女子中学生の自殺といじめに因果関係 横浜市の第三者委報告書

4年前、横浜市の中学校に通っていた女子生徒が自殺したことについて、市の第三者委員会は、クラスメートから女子生徒に対するいじめがあったことを認定したうえで、いじめと自殺に因果関係があったことを認める報告書をまとめました。

2020年3月、横浜市内の中学校に通っていた当時2年生の女子生徒が自殺し、遺族から「いじめが原因で自殺した」と訴えがあったことを受けて、市の第三者委員会が調査を行い、8日、報告書を公表しました。
報告書では、女子生徒に対して行われた中学2年生の時の複数の男子生徒によるからかいと、別の生徒によるSNSでのやりとりができないようにした行為をいじめと認定したうえで「いじめやいじめによる孤立感が強く影響して自殺したといえる」として因果関係があったと指摘しています。
また、相談を受けていた学校側について、女子生徒の情報は学校の「いじめ防止対策委員会」で共有されていたもののいじめとして認知されなかったことや、いじめについての確認を複数の生徒を一度に集めて行うなど対応に問題があったと指摘しています。
一方、市の教育委員会については、生徒が自殺したあと学校側が行った基本的な調査の報告書案から「いじめ」という文言をすべて削除するよう指示するなど対応の経緯が誤っていたと厳しく指摘しています。
横浜市教育委員会の鯉渕信也教育長は「かけがえのない生徒の命を守れず痛恨の極みです。生徒とご遺族の皆様に心からのお悔やみを申し上げるとともに、おわび申し上げます。誠に申し訳ありませんでした」と謝罪しました。
いじめに関する相談は、文部科学省や各地の行政などの窓口で受け付けています。
文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」は0120−0−78310。
休日を含む24時間、通話は無料で対応しています。
また、横浜市の「学校生活あんしんダイヤル」は045−624−9081。
火曜日から金曜日まで、午前9時から午後5時まで受け付けています。
このほかの自治体の問い合わせ先も文部科学省のホームページで確認することができます。

いじめ問題に詳しい上越教育大学いじめ・生徒指導研究センターの高橋知己センター長は「女子生徒が友人関係がうまくいかずに不登校になったと単純に受け止めて、いじめではないと判断してしまったと感じられる」と指摘しました。
そのうえで「中学校は教科担任制なので、1人の生徒に関わる先生が多く、多角的に生徒にアプローチすることができたはずなのに、報告書には担任と養護教諭以外の先生がどんなアプローチをしたのか全く書かれていなかった。生徒をケアすべき人たちが、十分に機能していなかったことが伺える。学校全体として対応できなかったことが一番の問題だと思う」と話していました。

遺族の代理人を務める石田達也弁護士は記者会見を開き、まず、女子生徒がノートに遺書として記した内容として「迷惑をかけてしまったみなさん本当にごめんなさい。なぜ死んだかというといじめが辛かったからです。世の中の人たちにはいじめと判断してもらえないようなものだと思います。それでも私には辛かった」と読み上げました。
また、両親からのコメントとして「いじめ自殺ということばはニュースを通じて耳にしたことはありました。しかし、まさか我が子に起きるとは夢にも思いませんでした。娘は絵を描くことが大好きで、アートに興味を持っていました。誰に対しても優しく、本当に優しすぎるくらい心の優しい娘でした。暴力を伴わないいじめでも子どもを深く傷つけ追い詰めるという認識が、一人でも多くの先生に広がることを願っています」などと発表しました。
そのうえで「家族や本人から学校へのSOSは繰り返し発されていたのに、いじめの認知すらしてもらえなかった。また、指導のあり方についても孤立している子にさらに孤立する不登校という選択肢を提示するなど、子どもの苦痛を本当の意味で解消しようとする視点が欠けていた」と述べました。
そして「今回の調査結果は遺族も評価していて今後に生かせる再発防止策が得られたと考える。場当たり的な対応でなく教訓としてずっと残して風化させないで欲しい」と訴えました。

第三者委員会がまとめた報告書によりますと、中学2年生の時に受けた具体的な2つの行為がいじめにあたるとしています。
【いじめ・複数のからかい】。
1つ目は、女子生徒に対して、複数の生徒によるからかいが2019年6月以降、継続していたとしています。
【いじめ・SNS】。
2つ目は、親しかった生徒とのSNSをめぐるやりとりだとしています。
【夏休み明け以降、欠席】。
生徒は夏休み明け以降、体調不良を何度も訴えて、欠席するようになりました。
生徒は保護者に対し「クラスのみんなが嫌っているように感じる」などと伝え、保護者が10月に学校に相談したということです。
【遺書のノート】。
そして翌年2月にはノートの表紙に「遺書」と書いていじめがつらかったことなどを記していて、3月の修了式の翌日に自殺したということです。
報告書では不登校になった要因は、生徒に関する継続的ないじめやいじめによる孤立感だったとしたうえで「いじめやいじめによる孤立感が強く影響して自殺したといえる。いじめと自殺の因果関係を認めるべきだ」としています。

第三者委員会は報告書のなかで、学校側の対応について「事実を確認する方法や内容は極めて不十分である。自殺したあとも事実関係を可能な限り明らかにしようとする姿勢を欠いていたと評価せざるをえない」と厳しく指摘しています。
【事実確認】。
担任は自殺した生徒からいじめの相談を受けた翌日、複数の男子生徒を一度に集めて話を聞いていたということです。
第三者委員会はこうした方法について問題だと指摘して「友人の面前で真実や本音を話しにくく、誰が主導的な役割を担ったかどうかなどの点は、友人関係を意識して話すのをためらうことも十分に考えられる。個別に呼び出して聴く方法をとるべきだった」としています。
また、いつ、どこで何をしたのかという具体的な事実を十分に聴き取れなかったとしています。
報告書では「複数の人がいじめに関わっている場合、具体的に誰がどのような関わり方をしたのかについて、力関係などを意識しながら聴取すべきだ。事実を確認する方法や内容は極めて不十分である」と指摘しています。
【認知せず】。
生徒のいじめについての情報は学校の「いじめ防止対策委員会」で共有されましたが、いじめとして認知されませんでした。
これについて報告書では「認知されていれば組織的な対応につながることから、クラス内での苦しみについてより寄り添った対応をすることが期待できた」と指摘しています。
【発覚後の対応】。
担任は、2019年10月に保護者と面談し、この際、「嫌われているように感じる」などという生徒の悩みを聞いていたことからいじめが継続している可能性を把握していたとしています。
しかし、生徒から事実を確認しなかったということで、報告書では「十分な聴き取りを行って調査すべきだった。いじめの継続が原因で登校しにくくなっているならば直ちに状況の改善に努め、再び登校できる環境を整える必要があった」と指摘しています。

生徒が自殺したあとに学校側が行った基本調査をめぐって、自殺の事実を伝えて聴取をするかを遺族に打診しなかったことなどを問題だと指摘しています。
学校は自殺からまもない時期に、ほかの生徒に自殺したことを伝えないと決め、その後、教育委員会から派遣されたアドバイザーから伝えるべきだと助言されていました。
しかし、学校は、方法を再検討したり、遺族の意向を再度確認したりする手続きをとりませんでした。
報告書では「事実を伝えて聴取をするかを遺族の意向を踏まえて検討する必要がある。事実を伝えない中での聴き取りには制約が伴い、背景事実に関する情報を十分に収集できない可能性があることを事前に説明することは遺族に選択の機会を与えるためにも必要だ」としています。