津波への備え 線路を横断して避難はできる?

津波からの避難についての特集です。道内では、日本海溝と千島海溝沿いで想定される巨大地震と大津波への備えが進められていますが、海沿いの地域の中には、線路があるために、避難に時間がかかる場所も少なくありません。このため、現在は認められていない線路の横断を災害時に限って可能にしようという議論が行われています。室蘭市の現状を取材しました。

室蘭市東部にある日の出町です。
太平洋に面し、ほとんどの場所が津波の浸水域となっています。
道の想定では、この地区にはおよそ40分後に津波の第1波が到達。
高い場所はほとんどなく、素早い避難が求められています。
しかし、山側には札幌や函館に向かう線路があり、避難を難しくしています。
線路の向こう側へ渡れる場所はアンダーパスと橋の2か所のみで、およそ1.4キロ離れています。
線路を避けるために、健康な大人でも最大で10分程度移動しなければなりません。
地区の町内会で役員を務める、橋本正敏さん(74)は、線路を渡って避難することが多くの人の命を救うことにつながると話します。
町内会ではおよそ10年前から、緊急時には線路を横断して避難できるようにしてほしいと訴えていました。
ただ、JR北海道は、列車が走行している可能性があり、法律上、認められないという立場でした。
そこで、ほかの町内会とも連携しながら繰り返し市に要望書を提出。
市も、同じような課題を抱える近隣の自治体とともに国への働きかけを行いました。
その結果、去年10月、国は災害時の線路の横断は、罰則に該当しないとの解釈を示しました。
これを受けて、JR側も自治体との協議に応じる方針に転じました。
室蘭市防災対策課の武田学課長は、「津波対策ということでかなり前進していくものとすごく期待している。地域としてどこに線路の横断ができる、したいところがあるのか、要望や、聞き取り、調整から進めていく」と話しています。
橋本さんの町内会では会議を開くなどして、室蘭市とJRの協議に向けて準備を続けています。
橋本さんは、「準備をしっかり整えて、いざ災害が起きたとき、できれば1人の犠牲者も出さない、そのような体制を作れたらいいと思っている」と話し、今後、具体的にどの場所からどのようにして横断するかなど、安全を確保するための対策を市とともに検討するなどして、線路を横断しての避難の実現につなげたいとしています。
【解説】
取材した室蘭放送局の小林記者の解説です。
Q1:線路を横断しての避難に向けて、どういった点が焦点となるか?。
A1:いかにして安全に避難できる仕組みを作ることができるかです。
今後、どの地点から横断を可能とするかや、列車が動いている可能性があることから、どのように安全確保のための情報をやりとりしていくのかなどを検討していく必要があります。
室蘭市は、まずは町内会と避難ルートなどの調整をしたうえで道や国とも連携しながらJR側との協議に臨む方針です。
Q2:こうした動きは、ほかの自治体にも広がっているのか?。
A2:海沿いに線路があるほかの自治体でも検討が進められています。
すでに、道東の厚岸町や室蘭市の隣の登別市がJR側に協議の申し入れを行っていて、できるだけ早く実現したい考えです。
これに対し、JR北海道の綿貫社長は「地域住民の命に関わることで大きな問題だと思っている。地域と話し合いを進めてよりよい方策を見いだしたい」としています。
能登半島地震では、津波による被害が出ており、改めて津波への備えの重要性が浮き彫りとなっていて、今後、災害時の線路横断をめぐる議論が活発になりそうです。