クマの駆除推進で道が支援策 ハンターの現状と課題は

全国で相次ぐクマの被害。今月、道南の大千軒岳では、登山中だった22歳の男子大学生が遺体で見つかり、その後の調査でクマに襲われたことがわかりました。こうした中、28日開会した定例の道議会で道は、一般会計の総額で107億円あまりの補正予算案を提出しました。この中には、被害が相次いでいるクマの駆除を推進しようと道として初めて、ハンターへの支援策を盛り込みました。

具体的には、来年2月以降、冬眠中のクマなどを駆除する「春期管理捕獲」を進めるため、▼ハンターの出動経費や報奨金のほか、▼弾薬などの必要な資材、それに▼ハンターを育成するための研修など市町村が行う支援策を補助する費用に1500万円を計上しています。
【ハンターの支援 道の狙いは】
道がハンターの支援にかじを切った背景には、クマによる被害が過去最悪のペースで増え続けるていることがあります。
昨年度、ヒグマによる道内の農作物などへの被害額は、2億7100万円と前の年より900万円増加。
人が襲われる被害や目撃情報も相次いでいます。
【年々増える出動要請 現場のハンターは】
27日、札幌市の定山渓では、山林の測量作業を行う作業員がクマに襲われないよう、銃をもったハンターが同行しました。
自治体などは、山の中で実施する業務のほか、クマの駆除を行うときなどに、ハンターに出動を要請します。
札幌市でクマの駆除を行う「防除隊」の隊長を務める玉木康雄さんは、クマの被害や目撃情報の増加にあわせて、出動要請も年々増えていると話します。
「山間部の護衛の仕事ももちろんですが、緊急捕獲案件が非常に多い。札幌の市街地、クマがいて困るエリアに多数の出没件数があり、出動は過去に例を見ないくらいです」
ことし4月から今月までに、札幌市で活動する防除隊に寄せられた出動件数は、175件。
最も多い月では38回で、1日に1回以上、出動する頻度です。
ときに人の命を奪うこともあるクマへの対処は、ハンターにとって負担が大きく、高度な技量と経験が求められるため実技試験などを通過する必要があります。
【高齢化で若手の育成が課題 別の課題も】
札幌市の猟友会では、所属する600人のうち、クマを駆除できるハンターは30人ほど。
出動できる人数には限りがあり、高齢化も進む中で、若手の育成が課題になっています。
さらに、別の課題も抱えています。
それが金銭面の負担で、ハンターの出動には、銃や弾薬、プロテクターや通信機材のほか、山への移動に伴うガソリン代などが必要となります。
出動経費や成功報酬を支給している市町村は一部にとどまっていて、ことしの春に行われた冬眠中のクマなどを捕獲する「春期管理捕獲」で、こうした経費を支援したのは、道内の179市町村のうち、わずか7市町村です。
多くの場合、社会に貢献したいというハンターの気持ちに頼っているのが実情です。
玉木さんは、今回の道の補助をきっかけに支援策が広がることを期待しています。
「クマと実際に山の中で遭遇して、捕獲するという経験を積むにもハンターになってから、10年、20年と山の中に入って、何回できるかというレベルです。地域の若手のハンターを育ててくれることまで考えると報奨金というのは、北海道全域にまんべんなくいきわたることを願っています」。
【専門家「ハンターの育成は待ったなし」】
道総研の釣賀一二三・自然環境部長は今回の道の補正予算案は、市町村がすでに行っている支援策の補助にとどまっていて、効果は限定的だと指摘しています。
「昔はヒグマの毛皮などを販売すれば、それなりのお金になったが、そういったことも最近では無くなってきている。どの地域でも、ハンターが地域の抱えている問題をなんとかしようと、ボランティア的に活動しているのが実態だ。予算が付くことで、ハンターの数が増えるわけでもないし、状況に大きな変化が出るものではない」。
釣賀部長は現状のハンターの人数で増加するクマに対応するには限界があり、育成は待ったなしの課題だとした上で、複数の市町村で支援策の財政負担や人材育成を進める「エリア戦略」が欠かせないとしています。
「市町村の中にはハンターがいない地域も出始めている。地域で恒常的に獣害対策に携わる人材や体制を構築するためには、複数の市町村がまとまって1つの共有のポリシーを持つことが必要だ。例えば、その束ね役として、道に14ある振興局単位で人材を育成していく必要がある」。
ほとんどのハンターが本業の仕事を抱える中で、急な出動要請に応じることは難しく、専門家からは今後は道や市町村の職員の中からハンターを育成する必要があるという声もあがっています。
クマの被害が相次ぐ中、単なる金銭的な支援だけにとどまらず、ハンターのなり手をどのように確保するのか具体的な対策が求められています。