付属高校勤務の非常勤講師 “未払い賃金”求め日本大学を提訴

日本大学の付属高校に勤務する非常勤講師が、授業の準備やテストの採点といった授業時間以外の仕事に賃金が支払われていないとして、およそ1100万円の支払いを求める訴えを東京地方裁判所に起こしたことが分かりました。

訴えを起こしたのは、静岡県三島市にある日本大学三島高校で非常勤講師をつとめている40代の男性です。
訴状などによりますと、男性の給与は働いた時間ではなく担当する授業の数に応じて支払われる「コマ給」と呼ばれる契約で、授業の時間だけが所定の労働時間と定められています。
しかし教材の作成やテストの採点、生徒の質問への対応など授業時間以外の業務は多く、時間外勤務はタイムカードなどで確認できるだけでも、去年9月までの3年余りで2300時間を超えるということです。
男性は、時間外勤務が給与に反映されていないとして、高校を運営する学校法人日本大学に対し、未払いの賃金などおよそ1100万円の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴しました。
日本大学三島高校は去年3月、労働基準監督署から「授業時間以外の労働を適正に把握すること」といった内容の是正勧告を受けています。
日本大学は取材に対し、「是正勧告については、真摯に対応している。訴状は届いておらず、係争中でもあり回答は差し控える」としています。

原告の非常勤講師の男性は授業以外の業務は多岐にわたる一方で、給与や社会保障について十分に整備されていないとし、「生活が保障されて安心して働ける状態にしてほしい」と訴えました。
男性によりますと、非常勤講師の実際の業務は授業だけではなく、プリントやテストの作成、生徒の質問対応や入試対策、それに学校行事の準備など多岐にわたります。
一方で、そうした授業以外の業務は労働時間として計算されておらず賃金が支払われていないということです。
男性によりますと、多くの非常勤講師は年収300万円以下で働いていて、社会保険に加入することもできていないということです。
こうした状況について、男性は「子どもたちが好きで一生懸命働いているが、生活のことを考えるとこれでいいのかと常に疑問を持つ。多くの教員も生活に不安を感じている」と話しました。
そのうえで、「今の制度は崩壊していて、教えている生徒から『将来は先生になりたい』と教員の働き方を聞かれても、ことばに詰まってしまう。働いた分に見あった対価が支払われて生活が保障され、安心して働ける状態にしてほしい」と話していました。

教員の労働環境や待遇を巡っては、文部科学省の中教審=中央教育審議会の特別部会が今月、処遇の改善を提言するなど、公立学校を中心に関心が高まっています。
教育法学が専門の大阪大学の高橋哲准教授によりますと教員の処遇については、公立とは給与体系の異なる私立でも、たびたび問題になっているということです。
私立の教員には労働基準法が適用され、残業代が支払われていないという労働基準監督署などへの訴えは多いということで、未払いの賃金を支払うよう是正勧告するケースも出ています。
高橋准教授は「これまでは労働基準法違反があるごとに個別に是正勧告が出されていたが、今回の裁判で実態が明らかになれば、広く私立学校の労働条件の改善につながる可能性がある。教員の労働時間について社会で考えるきっかけになるのではないか」と、今回の裁判をきっかけに公立・私立問わずに教員の働き方について、議論を深めるべきだと指摘しています。