要支援者の「福祉避難所」直接避難 自治体の周知進まず

高齢者や障害者などの避難は能登半島地震でも課題になっていますが、こうした災害時に支援が必要な人が避難する「福祉避難所」について、国は一般の避難所を経由せず、直接避難できるよう自治体に求めています。
NHKが東京23区と多摩の市町村にアンケートをしたところ、直接避難の方針を周知した自治体は4つにとどまっていることがわかりました。
専門家は「防災担当の職員だけでなく、地域の住民や福祉事業者を巻き込んで進めるべきだ」と指摘しています。

災害時に支援が必要な高齢者や障害者などをめぐってはこれまで、一般の避難所に滞在したあと福祉避難所に移動することとなっていました。
適切な支援が受けられるよう、国は3年前、災害対策基本法を改正し、受け入れる人を特定して「指定福祉避難所」としたうえで、一般の避難所を経由せず、直接避難できるよう求めています。
そこでNHKは首都直下地震への備えを進める東京23区と多摩の30の市町村に指定福祉避難所へ避難する際の方針を尋ねました。
その結果、「直接避難する方針で周知済み」と答えたのは品川区、荒川区、江戸川区、それに檜原村の4つの区と村にとどまりました。
このうち荒川区は支援が必要な人の避難先や手段を決める「個別避難計画」を作る際、あわせてどの福祉避難所に行くか、決めているということです。
一方、およそ7割にあたる37の市区と町は「避難所などを経由する」と答え、「特に決めていない」が2市町でした。
また、一般に、福祉避難所に指定されるのは福祉施設が多くなっていますが避難所を運営する主体を尋ねたところ「施設職員」と答えた自治体がおよそ4割にあたる22の市区と村で、「自治体職員」や「地域住民」を上回りました。
また、避難する対象者の数を把握しているか尋ねたところ、「はい」と答えたのは品川区、大田区、荒川区、江戸川区、昭島市、檜原村など11の市区と村でした。
このなかで対象者が福祉避難所に「収容可能」と答えたのは3つの区と村だけで、「収容できない」が3つの市と区、「わからない」が5つの市と区でした。
福祉や防災に詳しい跡見学園女子大学の鍵屋一教授は「福祉避難所への直接避難は、住民の命を守ることにつながる。数が少ない防災担当の職員だけでなく、地域の住民や福祉事業者を巻き込んで取り組みを進めるべきだ」と指摘しています。

大都市で福祉避難所へのスムーズな避難を可能にするにはどうしたらよいか。
避難する対象者を現段階で指定できておらず、福祉避難所への直接避難に向けて検討を進めている東京・墨田区。
専門の企業と協力することで課題の解決につなげようとしています。
今月、環境整備の実績がある大手清掃サービス会社と協定を結びました。
パーティションや空気清浄機、トイレといった機材を提供するとともに設営のスタッフを優先的に派遣してもらう内容です。
今月11日には企業のスタッフと区の職員が福祉避難所の開設を想定した訓練を行い、避難者と介助者が過ごすことのできるおよそ6畳のスペースをつくり、簡易ベッドや空気清浄機などを設置しました。
福祉避難所の運営に必要な人数や設備がどのくらい必要かが具体的に把握できないのが課題だと考えていましたが、専門スタッフの力を借りることで、設営に関わる時間を大幅に短縮することができたほか必要な面積も把握できたとして今後、具体的な検討を進めていきたいとしています。
墨田区防災課の岩本健一郎課長は「直接避難にある程度のスキームができても誰がどの程度にやるか、具体的には難しいところがあるかもしれない。福祉避難所の運営におけるさまざまな課題を一つずつ解決していき、現実的な体制を検討していきたい」と話しています。