日本手話で授業受けられず権利侵害 原告訴え退ける 札幌地裁

道立のろう学校に通う児童など2人が、日常的に使っている「日本手話」で授業が受けられず学習する権利を侵害されたなどとして道に賠償を求めた裁判で、札幌地方裁判所は「日本手話で授業ができる教員の確保には限界があり、ほかの手段も使って授業の水準を保つことには合理性がある」などとして、原告の訴えを退けました。

「北海道札幌聾学校」に通う小学5年生の男子児童と、去年卒業した中学2年生の女子生徒の2人は、日常的に「日本手話」で意思の疎通を図っていますが、おととしまでに「日本手話」ができる教諭が相次いで定年退職し、「日本語対応手話」を主に使う教諭に代わったため、授業についていけなくなり学校を休みがちになったと主張しています。
そのうえで「日本手話」で教育を受けられないことは、学習する権利の侵害で、アイデンティティーを否定する差別的な扱いだとして、道に対して合わせて1100万円の賠償を求めていました。
これに対し被告の道は「あらゆる手段で意思の疎通を試みており、恒常的に意思疎通ができていない事実はない」などとして、訴えを退けるよう求めていました。
24日の裁判で札幌地裁の守山修生裁判長は「日本手話は習得が難しく、ろう学校がひととおり日本手話で授業を提供できる教員の確保に苦労してきた経緯からすれば、限られた人材の中でほかのコミュニケーション手段も使って授業の水準を保つことには合理性がある」と指摘しました。
そのうえで「言語は個人にとって社会生活やアイデンティティーの基盤であり尊重すべきだが、特定の言語で授業を求めることまでが個人の人格の重要な要素であるとはいえず、差別的な扱いには当たらない」などとして原告の訴えを退ける判決を言い渡しました。

【原告「とても残念な結果」】
判決後の会見で、去年学校を卒業した中学2年生の原告の母親は、「娘は第1言語の『日本手話』で学びたいという思いがある中で、これまで満足に学べない苦しさや母語を奪われるつらさを感じてきました。今回の判決はとても残念な結果です」と言葉を詰まらせながら話しました。
父親も、「望んでいた判決とは全く異なりました。学校で日本手話を提供する環境ができるよう、娘だけでなく娘の後輩たちのためにも、今後も声を挙げていきたい」と話していました。
弁護士などによりますと、原告は、控訴を視野に今後の対応を検討するということです。

【道教委「主張認められた」】
道教育委員会の倉本博史教育長は「当方の主張が認められたと考えている。引き続き、日本手話を含む手話を適切に活用しながら、学習指導要領に基づく教育活動を進めていく」というコメントを発表しました。

【日本手話について双方の主張は】
原告側は、▼「日本手話」について手や指の動きにうなずきや顔の表情といった体の動作も付けることで高度な文法を表現することができ、聴覚障害のある人が子どものころから身につけられる第1言語だとしています。
一方、▼「日本語対応手話」は音声の日本語を手や指で表現しているため、日本語を習得したあとに聴力を失った人などが習得しやすいコミュニケーションの手段で第1言語にはならないとしています。
これに対し被告の道は、「日本手話」と「日本語対応手話」に区分する考え方は近年、否定されてきており、すべてが1つの手話だとしています。
その上で、道立のろう学校では一人一人のニーズに応じて手話を活用した指導に取り組んでいるとしています。