都立高校入試 男女別定員撤廃 関係者の受け止め 影響は

全国の公立高校で唯一、全日制の普通科の入試で設けられている都立高校の男女別の定員について都の教育委員会は来年度の入試からすべて撤廃することを決めました。

全国の公立高校で唯一、全日制の普通科の入試で設けられていた都立高校の男女別の定員。
全国で唯一、この仕組みが残っていた背景について都の教育委員会は「東京ならではの事情がある」と説明しています。
都内では、現在、およそ30万人いる高校生の半数以上を私立高校が受け入れていますが、そのうち3割は、女子校です。
戦後、女子の教育の機会を保障しようと多くの女子校がつくられたことが主な理由です。
このため、私立高校の男子の枠は、女子より少ない状態になっていて都立高校の男女別定員がなくなり都立に入る女子が増えると、都立に入れなかった男子を私立が受け入れきれないおそれがあるとして、70年以上にわたって、この制度が残されてきました。
しかし、この制度では、仮に同じ点数をとっても、男子生徒が合格となる一方、女子生徒は不合格となるケースが相次ぎ、女子の合格最低点が男子より高くなっていて、「不平等だ」と指摘する声があがっていました。
これをうけ、都の教育委員会は、男女別定員の撤廃に向けた議論を平成26年から本格的にはじめました。
そしておととしからは、「一気に制度を変えると混乱が起きる可能性がある」として、段階的に男女合同の定員を導入していて、おととしの入試では都内すべての学校で定員の10%を男女合同の定員とし、前回の入試では、定員の20%に拡大していました。
都教育委員会で前回の入試をもとに男女合同の定員とした場合の結果を推計して合否を比較したところ、都立高校108校のうち92%にあたる99校で同じ結果になり、男女別定員を完全に撤廃した場合の影響は限定的だと分析しました。
一方で、残る9校では、もっとも差が大きい学校では、男女別定員の場合に比べて女子生徒の合格者は23人増えるとされ、男女の合格最低点の差も、51点となるところもあり、女子生徒が依然として不利な立場になっているケースがあることが分かりました。
これらの分析の結果、都教育委員会は「なるべく早く対応する必要がある」として、来年度の入試からすべて撤廃することを決めたということです。

都立高校の男女別の定員が来年度の入試から撤廃されることについて、高校受験の進学教室の担当者は、受験生への大きな影響はないとみています。
高校受験の進学教室で進路指導にあたっている冨田健介さんは都が来年度の入試から都立高校の男女別の定員をすべて撤廃すると決めたことについて、ジェンダー平等の観点からも歓迎すべきことだと受け止めています。
そのうえで、受験生への影響については、「都立高校ではこの間、段階的に男女合同の定員を導入するなどしてきましたが混乱はなく、基本的に大きな影響はないと考えています。保護者や生徒にも説明してきているので、戸惑いもなく、冷静に受け止めていると思います」と話していました。
進学教室では今後、過去のデータを参照しながら男女合同の定員の場合の合格ラインを計算して生徒や保護者に共有し、指導にあたりたいとしています。
河合塾Wings教育情報課長の冨田健介さんは「引き続き、それぞれの生徒が志望校合格に向けて努力を続けることが大切だと思うので、生徒や保護者に情報提供をしながらサポートしていきたい」と話していました。

都立高校の男女別定員が来年度の入試から撤廃されることについて、都内の私立中学校や高校で作る団体の会長は「いまの仕組みが時代に合っているのかを確認し生徒にとって何が一番最適かを考えるべきだ」と述べました。
東京都内にある私立中学校や高校の振興などに取り組む「東京私立中学高等学校協会」の近藤彰郎会長は、都の教育委員会が都立高校の男女別の定員について来年度の入試からすべて撤廃すると決めたことについて、「いまの仕組みが時代に合っているのか確認していく必要があります。公立高校、私立高校のどちらかが得するという判断ではなく、生徒にとって何が一番最適かを考えるべきで、ここ数年、入試の分析を続けてきた結果、さほど影響はないことがわかったので、合意に至りました」と述べました。
一方で、今後の懸念として私立高校の経営面を主に挙げ、「私立の女子校の経営にある程度影響するなど、今回の方針が私学にどう影響を与えるのか、東京都にも考えてほしいという姿勢は変わりません。不安なところはそれぞれの私立学校であると思いますが、何をしたらいいか考える努力とこの学校の教育を受けたいと望む子どもたちを満足させる努力が求められると思います」と話していました。

都立高校の男女別の定員が来年度の入試から撤廃されることについて、教育現場のジェンダーに詳しい専門家は「教育機会が均等ではなかった実態が是正されることは歓迎すべきだが、遅かったのではないか」と指摘しました。
教育現場のジェンダーについて研究してきた日本女性学習財団の村松泰子理事長は都立高校の全日制の普通科の入試では男女別の定員が設けられ、女子がより高い点数をとらないと合格しにくい傾向にあったことについて「これまでは教育機会が男女で均等ではなく、女性のほうが不利となる実態もあった。都内の教育マーケットは複雑で、私立高校とのバランスを考えての対応だったとも言えるが、経済的な事情で都立にしか進学できない生徒は女子にもいるので、定員で差別するのは不平等だったと思います」と話していました。
そのうえで、都が来年度の入試から都立高校の男女別の定員についてすべて撤廃すると決めたことについては、「対応が是正されることは歓迎しますが、遅かったのではないかという思いです。定員という枠組みそのものがようやく平等になるので、今後はさらに学校教育のなかで男女の役割といった無意識の男女差別がないか点検していくなど、中身の部分で変革していく努力が求められると思います」と指摘していました。