第170回芥川賞に埼玉県出身 九段理江さん「東京都同情塔」

第170回芥川賞と直木賞の選考会が17日東京で開かれ、芥川賞に「東京都同情塔」が、また、直木賞には、河崎秋子さんの「ともぐい」と、万城目学さんの「八月の御所グラウンド」のが選ばれました。

【芥川賞】
芥川賞の受賞が決まった九段理江さんは埼玉県出身の33歳。
大学卒業後、研究室の助手などを務め、2021年、「悪い音楽」で文芸誌の新人賞を受賞し、小説家としてデビューしました。
芥川賞はおととし166回の「Schoolgirl」に続き2回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「東京都同情塔」は、「犯罪者は同情されるべき人々」という考え方から、犯罪者が快適に暮らすための収容施設となる高層タワーが、新宿の公園に建てられるという未来の日本が舞台です。
タワーをデザインした建築家の女性が、過度に寛容を求める社会や生成AIが浸透した社会の言葉のあり方に違和感を覚え、悩みながらも力強く生きていく姿が描かれています。
【直木賞】。
直木賞には2人の作品が選ばれました。
河崎秋子さんは北海道出身の44歳。
大学を卒業後、酪農を営む実家で働きながら執筆活動を始め、三浦綾子文学賞を受賞したデビュー作の「颶風の王」など複数の作品で文学賞を受賞しています。
2019年からは作家としての活動に専念し、直木賞は、おととしの「絞め殺しの樹」以来、2回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「ともぐい」は、日露戦争の足音が聞こえる明治時代後期の北海道東部を舞台に、人里離れた山の中でひとり野生の動物を撃って暮らす猟師の物語です。
どう猛なクマと、執念深く追い続ける猟師との命を奪うか奪われるかの激しいせめぎ合いが臨場感あふれる描写で表現されているほか、時代が移り変わる中、人間的な暮らしと獣たちの生きざまの間で揺れ動く猟師の生涯が骨太に描かれています。
また、万城目学さんは大阪市出身の47歳。
京都大学を卒業後、化学繊維メーカーに勤めながら小説を書き始め、2006年に京都の大学生を主人公にした「鴨川ホルモー」でデビューしました。
その後、テレビドラマにもなった「鹿男あをによし」や映画化された「プリンセス・トヨトミ」などの作品で人気を集め、直木賞は、6回目の候補で受賞となりました。
受賞作の「八月の御所グラウンド」は、京都を舞台にしたスポーツにまつわる2つの物語です。
冬の都大路を駆け抜ける全国高校駅伝で先輩に代わって急きょ出場することになった方向音痴の女子高校生が、走っている最中に遭遇した不思議なできごとを描いた「十二月の都大路上下ル」と8月に京都で人知れず開かれている草野球の大会に出場することになった男子大学生とある人物との出会いを描いた表題作の2編で、どちらも京都で起こる不思議な出会いと青春の物語をやさしい筆致で描いています。