千葉県の「多様性尊重条例」 県議会で可決・成立

障害の有無や性的指向など、多様性を尊重する社会づくりを目指す千葉県の新たな条例が、19日の県議会で可決・成立しました。
千葉県は、全国の都道府県で唯一、男女共同参画に関する条例がありませんでしたが、今回、およそ20年越しに理念が盛り込まれました。

この条例は、性別や国籍、障害の有無、それに、性的指向や性自認など一人ひとりの多様性が尊重され、誰もが活躍できる社会づくりの推進を目的とするもので、19日千葉県議会で賛成多数で可決・成立しました。
条例では、「人々が様々な違いを尊重しながら関わり合い、影響を及ぼし合うことが、社会の活力や創造性の向上に効果を発揮する」などと基本理念が示され、県が施策を実行する責務を負うことや、県民や事業者の役割が規定されていますが、パートナーシップ制度や選択的夫婦別姓といった具体的な制度は盛り込まれていません。
また、千葉県では、男女共同参画の理念を盛り込んだ条例案がおよそ20年前に廃案になり、全国の都道府県で唯一、条例がありませんでしたが、今回、基本理念の一部に「男女のいずれもが性別を理由とする不利益を受けることなく共に活躍する社会」などと要素が盛り込まれました。
多様性を尊重する条例の制定を公約に掲げていた熊谷知事は「多様性を尊重する理念を多くの議員の方々と共有し、スタートに立つことができた重要な節目だ。条例の意義を広く周知し、具体的な政策を実施していく」と述べました。
自民党はほとんどの議員が採決で賛成したものの、18日、熊谷知事に対し、国民の意見がまとまっていない内容について慎重な対応を求める申し入れを行いました。
自民党千葉県連の阿部紘一幹事長は「生きづらさを感じている人たちがいることは事実で、理解促進などの必要性は感じているが、日本の歴史や伝統文化が軽視されるという懸念がある。そうした不安や懸念が現実のものとならないよう、対応してもらう必要がある」と述べました。

千葉県では21年前の平成14年、女性の中絶に関する自己決定権などを盛り込んだ男女共同参画の条例案が県議会に提出されましたが、結果的に廃案となった過去があります。
当時は、平成11年に男女共同参画社会基本法が国会で成立したことに伴って、全国の都道府県でも地域の実情に沿った条例が制定されていきました。
国会議員として法律の制定にも関わった元県知事の堂本暁子さんは、全国で3人目の女性知事として、女性がみずから出産や中絶を決定する権利など当時では先進的な考え方を盛り込んだ条例案の成立を目指しました。
しかし、当時の県議会では、成立を後押しする女性議員は定数98のうち9人しかおらず、全員が男性で過半数を占める自民党に、「性の乱れにつながるおそれがある」などと反対され、成立が見送られたということです。
堂本さんは「条例を成立させられなかったことは非常に残念だった。条例がなかったことで男女共同参画の施策が全く進まなかったわけではないが、条例という後ろ盾があれば、その後の県政運営でもっと正々堂々と主張できたと思う」と振り返りました。
現在の千葉県議会でも、定数95のうち女性議員は14人にとどまっています。
堂本さんは今回、およそ20年越しに男女共同参画の理念が盛り込まれたことは評価する一方で、今後、1人1人の行動が重要だと考えています。
堂本さんは「条例が文言として存在するだけでは意味がなく、県民それぞれが自分の問題として条例に書かれていることを守っていかなければならない。ようやくスタートラインに立ったところで、誰もが生きやすい社会づくりができるかどうかは私たちの責務になる」と話していました。

今回成立した千葉県の条例について、性的マイノリティーの当事者や、多様性の尊重を実践している事業者はどのように受け止めているのか。
船橋市で障害者の就労支援などを行っている事業所では、LGBTQなど性的マイノリティーのスタッフが3人働いています。
事業所を運営する法人の西島希美さんは、多様な背景があるスタッフの存在によって、利用者に対する細かい気配りや、「男性だから」「女性だから」といった固定観念にとらわれないサービスの提供が実現できていると感じています。
西島さんは「事業所として理念を掲げていなくても、多様性を受け入れる環境があれば、働き先として選んでもらえている。今回の条例がいいか悪いか答えを出すことは難しい」と話していました。
レズビアンだという事業所の30代のスタッフは、前の職場で、性的指向が異なる人が気持ち悪いという意見に同調を求められた経験があり、半年ほど前に転職してきました。
いま必要なのは、パートナーシップ制度など具体的な施策だと考えていますが、多様性を尊重する理念を掲げた今回の条例によって、社会で少しでも理解が広がることを期待しています。
このスタッフは「多様性について局所的に意識している人はいるが、全く意識していないか意識する必要性を感じていない人が多いと思う。条例があるだけで、全くないよりは少しは気持ちが楽になると思う」と話していました。