東電 柏崎刈羽原発“運転禁止命令”解除 原子力規制委員会

テロ対策上の問題が相次ぎ、おととし事実上運転を禁止する命令が出されていた新潟県にある東京電力・柏崎刈羽原子力発電所について、原子力規制委員会は27日、自律的な改善が見込める状態であることが確認できたとして、命令を解除しました。
福島第一原発の事故を起こした東京電力が持つ原発で再稼働に向けた手続きが再開されることになり、今後は地元の同意が焦点となります。

柏崎刈羽原発ではおととし、他人のIDカードを使った中央制御室への不正入室や、外部からの侵入を検知する複数の設備の故障といったテロ対策上の重大な問題が相次いで見つかり、原子力規制委員会は東京電力に対し、事実上運転を禁止する命令を出しました。
一般の原発を運営する電力会社に、運転を禁止する命令が出されたのは初めてでした。
その後、事務局の原子力規制庁が東京電力による再発防止の取り組みなどを検査してきた結果、今月提出された報告書案では、「自律的に改善できる仕組みが定着しつつある」と評価され、これを受けて規制委員会は、現地調査や東京電力の社長との面談を行い改善状況を確認してきました。
27日開かれた会合で、規制委員会は報告書案を了承し、自律的な改善が見込める状態であることが確認できたとして、命令を解除することを全会一致で決めました。
このあと、規制庁の担当者が東京電力の幹部を呼んで決定を通知し、命令は正式に解除されました。
命令の解除は2年8か月ぶりで、これにより福島第一原発の事故を起こした東京電力が持つ原発で、再稼働に向けた手続きが再開されることになります。
今後は地元の同意が焦点となりますが、新潟県の花角英世知事は県民の意思を確認するとして、知事選挙を行うことも選択肢の一つだという認識を示していて、最終的な判断が注目されます。

原子力規制委員会の決定に先立って行われた会見で新潟県の花角知事は「柏崎刈羽原発について何らかの判断をするのであれば県にも聞かせてもらいたい。また県の技術委員会でも安全性の確認を進めていきたい」と述べました。
柏崎刈羽原発の再稼働をめぐって花角知事はこれまで、県民の間で議論を進めたうえで自身の判断を示し、最終的に県民の意思を確認するため「信を問う」としています。
花角知事は、判断を示す時期は決めていないとしたうえで「『信を問う』とは自身の存在をかける意味合いが強いと思う。いま決めているものはないが、方法としては選挙ももちろんある」と述べ、知事選挙も選択肢の一つとして県民の意思を確認する考えを改めて強調しました。

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の運転を事実上禁止する命令が解除されたことについて新潟県の花角知事は「東京電力の社長から『解除されました』と連絡があり『分かりました』とだけ答えた」と述べました。
また、花角知事は原子力規制委員会について、「これまで厳格な対応を求め、数字で言えば何千時間も検査したと思う。県民が東京電力の信頼性に非常に不安を持っているなか、命令を解除しても大丈夫だと判断した理由を分かりやすく説明してもらいたい」と話していました。

原子力規制委員会の決定を受けて取材に応じた新潟県柏崎市の桜井市長は東京電力の小早川社長から電話で報告があったとしたうえで「私からは『基本的に歓迎すべきことだ。運転を事実上禁止する命令が出てからのおよそ3年間、無駄な年月を過ごしてしまった重みをもう一度認識してもらいたい』と伝えた」と述べました。
また、再稼働をめぐる地元の同意について「再稼働の要請があった場合には市民や議会と意見交換したり、県が取りまとめた『3つの検証』をめぐる議論の様子を見たりしながら判断したい」と述べるとともに知事や県議会に対してできる限り速やかに判断するよう求めました。
桜井市長は「東京電力には、市民が原発は本当に大丈夫か不安を感じていることを忘れないでほしい。ミスが起きたらすぐに対応し、詳細を明らかにしてほしい」と述べました。

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を巡り、新潟県内ではさまざまな意見が聞かれました。
原発が立地する柏崎市に住む70代の女性は「去年12月のような記録的な大雪が降った時に原発事故が起きると、逃げることができないのではないかと不安を感じます。東京電力についてもこれまでトラブルが相次ぎ、今回のテロ対策の問題でも現場が本当に改善できたのか疑問も感じます」と話していました。
同じく柏崎市に住む80代の男性は「原発が再稼働すれば落ち込んでいる地域経済も活性化するし、電気代も安くなる可能性があるので、企業にとってよいのではないかと思います」と話していました。
一方、新潟市に住む50代の女性は「原発は、それがある地域にとってはプラスになっている部分もあるし、そこで働いている人もいるのでなかなか難しいです。一つの県と言っても、新潟市と、原発が立地する柏崎市では温度差があると思います」と話していました。

