世田谷区 保育施設で乳児死亡 業務上過失致死疑い視野に捜査

世田谷区 保育施設で乳児死亡 業務上過失致死疑い視野に捜査

去年12月、東京・世田谷区にある認可外の保育施設で生後4か月の乳児が死亡し、警視庁は死因の特定を進めるとともに、施設側の安全管理について業務上過失致死の疑いを視野に捜査しています。

去年12月13日、世田谷区にある認可外の保育施設に預けられていた生後4か月の真渚己ちゃんが病院に搬送されたあと死亡が確認されました。
世田谷区や施設の園長によりますと、当時、施設には保育士の資格がある園長と、資格のない臨時職員2人のあわせて3人が勤務していて、午後1時20分ごろに授乳したあと、布団に寝かせましたが、寝つかなかったということです。
午後2時50分ごろに園長が送迎のために外出し、臨時職員の1人が泣いていた真渚己ちゃんをだっこしてあやしていましたが、ほかの園児が泣き出したためうつぶせの状態で寝かせたとしています。
そして、午後3時15分ごろに園長が戻ると、真渚己ちゃんの意識がないことに気づいたということです。
世田谷区は現時点で原因は特定できていないとしたうえで、立ち入り検査では、授乳後にゲップをさせるなどの処置が十分に行われていないことや、うつぶせで寝かせることがあり、窒息や乳幼児突然死症候群への配慮が不十分で、睡眠中の子どもの顔色や呼吸の状態をきめ細かく観察していなかったことが確認されたということです。
警視庁は死因の特定を進めるとともに、施設側の安全管理について、業務上過失致死の疑いを視野に捜査しています。
真渚己ちゃんが死亡したことを受けて、子ども家庭庁は今月、都道府県や自治体に対し、医学的な理由で医師からうつぶせで寝るのをすすめられている場合以外は、乳児の顔が見えるようあおむけに寝かせるなど、所管する保育施設などで睡眠中の安全対策を徹底するよう通知しています。

生後4か月で亡くなった真渚己ちゃん。
両親によりますと、すくすくと育ち、元気な男の子でしたが、少しでも離れると泣いてしまう甘えん坊だったということです。
両親は「真渚己はまさに男の子という感じで、元気で体も大きいのに泣くときはかよわい声で、ギャップがあってかわいかったです。すごく甘えん坊だったので、いつも一緒にいて、できることが毎日どんどん増えていき、見せる表情も変わっていくので本当に見ていて幸せで、明るい希望でした」と話していました。
両親は共働きで、復職する際に真渚己ちゃんを預けようと10か所ほどの認可保育園に申し込みましたが落ちてしまい、1枠だけ空きがあった世田谷区の認可外保育施設に預けることになったということです。
母親が事前に施設を訪れると、うつぶせ寝をしている子どもを見たため、園長には「真渚己は寝返りができないので常にあおむけで寝させてほしい」と強く要望したということです。
両親は「まだ寝返りができないので、1歳になるまでは常にあおむけでお願いしますと言って、要望書にも書きました。今思えばベビーシッターなどのほかの手段もあったと思うので真渚己には申し訳ない気持ちでいっぱいで後悔しています」と話していました。
そのうえで、「人生を返してあげたいと思っていますが、それがかなわないのがすごく悲しいです。真渚己の命をむだにせず、親が安心できるような適切な保育が行えるように社会全体でしっかり取り組んで保育の質を上げることにつなげてほしい」と訴えました。

真渚己ちゃんが預けられていた世田谷区にある認可外保育施設の園長が、再発防止につなげたいとNHKの取材に応じました。
園長によりますと、当時この施設では0歳から2歳までの合わせて9人の子どもを預かっていて、異変が起きた時間帯は園長は送迎で外出していたため、臨時職員の男性を含む職員2人で対応していました。
園長は真渚己ちゃんをうつぶせで寝かせないように伝えていましたが、当日、男性職員は泣いていた真渚己ちゃんをだっこしてあやしたあと、ほかの園児が泣き出したためうつぶせの状態で寝かせてしまったということです。
一方、国は保育施設での睡眠中の事故を防止するためのガイドラインで、定期的に子どもの呼吸や体位、睡眠の状態を点検するよう求めていますが、この施設では園長が不在のときや複数の子どもの対応に追われていたときなどは、徹底できていなかったと明らかにしました。
野崎悦生園長は「チェック表をつけていましたが、忙しいときはつけていませんでした。点検も5分おきには、できてなかった」と話しました。
また、園長は都が主催する保育事故の防止などに関する研修会などに参加して、うつぶせで寝かせないことやガイドラインについても学んでいましたが、人手不足などの理由でほかの職員は参加しておらず、研修の内容も十分に共有できていなかったとしています。
野崎園長は「職員3人で10人の子どもを預かるというのは大変ですが、これまでも何とかできていたので、当日も何とかこなせると思っていました。職員に対する研修をしっかりできていなかった自分の責任だと感じています」と話しました。

今月、札幌市などで保育所を運営している法人が開いた研修です。
オンラインも活用し、保育士などおよそ350人が参加しました。
講師を務めた保育現場の安全対策に詳しい駒沢女子短期大学の猪熊弘子教授は、子どもを寝かせるときには、寝かしつけの段階からあおむけで寝かせる、顔色や表情が見えるよう明るい部屋で寝かせる、0歳から1歳の子どもは、5分に1回体を触って呼吸を確認する、ぬいぐるみやタオルなど、顔をふさぐ可能性のある物を顔の近くに置かないという4つのポイントを説明しました。
また、重大な事故を防ぐためには、保育士どうしが声をかけあい、窒息のリスクがないかとか、ふだんと変わった状況がないかなどを確認し合うことが大切だと話しました。
猪熊教授は、保育施設の職員全員が研修を受けることが重要だとして「特に小さい園だったり、認可外の施設だと、保育が回らないから、研修に職員を出すのはとても大変だと思います。ただ、今はオンラインもあるし、子どもを預かるすべての現場で研修を確実に受けられる制度を作っていく必要がある」と指摘しました。
さらに、「認可外の施設まで十分に監査できていないと考えていて、そこには、民間の力を借りる方法もある。私は巡回相談という形で退職した保育士などと認可外を含めて施設を訪れてアドバイスをしています。監査に近い、そうした取り組みも必要になるのではないか」と話しました。
また、子どもの見守りのためにICTの機器を活用することについては、「お昼寝の時間中も最低限の配置基準の人数が必要ですし、その人数がいてさらにプラスアルファの見守りの目として、そうした機械を使うことで安心材料にするのが一番いいと思う」と話しました。

東京・板橋区にある認可保育園です。
この園ではおととしから、0歳から1歳の子どものクラスでお昼寝の時間にセンサーのついた装置を導入しています。
子どもが寝ると、保育士が服にセンサーを取り付けます。
センサーが子どもの体位や呼吸の状態を感知し、うつぶせの状態が続いたり、呼吸が止まったりするとアラームが鳴る仕組みです。
この保育園では、保育士が5分に1回子どもの状況を確認していますが、5分おきにデータが自動で送られてくるためチェック表に入力する手間が省け保育士の負担軽減につながったといいます。
保育園を運営しているソラストこども事業本部の家城悦子本部長は「現場の保育士だけに責任を負わせるのではなく、運営会社としても機器を導入することで子どもの安全を可視化し、保育士の負担を軽くするとともに、保護者の安心にもつなげたい」と話していました。