北斗 複数の障害者支援施設で虐待相次ぐ 同一法人が運営

北斗市にある社会福祉法人が運営する複数の障害者支援施設で、利用者への虐待が相次いでいたことが分かりました。

虐待が相次いでいたのは、北斗市の社会福祉法人「侑愛会」が運営する複数の障害者支援施設です。NHKは社会福祉法人を指導・監督する立場にある道に情報公開請求を行い、去年までの5年間に行政指導が行われた9件について詳しく調べました。
その結果、この法人が運営する施設30あまりのうち、3か所の施設で、利用者への暴力・ネグレクトなどの虐待や虐待の疑いが短期間にあわせて3件相次いだとして去年2月に行われた道の特別監査で「障害者への虐待を防止する取り組みが不十分だ」など指摘されていたことが分かりました。
しかし、この法人では特別監査の後も同じ支援施設を含む2か所で、職員が利用者に対し暴力やネグレクトなどの虐待を行ったとして去年7月と11月の2回、道から「勧告」を受けていました。
道の指導記録には、「管理者が職員の支援状況を十分把握していなかった」とか「職員どうしのコミュニケーション不足が見受けられた」などと虐待につながった背景が指摘されていました。その一方で、「人員不足で厳しい状況の中でも、内部研修の機会を確保していた」とも記され、多くの福祉施設と同様に人手不足に直面しながら対策に取り組もうとしていたことも指導記録からはうかがえます。
これについて、社会福祉法人「侑愛会」の祐川暢生副理事長は、NHKの取材に対し、陳謝した上で、「経験や知識が乏しくても難しい支援の現場に職員を配置しなくてはならないのが実情で大きな課題と感じています」と話しています。
また、障害者福祉に詳しい日本社会事業大学曽根直樹教授は「同じ法人でここまで虐待が頻発していることには驚いた.多くの施設を運営するためには職員が適切な対応ができるよう教育や育成を丁寧にやっていく必要がある。組織内のコミュニケーションがうまくいっていたのかどうかは検証する必要がある」と指摘しています。


【障害者支援施設の職員の約1割「虐待経験ある」】
道が去年、道内の障害者支援施設に勤める職員およそ2400人を対象に アンケートを行ったところ、およそ1割の職員が「虐待行為などを行ったことがある」と回答しました。
その内訳は、複数回答で、身体的虐待が58%、心理的虐待が54%、放置や放棄が50%などでした。
虐待をしたことがあると回答した職員のうち、きっかけや要因については、複数回答で、「ストレスや感情コントロールの問題」が最も多い6割近くに上ったほか、「危険な行為を制止するため」や「人員不足や配置先による多忙さ」という回答もそれぞれ半数あまりに上りました。
一方、虐待の防止のために有効だと考える対策については、複数回答で、「相談しやすい体制」という回答が最も多く、およそ7割に上りました。


【障害者福祉に詳しい専門家「社会全体の問題」】
北斗市の社会福祉法人が運営する複数の障害者支援施設で、利用者への虐待が相次いでいたことについて、障害者福祉に詳しい日本社会事業大学の曽根直樹 教授は「障害者福祉に熱心な事業者であると関係者の間でも知られる存在だったので、ここまで虐待が頻発していたことに驚いた」と話しています。
そして、この法人が多くの施設の運営などを行っていることについて触れ、「組織内のコミュニケーションがうまくいっていたかどうかは『虐待のリスク』とかなり密接な関係にある。
多くの施設などを運営するにあたっては、管理できる人材をまず育てていく必要があり、新しく入ってきた職員にもきちんと教育し、適切な支援ができるように育てていくといった組織体制の構築が重要になる」と指摘しています。
一方で、曽根教授は、虐待が繰り返される背景の1つとして、一定の技能や意欲のない人材を福祉の現場に配置せざるを得ない人手不足による実情があると指摘し、「各地では今、福祉を志す人たちが学ぶ専門学校が相次いで閉校するなど、福祉の人材を輩出するシステムそのものが壊れてきている。福祉の人材をどうすれば確保できるのかは、今、深刻な問題で、行政も『出来る手は打っていく』という姿勢で、法人や事業所と一緒になって汗をかいたり、知恵を出していくことが重要だ」と話しています。
その上で、虐待を繰り返さないための対策について、曽根教授は、「研修の場で、『何が虐待にあたるか』を説明したら虐待がなくなるといった甘い話ではないのは明らかだ。虐待防止の本質は職員たちが『利用者の方にいい支援をしたいと思えるかどうか』であり、そこがきれい事にはいかず、今、一番難しくなっている」とし、社会全体で向き合うべきだと強調しています。