東京電力柏崎刈羽原子力発電所が立地する柏崎市では原発事故への不安と、再稼働による地域の活性化への期待感という複雑な心境を抱いている人もいます。
柏崎市で飲食店を営む渡部徹さん(88)は、70年余りを柏崎市で暮らし、柏崎刈羽原発と地域の関わりを長年にわたり見つめてきました。
柏崎刈羽原発1号機の建設が始まった1978年ごろには地元で母親が経営する飲食店を手伝いながら、すし店を経営していたといいます。
渡部さんは当時について、「原発が稼働することで人が集まりうれしかった。今は街を歩いても誰もいないが当時は半端じゃないくらいたくさんの人がいた」と振り返りました。
しかし、2011年の福島第一原発の事故を受け、原発が近くにあることに不安を感じるようになったといいます。
渡部さんは「事故が起きた場合、大変なことになる。100%大丈夫ということはなく、原発には根本的には反対だ」と話していました。
その一方で、「柏崎市は原発が停止して活気がなくなっている。すでに存在するものなので、再稼働は柏崎市にとってはよいことなのではないだろうか」と話し、原発の再稼働による地域の活性化への期待感も残っているとして、複雑な心境だと語っていました。

新潟県柏崎市と刈羽村にある東京電力の柏崎刈羽原子力発電所は、1号機から7号機まで7つの原子炉があり、出力はあわせて821万キロワット余りと、世界最大級の原子力発電所です。
7基はいずれも原子炉で水を沸騰させてできた水蒸気で発電用のタービンを回す「沸騰水型」と呼ばれる原発で、事故を起こした福島第一原発と同じタイプです。
最も古い1号機は1985年、最も新しい7号機は1997年に運転を開始していて、主に首都圏に電力を供給してきました。
ところが、2007年に起きた新潟県中越沖地震により、3号機で変圧器の火災が発生したほか、6号機の使用済み燃料プールがあふれ、微量の放射性物質を含む水が海に漏れ出すなどのトラブルが発生。
さらに、機械が壊れたり、施設にひびが入ったりするなど被害は軽微なものも含めて3700件余りにのぼり、7基全てが長期間の運転停止を余儀なくされました。
その後、東京電力はおよそ1000億円をかけて耐震化などの工事を進め、2009年以降、4基が順次、運転を再開しました。
しかし、2011年3月に発生した福島第一原発の事故のあとは、新たに作られた規制基準への対応が求められ、2012年3月にはふたたび全基が運転を停止しました。
東京電力は、2013年9月に、6号機と7号機について再稼働の前提となる審査を原子力規制委員会に申請。
4年におよぶ審査を経て2017年10月に合格すると、安全対策工事を進めるなど再稼働に向けた準備を進めていきました。
しかしおととし、本来入室が厳重に管理されている中央制御室に社員が他人のIDカードを使って不正に入っていたことが発覚しました。
さらに、テロリストなどの侵入を検知する複数の設備が壊れたままになっていて、その後の対策も十分に機能していなかったことも明らかになり、規制委員会はおととし4月、東京電力に対し、法律に基づき核燃料の移動を禁止する行政処分を出し、事実上原発の運転を禁止しました。
こうした処分が一般の原発を運営する電力会社に出されたのは初めてでした。

現在、国内には33基の原子力発電所があり、このうち、原発事故のあと作られた新しい規制基準の審査に合格し再稼働したのは12基です。
内訳は、鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機と2号機、佐賀県にある同じく九州電力の玄海原発3号機と4号機、愛媛県にある四国電力の伊方原発3号機、それに、いずれも福井県にある関西電力の高浜原発1号機から4号機、大飯原発3号機と4号機、それに、美浜原発3号機です。
これら再稼働した原発は、いずれも西日本にあり、「加圧水型」と呼ばれるタイプです。
一方、12年前に事故を起こした東京電力・福島第一原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれるタイプでは、再稼働した原発はありません。
ただ、これまでに5基が新規制基準の審査に合格していて、このうち、宮城県にある東北電力の女川原発2号機は来年5月ごろに、島根県にある中国電力の島根原発2号機は来年8月にそれぞれ再稼働する計画です。
一方、茨城県にある、日本原子力発電の東海第二原発は、安全対策工事に加え、周辺自治体の避難計画の策定が終わっていないことなどから再稼働の時期は見通せていません。
また、今回、事実上の運転禁止命令が解除された柏崎刈羽原発6号機と7号機は、地元の同意が得られていないことなどから、現時点で再稼働の見通しは立っていません。