標津町の元職員自殺 町に約8400万円賠償命じる 釧路地裁

5年前に自殺した道東・標津町の元職員の遺族が町に対し1億円余りの損害賠償を求めた裁判で、釧路地方裁判所は「長時間の時間外労働が強度の心理的負荷を生じさせた」として町におよそ8400万円の支払いを命じました。

標津町の元職員、鈴木雄大さん(当時24)が2019年に自殺したことについて、鈴木さんの両親は長時間の時間外労働に加え上司からのパワハラが原因だったなどとして、町を相手取って1億900万円余りの損害賠償を求めていました。
2日の判決で釧路地方裁判所の片山信裁判長は「時間外労働時間は死亡する2か月前において1か月あたり146時間以上だった」と指摘しました。
そのうえで「鈴木さんの業務は強度の心理的負荷を生じさせたと認められ、うつ状態の発症や自殺は業務に起因するものといえる」として、町に対しおよそ8400万円の支払いを命じました。
一方、当時の上司によるパワハラについては「パワハラに該当するような違法な行為があったとは認められない」として原告側の訴えを退けました。
2日判決が言い渡された直後、裁判所の前では原告側の弁護士らが「安全配慮義務違反認める」、「パワハラ認めず」などと書いた紙を掲げました。
原告側弁護団の島田度弁護士は「町側の安全配慮義務違反を断罪し、雄大さんには一切過失がなかったと認められたことは評価できる。一方で、上司のパワーハラスメントについて認められなかったことは残念だ」と述べました。
そのうえで「受け止め方が難しい判決で、今後の訴訟をどうするかは弁護団と原告で協議していきたい」と話していました。

【今回の裁判の経緯】
今回の裁判は、標津町が、過酷な長時間労働でうつ病になった可能性があるとする報告書をまとめた一方、▽過大な業務を抱えた背景など自殺に至った詳しい原因の究明や、▽再発防止策の徹底などを求める遺族側の公開質問状に対し、町が回答を拒否したため起こされていました。

【遺族「防げたはず」】
判決のあと開かれた記者会見で、鈴木さんの父親の省三さんは「上司のパワーハラスメントが認められなかったことは残念で悔しいが、ほかに関しては自分の中ではある程度、満足のいく判決だった」と述べました。
そして、標津町に対しては「(今回の事案は)防ごうと思えばいくらでも防げたと今でも思っている。役場の上の人間に職員一人ひとりを大事にする気持ちがあったら防げたと思う」と述べました。
また、母親の龍子さんは「長時間勤務をさせられたり、一緒に仕事をする同僚や頼れる上司もいなかったりした息子のどこに非があったのかとずっと考えていた。裁判長の口から『非はなかった』と聞き、ちゃんとわかってもらえてよかった」と述べました。
その上で、今回の判決の意義について「公務員やほかの会社勤めの方にとっても職場のあり方を振り返るきっかけになったと思う」と話しました。

【標津町・山口将悟町長のコメント】
判決について標津町の山口将悟町長は「判決の正本が届くのを待って適切に対応してまいりたい」とコメントしています。