恵」が運営する障害者向けグループホームは全国に104か所で、関東地方の1都6県には、埼玉と千葉にそれぞれ17か所、茨城に8か所、神奈川と栃木にそれぞれ7か所、群馬に5か所、東京に2か所のあわせて63か所あります。
このうち、食材費を過大に徴収していたのは千葉で14か所、埼玉で10か所、茨城で6か所などあわせて45か所で、総額7500万円近くにのぼっています。

恵が愛知県などから指定取り消しの処分を受けたことについて、障害福祉に詳しい日本社会事業大学専門職大学院の曽根直樹教授は「障害福祉サービスは国民の税金を使って障害のある人の生活を支えるものなので、それを適切に行わずに会社の利益を優先したということは、グループホームの利用者だけでなく税金を払っている人も裏切る行為だ。今回の処分は、重大な不正に基づいて障害福祉サービス事業から退場を命じられたということなので、不正の責任をきちんと受け止める必要がある」と指摘していました。
また、連座制の適用については、「全国に100か所以上あるグループホームの利用者がホームを利用することができなくなり、生活に重大な影響が出るという前例のないことになる。恵はまずは利用者や家族に誠意をもってお詫びをし、利用者が生活の場を失って路頭に迷うことがないよう、全力で次の生活の場を見つけるなど、責任を最後まで果たすことが求められる」と話していました。
そのうえで、「恵のグループホームは全国にあり、一つの事業者がすべてを引き継ぐことは難しく地域ごとに新たな運営主体を探すことが現実的だ。自治体や地域の事業者が協力して対応策を考えることが求められる」と話していました。