AIで発電所の運転効率化 ベンチャーと北電が新システム開発

燃料費の高騰や温室効果ガスの排出削減が課題となるなか、東京のベンチャー企業と北海道電力は、AIを使って道内の発電所の運転を効率化する新たなシステムを開発しました。火力発電所の燃料費を1か月あたり6億円削減できたということで、さらなる削減を目指すとしています。

新たなシステムを開発したのは、東京のAIベンチャー企業GRIDと北海道電力です。
天候などで刻々と変わる電力需要に効率的に対応するため、道内に82ある火力発電所と水力発電所のうちどの発電所でいつ、どれくらい発電するかの計画を、需要の予測に基づいてAIで作成するシステムを開発しました。
発電計画の作成は、発電所ごとに特徴が違うなど条件が複雑なため、これまでベテランの社員が行ってきましたが、AIを使うと、短時間で、より効率的な計画を導き出せるようになったということです。
ことし3月に始まった火力発電を対象とした運用では、これまで4時間かけて作成された計画が、1分ほどで作れるようになり、発電にかかる燃料を1か月あたり3%、金額にして6億円分削減できたということです。
GRIDの曽我部完社長は、「AIの技術が人間に追いついた結果、ソフトウェアだけで燃料の削減が実現できた意義は大きい」と話しています。
また、北海道電力需給運用部の伊藤万秀部長は、「AIを活用して、低廉で安定した電力の供給と脱炭素化の両立をはかりたい」と話しています。

【人手では限界 AIで解決へ】
AIを使った新たなシステムが開発された背景には、発電の肝とも言える「発電計画」の作成が、人の手では難しくなりつつあるという事情がありました。
生活に欠かせない電気を安定して供給するためには、常に需要に合わせて発電量を変える必要があり、北海道電力では、天候など需要に関する情報を元にどの発電所で、いつどれだけ発電するかの計画を策定しています。
計画は、道内に82ある火力発電所と水力発電所について30分単位で、できるだけ火力発電にかかる燃料の消費を抑えるよう組み合わせながら綿密に計算されています。
発電機ごとに異なる特性やダムの水位など、考慮すべき条件が複雑で、ベテランの経験とノウハウに頼るところが大きいことから、北電では、昭和17年から人の手で作成してきました。
しかし、近年、太陽光や風力といった天候で発電量の変わる再生可能エネルギーや、電力の市場での取引が拡大したことから、計算はさらに複雑化し、人手での作成は困難になっていました。
北海道電力需給運用部の伊藤万秀部長は、「この10年で計算は10倍ほど複雑化した印象で、さすがに人では手に負えなくなってきた」と話しています。
こうした中、北電から協力を求められた東京のベンチャー企業は、エンジニアが発電所で運転員に聞き取りを行うなどして、▽発電機の起動にかかる時間やコスト、▽故障しにくい運転方法など、ベテランが計画作成の際に考慮してきた条件を明らかにしてAIに組み込みました。
これまでの運用で、AIの立てた火力発電についての計画では、発電所を効率的に動かし、無駄な発電を抑えていたことが確認できたということで、来年には水力発電でも運用を開始して、さらなる効率化を目指したいとしています。
ベンチャー企業「GRID」の曽我部完社長は、「社会インフラのオペレーションの改善の余地はまだまだあると思う。AIで支援できる部分は支援し人間はさらなる発展のためのアイデアを出せる環境を作り出したい」と話していました。
また、北海道電力需給運用部の伊藤万秀部長は、「先人たちが脈々と築いてきた計画策定の改善が結実し、感慨深い」と話しています。