「熱中症特別警戒アラート」運用開始 自治体の準備状況は

人の健康に重大な被害が生じるおそれがある暑さが予測された場合に新たに発表される「熱中症特別警戒アラート」のことしの運用が24日から始まりました。
アラートが発表されると自治体は冷房が効いた施設、「クーリングシェルター」の開放が求められていますが、NHKが全国の県庁所在地と政令指定都市などを取材したところ、4分の1余りの自治体は具体的な設置予定がなく、自治体の準備状況に差が出ていることが分かりました。

24日から運用が始まった「熱中症特別警戒アラート」は、気温や湿度などから算出する「暑さ指数」の予測値が、すべての観測地点で35以上となった都道府県を対象に、環境省が発表します。
特別警戒アラートが発表されると、自治体は「クーリングシェルター」としてあらかじめ指定した公共や民間の冷房が効いた施設を無料で開放することが求められています。
このシェルターの設置状況について、NHKが全国の県庁所在地と政令指定都市、それに東京23区のあわせて74の自治体に取材したところ、設置を決めているのが8自治体、ことしの夏までに設置することを検討しているのは46自治体でした。
一方、15の自治体が検討しているものの具体的には決まっていないとしたほか、5つの自治体は設置の予定がないと回答し、全体の4分の1余りの自治体は運用開始時点で具体的な設置の予定はなく、自治体によって対応に差が出ていることが分かりました。
設置の予定がない理由を聞くと、すでに公共施設を誰でも涼める場所として開放しているためとか、休日に開放する際の職員の体制確保や、利用人数の想定が難しい、といった回答がありました。
環境省は自治体向けに説明会や先行事例を紹介するなどして、シェルター設置の取り組みを後押ししたいとしています。

国内最高気温を観測したこともある埼玉県熊谷市はクーリングシェルターとしておよそ20か所を指定する予定です。
開放するのは市の分庁舎や公民館などの公共施設13か所とスーパーやドラッグストアなどの民間施設少なくとも10か所で、市の全域をカバーできるよう配置を考えて施設に協力を求めました。
熱中症特別警戒アラートは当日の午前0時から午後11時59分が発表時間ですが、クーリングシェルターを開放する時間は、自治体の判断だとされています。
熊谷市では、夜間も熱中症で搬送される危険性があるとして午前0時まで営業している市内のドラッグストアの店舗に協力を求め、夜間の避難場所とする計画です。
公共施設の開放も検討しましたが夜間や休日に対応する職員の確保が課題としてあがり、民間への協力を求めたということです。
熊谷市環境政策課の青木健さんは「役所はどうしても土日の態勢や夜間対応が難しい部分があるので、民間施設に開放してもらえるとかなり助かる。まずはふだんからということで通常時、発表されていない時も開放していきたい」と話していました。

新たに運用が始まる「熱中症特別警戒アラート」やすでに使われている「熱中症警戒アラート」は気温だけでなく、湿度や地面などからの熱を計算した「暑さ指数」をもとに発表されます。
熱中症を防ぐためには暑さ指数も考慮した対応が必要です。
例年、多くの高齢者が熱中症で救急搬送されていますが、去年も学校の部活動や運動会の練習中などの際に生徒や児童が熱中症とみられる症状で搬送されるケースが相次ぐなど子どもの対策も必要です。
NHKが日本スポーツ振興センターから提供を受けて行った都道府県や発生日時、時間などが記載された詳細なデータの分析では、2003年から2021年までの間に生徒や児童28人が熱中症で死亡していたことが分かりました。
これらを環境省が公表している「暑さ指数」のデータと照合したところ、分析可能な2010年以降に起きた15件のうち、運動の原則中止を求める「危険」が2件、激しい運動を中止するよう求める「厳重警戒」が10件と8割で熱中症になる危険性が高い環境だったことがわかり、気温だけでなく「暑さ指数」を考慮した対応の必要性がデータからも見て取れます。
日本スポーツ協会の指針では「暑さ指数」が31以上では“運動は原則中止”、28以上では“激しい運動は中止”すべきとしていて、文部科学省などの手引きではこれを参考に体育などの授業や運動会、遠足といった活動の参考に学校での熱中症対策を進めるよう呼びかけています。

環境省の作業部会のメンバーで、災害時の避難行動に詳しい社会安全研究所の首藤由紀所長は「特別警戒アラートが出るような熱波ということになると夜間でもとてもエアコンなしでは暮らせないという状況だ。いわゆる自然災害のひとつとして捉え、災害対応として市町村は実施する必要があり、国や都道府県もふだんから市町村の取り組みを支援する、発生後も必要な支援を行う仕組みを整えてほしい」と話していました。

24日から環境省の「熱中症予防情報サイト」で、「熱中症特別警戒アラート」の発表の指標となる「暑さ指数」を確認できます。
都道府県ごとに観測地点があり、神奈川県や佐賀県が最も少ない5地点、北海道は最も多く163地点で、それぞれの地点の現在の状況や今後の予測値を確認することができます。
環境省は、翌日の予測値を確認し、すべての観測地点で暑さ指数が35以上になると予測される都道府県を対象に、「熱中症特別警戒アラート」を発表します。
環境省によりますと、過去にこの基準に達した事例はなく、これまでに最も暑さ指数が広域で高くなったのは、2020年8月11日に埼玉県の8地点すべてで34以上になった時で、このうち2地点は35を記録したということです。