旧大口病院患者殺害 元看護師に1審に続き無期懲役 東京高裁

横浜市の病院で入院患者3人の点滴に消毒液を混入して殺害した罪などに問われた元看護師に対し、2審の東京高等裁判所は「裁判員を含めて慎重に議論した判断であれば死刑を科すことは許されない」として、1審に続き無期懲役を言い渡しました。
横浜市神奈川区の旧「大口病院」の元看護師、久保木愛弓被告(37)は、8年前の2016年9月、70代から80代の入院患者3人の点滴に消毒液を混入し、殺害した罪などに問われています。
1審の横浜地方裁判所は「立ち直りの可能性もある」などとして無期懲役を言い渡し、検察と弁護側の双方が控訴していました。
19日の2審の判決で東京高等裁判所の三浦透裁判長は久保木・元看護師に完全責任能力があったと改めて認め、「3人の命が失われた結果は重大で、犯行に計画性が認められ、動機についても身勝手極まりない。死刑が十分に考えられる」と指摘しました。
一方、「死刑は究極の刑罰で、ほかの事件と異なる検討が求められる」としたうえで、「今回、1審で裁判員を含めて慎重な議論が行われ、死刑という判断に至らなかったのであれば、死刑を科すことは許されない」と述べました。
そして、「生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせ、立ち直らせるのが相当だ」として1審に続いて無期懲役を言い渡しました。
久保木愛弓被告は神奈川県秦野市の県立高校を卒業後、看護の専門学校に通い、2008年に看護師の免許を取りました。
1審の裁判では看護師のイメージについて、「患者の近くに寄り添い、不安や苦痛を取り除くすばらしい仕事だと思いました」と述べていました。
1審判決によりますと、免許を取った後に旧大口病院とは別の病院のリハビリ病棟や老人保健施設などに勤めましたが、患者が亡くなった際に同僚の看護師が遺族から責められているのを見てショックを受けるなどし、その後、抑うつ状態と診断されました。
勤め先を辞め、事件が発覚する前の年の2015年に旧「大口病院」に採用されました。
およそ1年後、夜勤中に救命措置をとった患者が亡くなる出来事があり、遺族から「看護師に殺された」などとどなられることがあったということです。
これをきっかけに、自分が勤務していない時間帯に患者が亡くなれば、患者の家族から責められるリスクが減ると考えるようになったと1審判決は認定しました。
1審の審理の最後、久保木・元看護師は「身勝手な理由で大切な家族を奪ってしまい申し訳なく思っています。死んで償いたいと思います」と述べていました。
これまでの裁判では久保木・元看護師の責任能力と刑の重さが争点となっていました。
1審の横浜地方裁判所は久保木・元看護師の当時の精神状態について「『ASD=自閉スペクトラム症』の特性を有し、うつ状態と認められるが、完全責任能力があった」と判断し、責任能力が限定的だったとする弁護側の主張を退けました。
一方で刑の重さについては「患者が亡くなった際に家族にどなられて強い恐怖を感じた。ストレスをため込み、一時的な不安軽減のため患者を消し去るほかないと考えた。こうした動機の形成過程は被告のために考えるべき事情と言える。立ち直りの可能性もあり、死刑を選択するのはちゅうちょを感じざるを得ない」として無期懲役を言い渡しました。
検察と弁護側の双方が控訴し、2審で検察は、「3人を殺害した事件であり、死刑を回避すべき事情はない」などと主張したのに対し、弁護側は死刑にすべきではないと主張していました。
判決について東京高等検察庁の伊藤栄二次席検事は「判決内容を十分に精査し、適切に対処したい」とコメントしています。

1審に続き無期懲役とした東京高等裁判所の判決について、裁判員制度の設計に携わった國學院大学の四宮啓名誉教授は「非常に重大な事件について、国民が審理に参加した1審の判断を尊重した。国民の参加でより公正な刑事裁判を目指そうとする裁判員制度の趣旨に合った判断だったと思う」と述べました。
一方、過去の判例との関連については「最高裁の判例などによる基準に縛られることなく、事件の特性に応じた柔軟な考え方を示している印象を受けた」と述べていました。