24時間の介護サービス求めた裁判 訴え認める判決 千葉地裁

重い障害がある人に自治体が提供する「重度訪問介護」をめぐり、難病で寝たきりの千葉県松戸市の男性が一日あたり24時間の介護サービスを求めた裁判で、千葉地方裁判所は「基本的に24時間に相当する介護支給が認められるべきだ」として別の医療サービスなどを受けている時間を除く、22時間余りの利用を認めるよう市に命じました。

難病のALS=筋萎縮性側索硬化症で寝たきりの松戸市に住む男性(62)は、たんの吸引や人工呼吸器の装着などが必要で、費用のほとんどが公費で賄われる「重度訪問介護」のサービスを受けていますが、去年3月に市が決めた一日あたり18時間余りの利用では不十分だとして、24時間の介護サービスが受けられるよう求めていました。
31日の判決で、千葉地方裁判所の岡山忠広裁判長は「男性の病状は深刻であり、介護がなければ生命を維持するのが困難な状態である。介護を担う妻は子どもの育児や家事、仕事を担い負担が集中していて疲れでたんの吸引などができないおそれがある」と指摘しました。
そのうえで「市は妻の心身の状況などを十分に考慮すべきで、基本的に一日24時間に相当する介護支給が認められるべきだ」として、別の医療サービスでたんの吸引などを行っている時間を除く一日22時間余りの利用を認めるよう市に命じる判決を言い渡しました。

「重度訪問介護」は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つです。
重度の障害で常に介護を必要とする人に入浴や食事などの介護をするヘルパーを派遣し、その費用のほとんどが公費で賄われます。
「重度訪問介護」を月に何時間まで利用できるかは市町村が本人や家族、それに医師から話を聞くなどして決めますが、判断基準はそれぞれの自治体が作成していてばらつきがあるのが実情です。

原告の松戸市に住む男性(62)は、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、ALSの患者です。
6年前から疲れやすくなったり手足が震えたりするようになり、よくとし56歳のときにALSと診断されました。
徐々に筋肉が衰えておととしから寝たきりになり、去年からは人工呼吸器を常に装着しているうえ、たんの吸引などのため24時間の介護が必要です。
男性はNHKの取材に対し、「長男が生まれる予定の2か月前に診断を受け、地獄に突き落とされたような気持ちでした。きょうできたことがあすできなくなる恐怖と毎日向き合っています」と話しています。
男性は妻と5歳の息子の3人暮らしで、妻が男性の介護や育児に加えてアルバイトで家計を支えることで生活を続けてきましたが、疲労やストレスから体調を崩しているということです。
男性は「妻は精神的にピリピリした状態で、休ませることが何よりも大事だと思っています。行政には病気が判明した時点で必要な施策がとられるようにしてほしい」と話していました。

判決を受けて原告側の藤岡毅弁護士は「重い障害がある人が家族と同居している場合、一日3時間程度は家族が介護すべきだとして、『重度訪問介護』の時間を差し引くことが全国の多くの自治体でなされている。今回裁判所が男性の病状や家族の状況から基本的に訪問介護が一日24時間相当必要だと判断したことは、日本の社会保障のあり方に影響するほど大きなインパクトがある」と指摘しました。
そのうえで、「当事者や家族がつらい思いをしているケースは多く、この判決で解決の方向に向かってほしい」と述べました。

松戸市は男性の「重度訪問介護」について去年3月、一日18時間半程度の利用を決めその後、男性からの24時間分の利用を求める申請については却下していました。
ことし5月、判決を前に千葉地方裁判所は「妻が単独で介護する時間帯を解消する緊急の必要性がある」などとして、一日21時間半程度に増やす内容の仮の決定を出したことから、市はことし7月に重度訪問介護が利用できる時間を一日22時間半程度に増やしています。
31日の判決について松戸市福祉長寿部の松本篤人部長は「まずは判決内容を精査し、今後も適切に対応していきたい」とコメントしています。

重度訪問介護など、障害者支援に関する法制度に詳しい名城大学の植木淳教授は「これまで自治体は介護支給の時間を決める際、家族での介護を前提としていた部分があるが、今回の判決で、それぞれの家庭の生活環境などをリアルに検討している点で画期的といえる」と指摘しました。
そのうえで「自治体は、家族に介護させるのが当たり前だと考えるのではなく状況をより詳しく検討したうえで、支給の時間を決めることが求められる」と話していました。