なぜこのタイミングで困難と報告?影響は?担当記者が解説

経済担当の波多野新吾記者が解説します。

【なぜこのタイミングで困難と報告】
札幌延伸の目標とする2030年度末まで6年余りあるこのタイミングで、建設主体の鉄道・運輸機構が困難だと伝えたのは、一部の工区で3年から4年程度の遅れが生じ工事のスケジュールが実態と大きく乖離している中で、このままでは今後の工事の発注に支障が出ると判断したからです。
北海道新幹線の新函館北斗と札幌の工事区間の211.9キロのうち、およそ80%にあたる168.9キロはトンネル区間です。
このうち、倶知安町とニセコ町にまたがる全長およそ9.7キロの羊蹄トンネルでは、掘削作業中の2021年7月に巨大な岩の塊にぶつかり、3年から4年程度の遅れが生じました。
2030年度末の札幌延伸を実現するにはこうした遅れを取り戻す必要がありますが、先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」の工場建設が千歳市で進められている影響で建設作業員が足りなくなっている上に、建設業界では先月から時間外労働に上限規制が適用されたことから、新幹線工事にかかわる作業員の人手不足が深刻化しています。
北海道新幹線の札幌延伸の時期を巡っては、当初は2035年度がメドとされていましたが、2015年に政府・与党の検討委員会は5年早めることを決め、前倒しに向けて工事が進められてきました。
しかし、工事の遅れを取り戻すのは困難な状況の中で、鉄道・運輸機構としては、このままでは2030年度末に間に合わせるための非現実的な工事を発注せざるを得ない状況に追い込まれていました。
【札幌の再開発や沿線のまちづくりに影響】
北海道新幹線の札幌延伸が遅れる見通しとなったことで、札幌市中心部で相次ぐ再開発への影響は避けられない情勢です。
札幌駅前にあった商業施設「エスタ」の跡地などに建設される再開発ビルは新幹線の駅に直結する計画で、JR北海道は2030年度末までには完成させたいとしていますが、新幹線の札幌延伸が遅れると、オフィスやホテル、商業施設などテナントの誘致に影響が出ることが懸念されます。
札幌市中心部の再開発計画の中には新幹線の札幌延伸を見据えたものも多くあり、現在でも資材価格や人件費の高騰による建設コストの上昇などで計画を見直す動きが出ていますが、延伸の遅れによって採算性に影響が出る可能性があります。
さらに、新たに新幹線の駅が建設される札幌以外の自治体でも、今後のまちづくりへの影響は避けられません。
北海道新幹線の札幌延伸を見据えたまちづくりを進めている自治体からの反発は非常に大きく、道民の生活にも大きく影響するため、国土交通省には延伸時期を早期に示すことが求められます。
【JR北海道の「経営自立」遠のく】
札幌延伸の遅れは北海道新幹線を運行するJR北海道の経営に重大な影響を与えます。
厳しい経営が続くJR北海道は2019年に発表した長期経営ビジョンの中で、2031年度に国から財政的な支援を受けることなくグループ全体の最終的な損益を黒字化する「経営自立」を目指すとしています。
JR北海道が8日発表した昨年度1年間のグループ全体の決算では、国から財政的な支援を受けたことで最終的な損益が33億円の黒字となりました。
今後、国から財政的な支援を受けることなく最終的な損益を黒字化する「経営自立」を達成するためには▽不動産やホテル事業など鉄道以外の事業での収益拡大や、▽赤字が続く北海道新幹線の利用を伸ばすことが不可欠で、新幹線の札幌延伸は「経営自立」の大前提となっています。
JR北海道は今年度からの3年間で国から1092億円の支援を受けることが決まっていますが、札幌延伸の遅れによって国からの支援に頼らざるを得ない期間が延び、目標とする「経営自立」が遠のくことになります。
【並行在来線や鉄道貨物の議論への影響は】
北海道新幹線の札幌延伸に伴ってJRから経営が分離される並行在来線のうち函館と長万部の区間は、北海道と本州を結ぶ鉄道貨物が通る唯一のルートで、廃止されると物流に大きな影響を及ぼします。
このため、国と道、JR貨物、それにJR北海道は鉄道貨物を存続させる方針を示していて、存続に向けた課題を検討する有識者会議は来年度中にも提言をまとめることにしています。
また、函館と長万部の区間の旅客輸送については、沿線自治体と道でつくる協議会が今後のあり方を検討していて、存廃の方針を来年度中に決めたいとしています。
北海道新幹線の札幌延伸の遅れは並行在来線の議論の動向にも影響を与える可能性がありそうです。