冬季五輪パラ 38年大会も招致困難 札幌市 方針変更へ

冬のオリンピック・パラリンピックの今後の開催について、IOC=国際オリンピック委員会は、2030年大会と34年大会の候補地をそれぞれ一本化し、38年大会についても、スイスと優先的に対話を進めることを決めました。札幌市は、34年以降の大会招致を目指すとしてきましたが、今後、どのような方針を示すのかが焦点になります。

冬のオリンピック・パラリンピックをめぐって、札幌市は先月、2030年大会の招致を断念し、34年以降の大会招致を目指す方針に転換しました。
こうしたなか、IOCは、日本時間の30日、理事会を開き、2030年大会はフランスのアルプス地域、34年大会はアメリカのソルトレークシティーにそれぞれ候補地を一本化することを決めました。
これにより、候補地は事実上決まったことになり、札幌市が目指すとした34年大会招致の可能性はなくなりました。
また、IOCは、2038年冬の大会についてはスイスと優先的に対話を進めることも発表しました。
札幌への招致活動を行ってきた関係者の間では、34年までの2大会について、候補地が絞られることは想定されていましたが、IOCが38年大会についても、有力な候補としてスイスをあげたことは、驚きをもって受けとめられています。
札幌市の秋元市長は、今月27日の記者会見で、「38年以降となると、今の計画の想定から大きく変わることになる」と述べていましたが、38年大会の招致も困難になったことで、札幌市がどのような方針を示すのかが焦点になります。
【五輪招致のこれまで】
1972年、札幌市はアジアで初めてとなる冬のオリンピックを開催。
大会開催を契機として、地下鉄や道路網などが整備され、現在の札幌市の骨格が作られました。
冬のオリンピックを成功させ、国際化を急速に進めたことは、多くの市民の誇りとなりました。
それから40年あまりがたった2014年。
札幌市は再び大会招致を目指す方針を表明しました。
しかし、新型コロナの感染拡大などがあり大会招致の機運は高まりませんでした。
去年3月、市民1万人を対象にした郵送による意向調査では、賛成が52%あまり、反対が38%あまりと、意見が割れました。
さらに、2021年夏の東京大会をめぐる不祥事が去年7月以降に次々と発覚。
大会招致には逆風となり、市民などから厳しい目が向けられました。
招致へのPR活動が止まったなかで行われたことし4月の札幌市長選挙で、招致推進を掲げた秋元市長が3回目の当選を果たしました。
しかし、市民などの間で大会招致の支持は広がらず、秋元市長は先月、2030年の招致を断念し34年以降を目指す方針を示しました。
札幌市の招致活動が止まったなかで示された今回のIOCの決定。
札幌市はさらなる方針の変更を迫られています。
【札幌市民の反応は】
2030年と34年大会の候補地が事実上決まり、38年大会もスイスが有力な候補となり、札幌市が方針の転換を迫られる状況になったことについて、市民からはさまざまな意見が聞かれました。
札幌市中央区に住む60代の男性は、「反対していた人もいてあやふやな部分も多くあったので、しかたないと思います。札幌でいまやるべきなのか、もう一度考え直してほしい」と話していました。
また、西区の50代の男性は、「開催はなくてもいいのかなと思います。税金の使い方など、市民の生活に寄り添った問題にまずは向き合ってほしい」と開催に反対する意見を述べていました。
一方、札幌市での大会開催を期待する声も聞かれました。
北区の70代の女性は「東京オリンピックの問題なども解決しておらず、財政面を考えても、開催はいまでなくていいのではないかと思います。ただ、前回の札幌大会では、道内の選手が活躍する姿を見てうれしかったので、態勢を整えて再度、招致に向けて取り組んでほしい」と話していました。
中央区の40代の男性は「札幌でオリンピックを見てみたいので、大会招致に向けてがんばってほしいです。ただ、未来はどうなっているかわからない部分もあると思う」と話しました。
【札商会頭「率直に悔しい」】
道内の経済団体や競技団体などでつくる「冬季オリンピック・パラリンピック札幌招致期成会」の会長を務める札幌商工会議所の岩田圭剛会頭は「これまで札幌の経済界として一丸となって招致に取り組んできた立場としては率直に悔しい思いだ」とコメントしています。
その上で「札幌として2回目のオリンピック、そして初めての開催となるパラリンピックがもたらす効果は、経済のみならずハード・ソフト両面において計り知れないレガシーになっただろう。札幌はおよそ200万人が住む大都市でありながらも、年間積雪が5メートル近い世界的にもけうな都市だ。この雪を有効に活用し、将来のまちづくりや観光に生かしつつ、ウインタースポーツシティー札幌を世界にPRしていくために、引き続き札幌市と協議していく」などとしています。
