子ども放置禁止条例案 埼玉県議会自民党県議団が取り下げへ

小学3年生以下の子どもを自宅に残したしたまま保護者が外出することなど放置を禁止する虐待禁止条例の一部改正案を埼玉県議会に提出した自民党県議団は「県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がった」などとして改正案を取り下げることを明らかにしました。

埼玉県虐待禁止条例の一部改正案は県議会の最大会派自民党県議団が子どもが放置されることにより危険な状況に置かれることを防ごうと、先週県議会に提出しました。
改正案では小学3年生以下の子どもを家などに残したまま保護者などが外出することを禁止するとともに、4年生から6年生については禁止ではなく努力義務としています。
これについて、自民党県議団の田村琢実団長は10日午後、さいたま市内で記者会見し、改正案を取り下げることを明らかにしました。
その理由について田村団長は「私のことば足らずで県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がり、多くの県民、団体などからさまざまな意見をもらった。改正案は現状と乖離があるとは考えていないが、私の説明不足によって乖離を生んでしまい、理解を得られる状況ではないと判断した。県民に心からお詫びする」と述べました。
改正案をめぐって県議団はこれまでの県議会での説明などで子どもを家などに残したまま保護者などが外出するといった放置は、「虐待」にあたり子どもたちだけの自宅での留守番、子どもたちだけでの登下校も該当するとしてきました。
これに対して、子育て中の人からは子どもの安全のためには必要だという声もある一方、厳しすぎるなどと反対意見が相次ぎました。
埼玉県によりますと、10日午後2時までに1007件の意見が寄せられ、このうち改正案に反対意見が1005件、賛成意見が2件だということです。
また、さいたま市PTA協議会が行った改正案に反対するオンラインの署名活動には10日午後2時までに2万7000人以上の署名が集まったということです。

虐待禁止条例の一部改正案に反対するさいたま市PTA協議会は10日午後、JR浦和駅前でオンラインで行っている改正案に反対する署名への協力を呼びかけました。
反対の署名は10日午後2時までに2万7000人以上から集まったということです。
さいたま市PTA協議会の郡島典幸会長は「子育て支援を国を挙げてやっていこうというなかで親の負担を押しつけるだけの条例だ。今の生活実態からすれば、すでに虐待となってしまい、仕事を辞めれば収入がなくなって生活が成り立たなくなる」と話していました。

今回の条例の改正案について、3人の子どもを育てている母親は「子どもや保護者など現場の声を聞いたうえで決めてほしい」と話しています。
埼玉県越谷市の自宅でネイルサロンを経営している樋口静さん(37)は、高校生と中学生、それに小学2年生の3人の子どもの母親で、10日朝も朝食などを用意したあと、小学生の娘を集団登校の集合場所まで送り届けていました。
樋口さんは育児と仕事を両立するため予約人数を抑えるなどしていますが、小学生の娘が帰宅する時間は顧客への対応に追われたり、県外での研修に外出したりすることもあり、娘を家に1人にする時間があるということです。
また、小学生の娘1人で友達の家や公園などに遊びに行ったり、中学生の姉に面倒をみてもらったりすることもあるということです。
樋口さんは「子どもの置き去りが悲惨な結果につながってしまうのはいけないと思いますが、ゴミ捨てや買い物などで子どもを自宅に残すことが虐待だとされてしまうと生活できなくなります。子育てする保護者がますます働きづらくなり、『埼玉には住めない』という知人の声も耳に入りました。子どもや保護者など現場の声を聞いてほしいです」と話していました。
その後、条例の一部改正案が取り下げられることになったことについて、樋口さんは「ほっとしたというのが正直なところです。一方で、放置による虐待から子どもを守ろうという改正案の趣旨は伝わったので、今後は子どもや保護者などの声を聞き、行き過ぎと感じる部分を改めるなどしてもらいたい」と話していました。

条例の一部改正案が取り下げられることについて、埼玉県の大野知事は1000件を超える反対意見が寄せられていたとして「県民の声は極めて重い。撤回されることは歓迎したい」と述べました。
また、今回の改正案の提出にあたって自民党県議団からは虐待の現状について説明を求められただけだったとして、「条例案の提案までに県の執行部に意見を求められたことは一切なく、条例の改正案の内容についての説明もなかった」と、述べました。
そのうえで、「埼玉県では子育てできない」などの声が寄せられたことについて、大野知事は「子育てしやすい埼玉県を施策でも打ち出してきたと自負しているので、今後も子育てしやすい県だとアピールしていく機会を作りたい」と述べました。

埼玉弁護士会の会長で、子どもの権利を守る活動や子育てに悩む保護者の支援に携わってきた尾崎康弁護士は「子どもだけの登下校や短時間の留守番まで禁じて通報義務化してしまうのは、規制の対象があまりに広すぎてやりすぎだと言わざるを得ず、埼玉での子育てがやりづらくなることにつながってしまう。責任を親にすべて押しつけるような方向性は大いに疑問に思う」と指摘しました。
そのうえで、条例の一部改正案が取り下げられることになったことについて、「虐待防止のためとはいえ人の自由を制限するには慎重な検討が必要であって、今後、同じような議案を考えていくのであれば、丁寧な聞き取り調査や実態の把握、検証や議論が必要になるのではないか」と話していました。