信号機の維持予算が各地で課題に 更新時期の目安超え運用増加

全国に20万基以上ある信号機を維持する予算が各地で課題となり、コストを抑えるため更新時期の目安を超えて信号機が使われるケースが増えています。
撤去されたり新設が実現しなかったりするところも少なくなく、運用する警察は信号機の再編を進めるとともにほかの方法による交通安全の確保に向けた取り組みを強化しています。

信号機は、全国の警察が各都道府県の予算で設置や運用を行っていますが、機器の更新など維持管理にかかるコストが課題となっています。
このうち千葉県では、維持管理の費用として、毎年およそ40億円が投入され、千葉県警察本部の交通関連の予算の4割を占めていて人口の減少局面でコスト削減が求められるなかほかの予算を圧迫しています。
このため県警は信号機を制御する機器の更新時期を目安の19年間から5年延長し24年間とする独自の運用を行っていてこうした信号機は現在およそ1700基に上るということです。
警察庁によりますと、千葉と同じような運用はほかの地域でも行われていて、近年は、全国の信号機の24%が更新時期を超えているということです。
警察はコスト削減などの面から信号機全体の再編を進めていて、過疎地などの必要性が低いものは撤去しているほか新設の要望があっても実現しないケースは少なくありません。
千葉県警察本部交通規制課の山田靖弘課長代理は「維持管理の費用は限られた予算のなかで高止まりをしている状況だ。信号機によらない安全対策も含めて、環境に応じた適切な安全対策を進めていくことが重要と考えている」と話しています。

信号機は、赤・青・黄色に点灯する「灯器」と支柱、それに、点灯時間の調整などを行う心臓部の「制御器」で主に構成されています。
「制御器」は、交差点などに複数設けられている「灯器」1組に1台ずつ設置されていて、国は故障が起きる確率などから、更新する目安として19年ごとが適切だとしています。
しかし、1台を更新するのにかかる費用は100万円から200万円ほどと高額なことから、千葉県警察本部は、更新の頻度を減らすことでコストの抑制に努めているということです。
千葉県警察本部は「毎年、すべての信号機の点検を行い、不具合があればすぐに修理を行うなど安全管理は徹底している」としています。

各地の信号機が更新の目安を超えて運用されている実態を受け、警察庁は、コスト削減には信号機の再編が必要だとして、全国の警察に対し、「指針」を示して撤去などに取り組むよう求めています。
「指針」は、信号機を設置する基準として2015年に警察庁がまとめたもので、1時間あたりの車の交通量が300台以上あることや、信号機どうしの距離が150メートル以上離れていること、歩行者が安全に信号待ちできるスペースが確保されていることなどの条件が盛り込まれています。
5年前、全国の警察に出された警察庁の通達では、この「指針」に沿って各地の信号機を点検し、必要性が低下しているものについては撤去を進めることなどを求めています。
千葉県内では、5年間で115基の信号機が必要性が低いと判断され、このうち38基がすでに撤去されています。
千葉市中央区亥鼻の県道では、2年余り前、道の拡幅工事にあわせて信号機と横断歩道が撤去されました。
隣の信号機との距離が近いことが撤去の理由で、地元の住民に説明を行って合意を得ているということですが、近くに大学や中学校があり歩行者も多いことから、困惑の声も出ています。
近くに住む40代の男性は「道路の拡幅とセットだったのでやむをえないと思っていましたが、中学生が信号機が撤去されたところを渡ってくることもあり、少し危ないと感じています」と話していました。
また、信号機の新たな設置は、コストの増加につながるため難しくなっています。
柏市逆井の小学校の通学路では、PTAが交差点への信号機の設置を繰り返し要望しています。
交差点は多くの車が通り、交通事故が後を絶ちませんが、警察からは「指針」に基づく判断で設置は難しいと説明があったということです。
小学校のPTAの多賀勇太会長は「地域のボランティアの見守り活動で、何とか子どもの事故は避けられている状況です。死亡事故が起きてからでは遅いです」と話していました。
印西市竜腹寺の交差点は、去年死亡事故が発生し、地元の住民から警察と市に信号機設置の要望書が提出されています。
しかし、設置される見通しは立っておらず判断の理由も知らされていないということです。
地区長の加藤庄一さんは「地区にとってなくてはならない道路で、これ以上、事故は起きないでほしいです。地区の交通安全を願って、信号機の設置を強く要望します」と話していました。

信号機の再編が求められる中で各地の警察が強化しているのが、「信号機によらない安全対策」です。
千葉県市原市ちはら台の通学路では3年前、小学生が亡くなる事故が起きました。
地元の自治会は信号機の設置を要望しましたが、交通量が基準に満たないとして実現しませんでした。
そこで市から代わりに提案されたのが、「スムーズ横断歩道」でした。
歩道と同じ高さに路面が盛り上がっているほか、周辺は注意を促すように色づけされ、ドライバーから見やすく、減速や一時停止を促す効果があるとされています。
少しでも安全性が向上するならと地域が受け入れ、設置されました。
地元の自治会連合会の斉尾誠治会長は「本当は信号機を設置してもらえれば一番いいのですが、しかたないと思っています。この設備もある程度、効果はあると思うので、信号機の設置を何年も待つよりはいいと思っています」と話していました。
「信号機によらない安全対策」には、このほか、環状交差点の「ラウンドアバウト」や、道幅の広い道路を渡る横断歩道の途中に、待機場所を設けて少しずつ渡ってもらう「二段階横断歩道」などがあります。
これらの対策は維持管理のコストが抑えられるため、長期的に見ると信号機の設置より費用がかからないとされています。
しかし、道路工事が必要で道路を管理する機関の協力が欠かせないほか、道路の交通量や交差点の形状などによっては設置が難しいケースもあります。

信号機をめぐる状況について、交通政策に詳しい埼玉大学の久保田尚名誉教授は「以前は交通事故などが発生するとまずは信号機を設置しようとなっていたが、もしかすると信号機以外の安全対策の方がよかったと思われる場所もある。こうした所で撤去してほかの対策を導入するのは安全対策としても合理的で、結果的に設置数が減ってコスト削減につながると思う」と話しています。
一方で、「信号機は交通量の多い交差点などでは、いまも安全対策として欠かせない。安全対策にはそれぞれ得意分野があるので、『信号機によらない対策』の認知度を高めていくとともに、地域の課題に対して警察や道路管理者、住民が話し合ったうえで何が必要なのか考えなければならない」と指摘しています。