直木賞に河崎秋子さんの「ともぐい」 別海町出身

第170回、芥川賞と直木賞の選考会が17日、東京で開かれ、直木賞に道東・別海町出身の河崎秋子さん(44)の「ともぐい」が選ばれました。

河崎さんは、道内の大学を卒業後、ニュージーランドに留学して1年間、羊の飼育を学び、帰国後、酪農を営む実家で働きながら執筆活動を始め、デビュー作の「颶風の王」で三浦綾子文学賞を受賞するなど複数の作品で文学賞を受賞しています。
2019年からは作家としての活動に専念し、直木賞はおととしの「絞め殺しの樹」以来、2回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「ともぐい」は、明治時代後期の道東を舞台に、人里離れた山の中でひとり野生の動物を撃って暮らす猟師の物語です。
どう猛なクマと、執念深く追い続ける猟師との命を奪うか奪われるかの激しいせめぎ合いが臨場感あふれる描写で表現されているほか、時代が移り変わる中、人間的な暮らしと獣たちの生きざまの間で揺れ動く猟師の生涯が骨太に描かれています。

【河崎さん「地に足つかず」】
河崎さんは「喜びの渦に巻き込まれて、地に足が着いていない状態です。北海道にはこれまでに芥川賞や直木賞を受賞した作家がたくさんいて憧れていたので、本当にうれしく思います」と受賞の喜びを語りました。
今回の作品については「北海道の農家で生まれ、冬の寒さや熊が出そうな場所の感覚は自分の五感で感じ取っていて、そうした経験を先人が残した文章や言葉と結び付けて、物語で再現した」としたと語りました。
そして、今後については、「子どもの頃から道東の端っこで暮らしていて本を読むのが一番の娯楽で、本を通して世の中を知るということをずっと経験して育ってきたので逆に自分が書く側にまわり、自分が子どもの頃に感銘を受けたように、読んでくれた人の心に何かを届けられたらいいなという風に思っています」と語りました。
河崎さんは、能登地震についてもふれ、「元日から地震もあるなか小説で何ができるのか襟を正して考えていきたい。北海道を題材にまだ書きたいものがあり、より深く広い小説が書けるように頑張っていきたい」と話していました。

【別海町長「大きな喜び 大変誇らしい出来事」】
河崎秋子さんの「ともぐい」が直木賞に選ばれたことを受けて、出身地である道東の別海町では曽根興三町長が町のホームページにお祝いのメッセージを寄せました。
曽根町長は、町のホームページに今回の受賞決定を受けて、「町民を代表し、心よりお祝い申し上げます。河崎さんを『別海町の小説家』として身近な存在と感じてきた別海町民にとって今回の受賞は大きな喜びであり、大変誇らしい出来事と感じています」とお祝いのメッセージを寄せました。

【講評「非常にレベルが高い選考会に」】
直木賞の選考委員で作家の林真理子さんはリモートで会見に応じ、河崎秋子さんと万城目学さんの作品が選ばれた過程について、「河崎さんの受賞が先に決まり、残り2作、万城目さんと嶋津さんで決選投票を行った結果、万城目さんに決まりました。非常にレベルが高い選考会となり、時間がかかりました」と説明しました。
その上で河崎さんの「ともぐい」について「圧倒的な文章力で計算が行き届き、自然描写がすばらしい。自然と近代との対立、オスとメスとの対立というさまざまな対立が表現されていて、文章の迫力にとにかく圧倒されました」と評価しました。
また、万城目さんの「八月の御所グラウンド」については「エンターテインメントの一種の理想型で特別なことを書いているとか、奇をてらっている訳ではなく、普通のことを書いて感動がある小説を書くということは非常にすごいことだという意見が出されました。日常の中に非日常がふわっと入り込んでくる絶妙さとバランスの良さがすばらしく、ベテランの強みを見せる絶妙な文章だと高く評価されました」と話しました。
このほか、2つの作品が直木賞に選ばれている近年の傾向について問われると、「いい作品がなかったから2作で埋めようという形ではなく、レベルが高い作品を落とすことをやめようという意味で2作を選んでいます。選考委員では、どちらも落とすことができないのであれば2作を受賞させるという考え方を貫いています」と説明しました。

【札幌市内の書店の特設コーナーに積み増し】
第170回直木賞に、道東・別海町出身の河崎秋子さんの「ともぐい」が選ばれたことを受けて、札幌市内の書店では特設のコーナーに受賞が決まった本が積み増しされました。
札幌市の大型書店では、毎年、芥川賞と直木賞の選考会が行われるこの時期に、候補作を紹介する特設コーナーを設けています。
17日、河崎さんの作品が直木賞に選ばれたことを受けて、書店では急きょ「ともぐい」の本を積み増す対応を取ったほか、目立つ場所に並び替える作業を行いました。
また買い求める客が増えることを見越して出版社に数百冊を新たに発注したということです。
MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店の伊藤樹里さんは「受賞が決まった瞬間、やはり選ばれたかという納得感があった。人間と野生動物の関わりを臨場感あふれる表現で描いてきた河崎さんらしい作品で受賞したことはうれしい。北海道の書店として北海道の作品が受賞したことは誇らしく、北海道の方にこそ手に取っていただきたいです」と話していました。