作者に無断で黒い姿に ネコのオブジェが復活 渋谷で再披露

おととし、作者に無断で黒い姿に変更されたネコのオブジェが制作した現代美術作家の手で元の赤と白を基調としたデザインに戻り、東京・渋谷で再びお披露目されました。

オブジェは4年前、現代美術作家の吉田朗さんが招き猫をモチーフにして制作し、東京・渋谷の複合施設に展示されました。
赤と白が基調となり、背中には「渋谷」の文字がデザインされていましたが、おととしの夏ごろ施設側によって無断で黒を基調としたデザインに変えられてしまいました。
吉田さんは著作権の侵害にあたるとしてオブジェを所有していた企業に抗議し、企業は謝罪しました。
オブジェは去年4月から、神奈川県相模原市にある吉田さんのアトリエで黒くラッピングされたテープをはがすなどの修復作業が行われ、3日、「渋谷ヒカリエ」のギャラリーでお披露目されました。
集まった人たちは作品をじっくりみたり、写真に撮ったりしていました。
都内から訪れた30代の女性は「元の姿に戻ってよかったと思う。かわいくて感動しました」と話していました。
展示は今月9日までですが、吉田さんは長く渋谷の地に設置したいと考えていて、理解してくれる企業や団体などが見つかれば寄贈したいと考えています。
吉田さんは「改変されて大変な目にあったが復活の象徴という御利益のついた作品になったのでぜひ見に来てほしいし、著作権やアートについて知ってもらう事例になればいいと思う」と話していました。

このオブジェは、大手不動産会社の三井不動産が現代美術作家の吉田朗さんに制作を依頼しました。
渋谷のシンボル・ハチ公像のように広く愛される存在になってほしいという思いからネコの姿にすることにし、外国人観光客を意識して日本らしさをイメージした赤と白を基調にしています。
4年前の2020年に渋谷区内の複合施設のレストランに設置され、当時撮影された写真にはオブジェの隣で笑顔を見せる吉田さんの姿が写っています。
しかし、設置から2年たったおととし夏ごろ、施設側がレストランの内装を変更した際、吉田さんに無断で黒い姿に改変してしまいました。
吉田さんはSNSを通じてまったく違う姿になったことを知ってがく然とし、「作者に無断で姿を変えるのは著作権の侵害にあたる」と施設側に抗議しました。
著作権ではアートを購入したとしても、著作者の意に反して内容を変えたり、デザインを変えたりできないという考え方があります。
オブジェを所有していた三井不動産は、NHKの取材に対して「店舗の運営事業者から、アートを含めた店舗全体の内装変更の依頼を受けた際に、著作権に関する確認が不十分でした。アーティストへの配慮を欠く対応を行ったことを深くお詫び申し上げます」とコメントしています。

改変されたオブジェは去年4月、相模原市内のアトリエに戻り、吉田さんは予定していた個展や仕事の依頼を断って1人で修復を進めました。
その当時、吉田さんは本来の赤と白の色味とラッピングの黒がまだらのようになったオブジェを前に「なぜこんな改変をするのかショックです。思いやコンセプトを含めて全く違うものにされて大きく踏みにじられました。美術作品に対する最低限の理解と敬意があればここまでの事態にはならなかったはずです。元の姿に戻したいがどのくらい時間がかかるかわかりません」と話していました。
7か月かかった修復作業のなかで大変だったと感じたのは、オブジェの表面についた傷の修復作業でした。
ラッピングをはがす作業だけで5か月もかかりましたが、はがしてみると、カッターの傷が複数見つかりました。
黒いラッピングをカッターで切り、オブジェの曲線に沿って貼る時についたとみられるということです。
吉田さんは、傷を修復するため、表面を磨いてなめらかにしたり、赤と白の下地を塗り直したあと、つや出しするための塗装を全体にほどこしたりしました。
「なぜこんな事態になったのだろう。元に戻せるだろうか」と弱気になることもありましたが、SNSの応援の声が励みになったといいます。
渋谷の地でのお披露目を10日後に控えた去年のクリスマス・イブ、吉田さんはアトリエでつややかに光るオブジェを丁寧に磨き「修復は苦しい作業だったが、『きょうはここまで直った』とインターネットに掲載すると多くの応援のことばが届き、大きな励みになった。応援がなければ精神的にもたなかったと思う」と振り返っていました。