【JOC「招致活動続けたい」】
札幌市とともに冬のオリンピック・パラリンピックの招致活動を続けてきたJOC=日本オリンピック委員会の尾縣貢専務理事が30日午前、都内で報道陣の取材に応じました。
尾縣専務理事はIOCが2030年と34年の2大会同時の候補地一本化だけでなく、38年大会の候補地としてスイスと優先的に対話を進めると発表したことについて想定していなかったと明かしました。
招致活動がより厳しさを増した点を踏まえ、「2030年、34年の線が消え38年の大会についてもわれわれは当分の間、対話ができない状況となった。38年以降の招致活動をどうするのか、札幌市としっかり協議したい」と話しました。
また招致を目指せる大会が早くても2038年と見込まれ長期化が懸念されるなか、今後も招致活動を続けるべきかどうかJOCの考えを問われた際には「私たちとしては常に招致活動をなんらかの形で行っていく気持ちはある。地道に活動を続けたい」と答えました。
そのうえで「後ろ向きに捉えるのではなく、この間にどういったオリンピックムーブメントができるのか、あるいはオリンピックに対する国民の理解と支援を求めるべくいろんな活動を続けていきたい。当然ながら大会のあり方についてもこの機にしっかりと考えないといけない」と話していました。
【フランス・アルプス地域とは】
フランスで2030年大会の招致を目指しているのは、東部のオーベルニュ・ローヌ・アルプと南東部のプロバンス・アルプ・コートダジュールのともにアルプスの地域圏で、アルプス山脈の最高峰モンブランのふもとに位置する県を擁することから、ヨーロッパでも有数のスキーリゾート地が数多くあります。
このうち、オーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏では、過去に3回、冬のオリンピックが開催されていて、今回の招致計画では2つの競技拠点が設けられ、アルペンスキーやクロスカントリースキーなどの競技が行われる予定です。
また、プロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏はアルプスに面する県がある一方、南側は地中海に面していて、ラグビーやサッカーが盛んな地域としても知られます。
計画ではこちらにも2つの競技拠点が設けられ、ニースではフィギュアスケートやカーリングなどが実施されて選手村も設けられる予定です。
フランスアルプスでは、温暖化の影響で雪資源や氷河の減少が進み、比較的標高の低い場所にあるスキー場が相次いで閉鎖されるなど深刻な問題となっていて、招致計画のビジョンには「地球温暖化の課題を考慮し、山岳地域とスポーツの避けることのできない革新を加速させる持続可能な大会」と環境問題への配慮が掲げられています。
フランスでは、夏は1900年と1924年のパリ大会を開催しているほか、来年には3回目となるパリ大会を予定しています。
冬は、1924年に最初の冬のオリンピックとして開催されたシャモニー大会、1968年のグルノーブル大会、1992年のアルベービル大会の3回開催されています。
【ソルトレークシティーとは】
アメリカのソルトレークシティーはロッキー山脈の西側に位置する内陸のユタ州の州都です。
鉱業や農業が盛んで、海抜1300メートルを超える高地にあり、冬場はアメリカでも人気のスキーリゾートとして賑わいます。
2002年の冬のオリンピック・パラリンピックの開催地であることから、招致活動では大会運営の実績とともに、既存の施設を活用した低コストな大会を前面に押し出してきました。
また、地元メディアが行った世論調査でオリンピック開催に対する住民の支持がおよそ80%に上るなど、機運の醸成が進んでいることも追い風となっていました。
一方で、アメリカ国内では2028年に夏の大会がロサンゼルスで開かれることからアメリカのオリンピック・パラリンピック委員会は「スポンサー集めや商業活動が複雑になる」として2030年大会だけでなく34年大会の開催も視野に入れて招致活動を進めてきました。
アメリカでは、夏は1904年のセントルイス大会、1932年と1984年のロサンゼルス大会、1996年のアトランタ大会を開催しているほか、2028年には3回目のロサンゼルス大会を控えています。
冬は、1932年と1980年のレークプラシッド大会、1960年のスコーバレー大会、2002年のソルトレークシティー大会をそれぞれ開催しています。