能登半島地震1か月 道内でも沿岸部中心に孤立のリスク

発生から1日で1か月となる能登半島地震では、陥没や土砂崩れなどで道路が寸断されて多くの地区が孤立状態となり、救助活動や救援物資の輸送が困難となりました。道内でも海沿いを中心に地震や津波での孤立が指摘されていて、対策が課題となっています。

最大震度7を観測した平成30年の胆振東部地震では、土砂崩れで道路が寸断されて、山あいで複数の地区が孤立しました。
内閣府が平成26年に行った調査によりますと、道内では、▽沿岸部の629の集落のうち、4割にあたる251の集落が地震などの災害で孤立する可能性があるということです。
また、▽内陸部の中山間地域でも3069の集落のうち、1割ほどにあたる292の集落で孤立の可能性があるとしています。
道危機対策課は、「災害時の孤立を一刻も早く解消するため、道路などの被害を速やかに把握して、復旧や救助を急ぐ対応が必要だ。孤立が解消するまで耐えられるように、ふだんから訓練や備蓄を行うなど自助や共助の仕組みを作っておく必要もある」と話しています。

【知床・ウトロでは“地域で孤立対策”】
世界自然遺産、知床の観光拠点となっている、斜里町ウトロ地区では、観光客が多く滞在する中で、地震や津波で孤立することを想定して、住民が主体となって対策を進めています。
1000人あまりの住民が暮らす斜里町ウトロ地区は、世界自然遺産の知床の玄関口となっていて、年間120万人ほどの観光客が訪れます。
ただ、他の地区とつながる国道が334号線しかなく、これまでも暴風雪や高波で通行止めになって孤立したことがあったほか、停電になることもあるため、地区では住民たちが中心となって、災害時の食料や電源設備などの備えを進めてきました。
地区でホテルを経営し、自治会で防災対策を進めてきた桑島繁行さんは、ホテルの建物の中に4台の自家発電機を備え、停電時でも全館の電力をまかなえる態勢を整えてきました。
ホテルは町との協定に基づいて、津波が発生した際の避難施設に指定され、災害時には宿泊客だけでなく、外からの避難者も受け入れることにしていて、従業員向けの対応マニュアルを作成するなどして備えています。
自家発電設備を保有して避難者を受け入れる大型ホテルはほかにも2軒あるということで、ホテルが地区の防災の拠点となっています。
地区では、このほかにも、2軒あるコンビニエンスストアが町との協定に基づいて、災害時に食料など物資を供給することになっているほか、複数のガソリンスタンドが自家発電設備を備えて、停電時にも給油が可能な態勢を整えています。
地区のこうした備えは、胆振東部地震で道内全域が停電した際にも生かされたということです。
地区では平成31年に、自治会が中心となって「地区防災計画」を策定し、津波から避難する際の手順や、食料の調達など地区内での役割分担を定めたほか、避難訓練も定期的に実施して災害への対応力を強化しているということです。
桑島繁行さんは、「知床は世界遺産を抱えているので、住民だけでなく観光客の安全を確保することが責務だと考えている」と話しています。

【ウトロ地区では能登地震受け 対策強化へ】
災害時の孤立対策を進めてきた斜里町ウトロ地区の自治会では、能登半島地震を受けて、新たな避難所の確保など対策の強化に向けて検討を始めています。
地区の自治会では、住民1000人あまりのほか、ホテルの宿泊者などをあわせて、最大で4650人が地区に滞在する可能性があると想定して、避難場所の確保を進めてきました。
ただ、想定した人数をすべて受け入れられるだけの避難場所は確保できていないほか、新型コロナの影響で閉業した宿泊施設などもあることから、自治会では改めて、避難者数の想定や避難が可能な場所の洗い出しを行って、必要に応じて、地区の寺や保育所なども避難場所として利用できるよう働きかけたいとしています。
また、地区にある町役場の支所には職員が2人しかいないため、大規模な災害が起きた際には、避難の必要がない住民や自治会の役員経験者などが支所の職員の業務を支援する態勢づくりも進めたいとしています。
さらに、地区の住民を対象にアンケートを行って、能登半島地震を受けて不安に思う点を聞き取り、さらなる対策につなげたいとしています。
自治会で防災対策を中心的に進めてきた桑島繁行さんは、「能登半島地震の被害はひと事ではないので、避難場所の確保など必要な対策を精査して早急に備えを進めたい」と話しています。

【ウトロ地区の孤立対策 町の対応は】
斜里町は、ウトロ地区の孤立対策として、ウトロ支所にある備蓄倉庫に、食料およそ1200食のほか、毛布240枚や暖房器具などを用意しています。
2015年に定めた町の防災計画では、陸路が使えない場合、ウトロ漁港などを活用して海上から支援物資などの輸送を計画しています。
しかし今回の能登半島地震では、地盤が隆起して港が使えなくなったケースがあり、海上輸送ができなくなる懸念も出てきました。
町では、能登半島地震を教訓に、自治会などと意見交換をしながら防災計画の見直しも進めていきたいとしています。
斜里町役場ウトロ支所の大野信也支所長は「孤立した際の支援の手段や、観光客の命をどう守っていくかについて、自治会と意見を出し合いながら考えていきたい」と話しています。