函館の特別養護老人ホームで日常的に不適切な身体拘束の疑い

函館市にある特別養護老人ホームで入所者のベッドを柵で囲うなどの不適切な身体拘束が日常的に行われていた疑いがあることがわかり、市は虐待にあたらないか詳しく調査することにしています。一方、施設を運営する法人の理事長は「身体拘束があったことは事実で反省しているが、虐待を指摘されるようなことはしていない」と話しています。

身体拘束をしていた疑いが持たれているのは、函館市にある特別養護老人ホーム「恵楽園」です。
NHKが入手した施設内の画像には、ベッドの柵から両足を出した状態で座らされ行動を制限されている入所者の姿が写っています。
また別の画像からは、下半身をシーツなどできつく巻かれ身動きできない様子でベットに横たわっていたり、ズボンを下ろされておむつ姿で放置されたりしている様子がわかります。
画像を提供した関係者によりますと、写っている人はいずれも認知症をわずらい、抵抗したり意思表示したりすることが困難な入所者で、本人や家族の同意を得ないまま身体拘束が行われていたということです。
関係者によりますとこの施設では、入所者のベッドを柵で囲ったり下半身をシーツやタオルケットできつく巻いたりして身動きを取れなくさせる行為が日常的に行われていたということです。
介護施設などでの高齢者への身体拘束は介護保険法などで禁止されていて、緊急性のあるやむをえない場合に限り認められていますが、施設側で検討した上で本人や家族にも十分説明し理解を求める必要があります。
【施設の関係者は】
ところが、この施設の複数の関係者はNHKの取材に対し、介護スタッフらが本人や家族の理解を得ることなく長年にわたり認知症の入所者を中心に身体拘束を行ってきたと証言しています。
今回、施設で働く職員が匿名を条件にNHKの取材に応じ、身体拘束の実態などを証言しました。
この職員によりますと入所者本人や家族の同意を得ない身体拘束は少なくとも10数年前から続けられ、介護スタッフの大半が関わったということです。
特に新型コロナの感染が拡大した当時は面会が禁止されたことで家族の目を気にする必要がなくなり、身体拘束が日常化したということです。
この職員は「仲間どうしで見て見ぬふりをしていた。人手不足の中、『自分の業務中は動かないでいてほしい』といった自分勝手な考え方をして、入所者がどんな思いをしているか思い至らなかった」と証言しました。
また、認知症の入所者を中心に身体拘束されたことについては、「認知症が重いと人に言いつけることもないので問題が発覚しなかった。介護スタッフにとっては身体拘束した方が仕事が楽になるので、放置してきた」と実情を明かしました。
【専門家は】
介護施設での虐待問題に詳しい杏林大学の長谷川利夫教授は、「ベッドから出られないように周囲を柵で囲むのは明白な身体拘束だし、下半身を縛るようにシーツのようなもので巻くことも身体拘束に非常に近い。こうした行為は身体機能を低下させたり屈辱感を与えたりして、心身にとってありとあらゆるマイナスの要素がある」と指摘しています。
また、長谷川教授は、介護施設などで不適切な身体拘束や虐待があとを絶たない背景に「入所者の世話をしてやっている」という施設側の意識があり、人手不足やけがの予防といった表向きの理由は通用しないと厳しく指摘しています。
その上で、「施設側が誤った考え方にとらわれないためにも、適切なケアを行っている外部の事例など見識を広める機会を増やすとともに、行政も『身体拘束の根絶』を施設側に訴え続けていくことが必要だ」と話しています。
【函館市などの対応は】
函館市も去年、こうした情報を把握したということで、虐待にあたらないか今後、事実関係を詳しく調べることにしています。
一方、施設を運営する社会福祉法人「恵山恵愛会」の菅龍彦理事長は「身体拘束があったことは事実で大いに反省しているが、職員が介護に必要と考えて行ったもので、虐待を指摘されるようなことはしていない。施設を改善していくため今後の市の調査には協力したい」と話しています。